第16話

 瑠果と口を利かなくなってから2週間が経とうとしていた。

 喧嘩をしているわけではないので、必要事項があったらたまに喋りはするけど……。

 会話の数は極単に減った。

 あと、昔みたいに優しく笑いかけてくれなくなった。

 前は私を見ると幸せそうに蕩けた笑みを見せてくれていたのに、今では誰に対しても向ける貼り付けたような笑みだけ。


 こんな状況になって、以前は私をどれだけ特別扱いしてくれていたのかがわかった。

 その時は全然意識していなかったのに、『みんなと同じ扱い』がここまで寂しい気持ちを抱かせるなんて……。


 瑠果と前みたいに喋りたい。

 私を見て嬉しそうに微笑んでほしい。


 ――なんて、今となっては高すぎる望みなのかな。


 なんでこれまで全く気付かなかったんだろう。

 瑠果と一緒にいることが当たり前すぎて、その幸せに気付かなかった。

 瑠果とのお喋りは面倒な時もあったけど内心楽しかったんだ。

 休日もほとんど瑠果と過ごしていたから、1人じゃどう過ごしたらいいかわからなくなってしまった。

 こうやって独りぼっちになってようやく気付くとか、ほんと馬鹿だよね。


 でも、今更この気持ちに気付いたって遅い。

 素敵な男性に成長してしまった瑠果は、もう私なんて相手にしないだろう。


 はあ……。


「梨紗ちゃん! また溜息ついて……だから三波くんに気持ち打ち明けようよぉ!」

「委員長……だって私なんか……」

「大丈夫だよ! 梨紗ちゃんは十分素敵な女の子なんだから! 自信持って!!」


 陰鬱とした面倒くさい私をめげずに励ましてくれる委員長。

 瑠果と話さなくなってから、とても良くしてくれるようになった。

 独りぼっちで寂しい私をお昼ご飯にも誘ってくれる。

 天使みたいな子だ。


 でも、少し前までは切なそうに見てくるだけだったのに、ある日を境に『三波くんと話そう!』とゴリ押ししてくるようになった。

 彼女に何があったのかはわからないけど、きっとうじうじと悩んでいる私を見飽きたのだろう。


 私だってこんな自分嫌だ。

 だけど、勇気を出して瑠果に話しかけたところでまた拒否されたら……って考えるとどうしても一歩が踏み出せない。


 チラリと瑠果を見ると、クラスメイトの男の子達と楽しそうに談笑していた。

 前までは友達より私優先だったからちょっと新鮮だ。

 でも、私に向けてくれる笑顔の方がもっと――ハッ!

 ダメだこんな考えやめなきゃ。

 いくら考えてもこの先笑いかけてくれないんだったら意味がない。

 むしろ考えれば考えるだけ惨めになるだけ。

 こんな未練がましい気持ち捨てた方がいいのかもしれない。


 ――その時、ふと視線を感じたので下げていた頭をまた前に戻す。

 すると向いた先には、先程まで私が見つめていた相手、瑠果がいた。


「……ッ!」


 2週間ぶりに、目が合った。

 今まで私がどんなに見つめても決して交わることのなかった視線。

 業務連絡をする時でさえ目が合わないのは最早違和感しかなくて、私が避けられているのは一目瞭然だった。


 でも何故か今は、視線が合わさったまま動く気配がない。

 無表情な瑠果が何を考えているかわからなくて、こちらの方が逸らしてしまいたい衝動に駆られる。


 ……だけど、ここで逃げたら負けな気がする。

 委員長にもあれだけ励ましてもらったんだし、あと1回だけ勇気を出してみようかな……。

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