07 状況の悪化





 いじめは、ますますひどくなった。


 持ち物や制服はすぐにボロボロにされるので、〖非所有者接触不能〗  ドント・タッチ・ミー  の魔導術符を構築し、持ち物すべてに刻みこんだ。


 階段を歩けば突き落とされるので、〖飛翔〗 フライ の魔導術符を持ち歩いた。突き落とされるふりをしてこっそり〖飛翔〗 フライ し、怪我を最小限におさえる作戦だ。


(自衛しても自衛しても追いつかない……)


 それでも、アイザックとロニーは変わらず一緒に居てくれた。


 アイザックは放課後毎日、魔導力を効率的に上げるための訓練をしてくれた。正確な魔導力は測れないけれど、徐々に力がついてきている感覚はある。


 ロニーも、初めの頃とは打って変わって、よく話しかけてくれるようになった。ロニーなりに気にかけてくれているのだろう。


(なにかに夢中になっていれば、いやなことも忘れられる。ふたりのおかげで、ここに居られる)


 ただふつうに話ができること。

 今の私には、それが心底ありがたかった。





 午前最後の授業は、実践魔導術。高等部においてメインとなる授業だった。


 屋外演習場で行われる今日の授業は、魔導術操作。


「具現化した魔導術を放ち、すべての輪を通過させて的に当てること。

 魔導術は5属性であればなんでもかまわん。では、始め!」


 生徒たちは順に、課題に取り組む。

 操作が不安定だと輪から外れたり、途中で魔導力切れを起こしてしまう。


「王子殿下はさすがね……! 最短時間で的にたどりついたわ」

「マオーナ様の魔導力操作も素晴らしいわ、どうやったらあんなに細やかな操作ができるのかしら……!!」


 ⅠクラスでSランクなのは、王子モトオ真音那マオーナのふたりだけ。やはりふたりの操作技術は群を抜いている。


「ヨキオットのふたりもさすがね……あの方たち本当に、何者なのかしら」


 アイザックとロニーはAランクながら、操作には長けていた。

 《近寄りがたい》という意味でクラスメイトからは一線を引かれてはいるものの、一目置かれる存在ではあった。


「次、アイリス・ウィンラット!」

「はい!」


 アイザックに「ガンバレ」と背中を押され、前に出る。


 私が適正とする大気属性は、他の属性に比べると強力な魔導術は使えない。

 そのかわり、風、雷、光など広範囲の術を扱うことができる。操作が上達すれば応用的に水、火の術も扱うことができるようになる。


(今回は得意の雷で……)


 頭の中でシミュレーションをして、両手をかざした。

 手掌に魔導力を集約し、雷玉として前方に放出する。


 瞬間、バチッ!! と、大きな音が鳴った。


(えっ?!)


 私が放った雷玉は見えない壁のようなものに当たり、跳ね返った。


 跳ね返った雷玉は弾けとび、周囲で見ていた生徒達のもとへちりぢちに跳ね飛んだ。ここまで分裂すると、私の方では制御はきかない。


「「「〖防壁ガード〗!!」」」


 何人かの声が、重なった。

 少なくとも、私、アイザック、ロニーの3人が瞬間的に術を唱え、生徒たちの前に壁をつくった。


 壁にあたった雷は、地面をビリビリと伝い走り、やがて消失した。


「ア、アイリス・ウィンラット!! 一体これは、どういうことだ……!!」

「あ、あの……」


 先生にまともに返答できないほど、私は混乱していた。

 周囲を見回し、まず誰も怪我をしていないことを確認してほっとする。


「Cランクでももっとまともに操作できるぞ!!」

「センセ、違う。〖魔導反射リフレクション〗、された」

「な、なにを……!」


 そして、アイザックが代わりに返答してくれた。

 先生はその言葉で、ようやく状況を理解したようだ。


「じゅ、授業は中止! 皆、教室に戻るように!!

 アイリス・ウィンラットは、ここに残って……」

「おれも、残る。おれ、もぐけきしゃ  目撃者  

「あ、ああ、勝手にしろ」


 先生は戸惑った様子で、アイザックの言葉に頷いた。





 それから学院の先生たちが集まり、状況の確認が行われた。

 単なるいじめの枠をこえ、他の生徒たちが危険に晒されたことで、ようやく学院が動いたのだ。


 魔導痕跡を追ったものの、痕跡は見事に隠蔽されていた。

 〖魔導反射リフレクション〗を発動した者の正体は、結局わからなかった。


「アイリス・ウィンラット。しばらくは、実践魔導術の授業への参加を控えなさい」

「なんデ! アイリス、悪くナイのに」

「生徒たちを危険に晒すわけにはいかない。もちろん、アイリス・ウィンラット本人もだ」


 アイザックは抗議してくれたけれど、私もそれが無難だと理解していた。


 授業に出られない代わりに、先生たちは個別に時間をとって指導してくれるとまで言ってくれた。

 私ひとりがわがままを通すわけにはいかない。「先生の指示に従います」と、頷いた。





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