第9話
睨むだけでは飽きたらず、瑠果の口は彼女達を更なる恐怖へと陥れる。
「なんでいちいち俺がお前らの要望聞かなきゃなんねぇんだよ。しかも直接言ってくるならまだしも梨紗に言うとはな。……殺されたいわけ?」
「わ、私達そんなつもりじゃ……!!」
「ご、ごめんなさい……」
「うう……ぐすっ……」
ついには、泣き出してしまった女の子達。
女の子に向かってそんな恐ろしい言葉を発するなんて……。
……ちょっと甘やかしすぎたみたいね。
「瑠果」
「……なに?」
わざと声を落として瑠果を呼ぶと、敏感に感じ取った瑠果が少し警戒しながらこちらを見る。
「女の子泣かせるなんて最低。謝って」
「は? なんで俺が……」
「謝って」
「……」
何か言いたそうにした瑠果。
だけど、私が意思を曲げる気がないと悟ったのか、諦めたように溜息を吐いて女の子達に向き直った。
「……さっきは言い過ぎた。……悪い」
「えっ、いや、私達も……!」
「羽咲さん巻き込んでごめんなさい!」
「みんなの三波くんは諦めます……」
瑠果が謝ったことで余計罪悪感が増したのか、女の子達は私にも謝罪してそのまま駆けていった。
つん、と袖を引っ張られて後ろを振り向けば、期待を瞳に宿した瑠果が上目遣いで私を見ていた。
はぁ……ほんと調子良いんだから。
「ちゃんと謝って偉いね」
「……ん」
でも、なんだか可愛く思えてしまって頭を撫でてやると、瑠果は猫みたいに甘えて擦り寄ってきた。
ぐっ……これは反則じゃない?
あんなに悪態ついてた瑠果が甘えてくるなんて……。
猛獣を手懐けている気分になる。
ま、まあ? こういうのは悪くないのかも?
だけど……。
「瑠果、やっぱり不良はやめて」
不良はなんとしてでもやめさせないと。
私が恥ずかしくなるからだけではなく、周囲への態度が酷すぎるから。
元の王子様にまで戻ってほしいとは思わないけど、もうちょっとだけ穏やかになってほしい。
「……なんで?」
「さっきみたいにまた違う女の子から瑠果について言われたくないから」
「……それは、俺がなんとかする」
「どうやって?」
「……」
「それに、瑠果が怖くて直接話しかけれない人がいちいち私のとこに来るのが面倒なの」
「……」
「不良やめないなら、もう瑠果とは話さないから」
「……ッ」
よし、ここまで言えばわかってくれるでしょう。
あんなに私のことが好きなんだから、私と話せないのは嫌なはず。
「……わかった」
狙い通り、今までの抵抗が嘘みたいにあっさりと承諾した瑠果。
ほっと息を吐く。
これでやっと前みたいに過ごせるのね。
――そう思っていた私は後日知ることになる。
今まで瑠果という存在を、いかに軽視していたか。
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