第7話

 瑠果に不良を辞めてもらうよう説得しようと意気込んで早2週間。

 その成果は――


「み、三波くん、数学のプリント回収したいんだけど……」

「……」

「み、三波くん……?」

「……」

「え、えっと……」

「……はぁ。瑠果、プリントちょうだい」

「ん」


 学級委員長が次の授業の課題であるプリントを回収しようとまだ提出していない生徒を対象に回っていたところ、私に引っ付いている瑠果のところへやってきた。

 が、一向に見向きもしない瑠果に困り果てている委員長を見かねて助け舟を出してやる。

 私が喋りかけると瑠果は何とも短い返事をして私にプリントを手渡した。


 直接委員長に渡してよ……と思いながらも委員長に「態度悪くてごめんね」と何故か私が謝ってプリントを渡す。


「ぜ、全然大丈夫! えっと、お幸せに、? ね!」


 怒ってもいいはずなのに、委員長は意味不明な言葉を言い残してパタパタと次の未提出者のもとへ駆けて行ってしまった。


「ちょっと瑠果、私以外の人にも返事してよ」

「やだ」


 着席している私をバックハグする形で頭の上に自分の顎を乗っけている瑠果。

 この体制が気に入ったのか休み時間に入ってから微動だにしない。

 おかげでクラス中の人からチラチラとチラ見のレベルを越している頻度で見られて鬱陶しい。


 説得しようと試みたのはいいけど、結局何も変わらなかった。

 なんなら2週間前より酷くなっている。

 数ある悪態の中でも私以外の人を無視するのはやめてほしい。

 さっきみたいに困った顔で助けを求められるのは私だ。

 なんで私が瑠果の尻拭いみたいなことをしなくてはいけないのよ。

 これじゃあ不良っていうより駄々っ子じゃん。


 それに今日はずっと引っ付いているし……近くで喋られると声が耳にダイレクトに響いて恥ずかしくなるんだけど!


「ちょっと! いい加減離れて!」

「やだ」

「なんでよ! 言うこと聞きなさい!」

「顔を真っ赤にしている梨紗が可愛いから離れない」

「っ! な、真っ赤になんてなってない!!」


 何をデタラメ言って……!

 た、確かにさっきから顔が熱いなとは思ったけど!

 室温が高いからだし! 誰でもいいから冷房つけて!!


 このままじゃいけないと無理やり引き剝がそうとしたら、丁度数学の先生が姿を現した。

 チャイムも同時に鳴ったため立っていた生徒たちが戻り始める。

 瑠果もチッ……と舌打ちを鳴らして自分の席に着席した。


 ……直後、もう一度私の顔を見てニヤリと笑った瑠果。


「ッ!!」


 あーもう!!

 だから真っ赤になんてなってないってば!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る