第6話

 まさか、瑠果から拒まれるなんて思わなかったので素で驚いてしまった。


 や、やだ、だと……?

 あの瑠果が!?

『諦めて』以外のお願いなら何でも聞いたあの瑠果が!?

 信じられない!!


「だってコレだと梨紗がスッゲー可愛い顔すんだもん。俺、もっと可愛い梨紗見たい」

「んな!?」


 まずい。これはまずいぞ。

 私のお願いが通用しない。

 こんなことは初めてだ。

 一体どうすれば……。


「で、でも瑠果、結構無理してるんじゃない? ほら、小さい頃からとっても優しかったし。ついこの間まで王子様やってたし? 不良なんて似合わないことやめた方が……」


 こうなったら説得するしかないと昨日思ったことを言ってみた。

 ほら、無理したらストレス溜まるでしょ?

 そんなの身体に良くないって。


 ──だけど、瑠果は期待通りの返事をしてくれるどころか、予想の斜め上をいく答えを言ってきた。


「あー、梨紗はそう思ってんのか。ガキの頃は気が弱かっただけだ。梨紗の理想の男になるために頑張ってたらメンタルも強くなった。それに実際、別に無理はしていない」

「え……?」

「王子様やってる時は周りにも優しくしなきゃだっただろ? 梨紗が『王子様は誰にでも優しい』って言ってたし。でもそうすると勘違いする女が出てきてぶっちゃけクソ面倒だったんだよな」


 る、瑠果くん……どうでもいいけど口が悪い。いつそんな言葉遣い覚えたのよ。


 ていうか嘘でしょ? いや、確かに私が思う王子様像を瑠果に話したことはあるけど。

 え、周りに優しかったのって私が言ったからだったの……? デフォルトじゃなくて……?


「だから今はすげえ楽。他の女に優しくする必要ないからな。――これからは梨紗にだけ優しくできる」

「ッ……!」


 急に近付いてきたと思ったら、耳元で囁くように声を発した瑠果。

 驚きすぎて咄嗟に胸を押し返すも、予想以上に固い胸板にびっくりして思わず手を離してしまった。

 い、いつの間にこんなにカッチコチに!?

 昔から筋トレしてたのは知ってるけど見た目は細いままだから全然わからなかった。


 無意識にはだけたシャツの隙間へと目線が行く。

 うっ……これは目に毒だ……。


「ふはっ。マジで可愛いな。梨紗、もう俺ら付き合おうぜ。そしたらいくらでも見ていいぞ?」

「つ、付き合わない!!」


 だ、ダメだ!! これ以上一緒にいると瑠果のペースに飲まれる!!

 そう早々と(むしろ遅かったかもしれないが)危機を察知した私は、食べかけのお弁当箱を抱えて脱兎の如く屋上を後にした。


 ふう、危なかった……まさか瑠果が誘惑してくるなんて……。



 私は主に瑠果のせいで誰とも付き合ったことがない。

 常に完璧な瑠果がそばにいるせいで男の子達が誰も近寄ってこないのだ。

 まあ私からも必要最低限しか近寄ることないけど……好きな人できたことないし。


 だから、単純に男慣れしていない。

 瑠果のことは男として見ていなかったから、男に対しての免疫はほぼゼロだ。


 ……それなのに、ただの幼馴染みでしかなかった瑠果が……男の身体つきをしていた。

 男っぽい口調に、男っぽい声に、男っぽい表情。

 それら全てが、男慣れしてない私の動揺を誘う。

 だから顔が赤くなるのは条件反射だ。……そうに違いない。


 やはりこのままじゃダメだ。

 また後日隙を見て瑠果を説得しなゃ!!

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