第8話

 学校内は瑠果の変化に早くも順応しつつある。

 以前と比べれば瑠果に話しかける人は減ったけど、“不良の王子様”と陰では持て囃しているようだ。

 なんだ、不良の王子様って。矛盾しまくりじゃない?

 顔が良ければなんでも王子様に見えるのだろうか?


 そう思ったけど、どうやら私だけには優しいところからそう呼んでいるらしい。

 確かに女の子にとって自分だけに優しくされるのは悪い気分じゃないだろう。


 だけど、私は別。これでは私までセットで注目されてしまう。

 瑠果が勝手に注目を浴びる分にはどうでもいいけど、私を巻き込まないでほしい。



 だって……ほら。

 以前の誰にでも優しい時とは違い、私だけを特別扱いすることでこういう面倒ごとが発生してしまう。


「羽咲さんだけずるい! 三波くんはみんなのものだったのに……!!」

「もうこの先一生笑いかけてもらえないなんて……生きていく自信がないわ……」

「ワイルドな三波くんも素敵だけどやっぱりキラキラ王子様な三波くんが良かった……」


 中庭に呼び出されたかと思えば、悲痛な顔で嘆きだした女の子3人組。

 どうやら彼女たちは不良の王子様ではなく元の純粋な王子様である瑠果が好きだったようだ。

 まあ、優しい男が好きなら今の冷たい瑠果では癒されないでしょう。


 ほらね、普通の反応はこんな感じだ。

 生徒のほとんどが順応しているからビックリしたけど勿論順応できない子だっている。

 私だってできるものなら元の瑠果に戻ってほしいけど、残念ながら全く言うことを聞いてくれないのだ。


 何て言おうかと困り果てていると、女の子達の背後から見慣れた姿が現れた。


「おい、お前ら俺の梨紗に寄ってたかって何してんだよ」

「み、三波くん……!」


 怠そうに歩いてきたのは瑠果だった。

 だけど視線は鋭く、女の子達を睨みつけている。

 3人とも大人しそうな子なので不良への耐性はないのだろう。完全にびびってしまっているのか足が震えている。


「瑠果、そんなに睨まないでよ。可哀想でしょ」

「だって梨紗困ってたろ」

「うん。瑠果のせいでね」


 注意されたのが心外だったのか、目で訴えてくる瑠果にぴしゃりと言い放つ。

 すると瑠果は不思議そうに首を傾げた。その様子じゃ思い当たることが全くないのね。


「俺のせいって何が?」

「今の不良な瑠果が嫌なんだって。元の王子様に戻してって私にお願いしに来たの」

「はあ?」


 事の経緯を聞いて、眉間に皺を寄せた瑠果がジロリと女の子達に視線を向ける。

 たまらず彼女達は「ひっ……」と声を漏らした。

 あーあ、余計怖がらせてるじゃない。

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