第5話

 私の横には瑠果の綺麗な顔。

 今まで私を慈しむように見ていた瞳は、たった今意地悪そうに細められてる。

 こ、こんなことされたことなかったのに!

 いきなりなに!?


「へぇ……梨紗こういうのには弱いのか。顔真っ赤」

「ッ!!」


 思いもよらぬことを指摘され、慌てて頬に手をやればそこはじんわりと熱を持っていた。

 る、瑠果のくせに生意気〜!!


 しかし私が何か言い返す前に瑠果はスタスタと自分の机に戻って、そのまま教科書も出さずに机に伏せてしまった。

 教室は言うまでもなく大荒れ。

 私の顔の熱は一向に治まらない。


 なんだこれは……。

 今まで物腰柔らかな瑠果しか見ていなかったせいか動揺が……。


 いや、いやいやいや。


 でもあれだよね、単に慣れてないだけだよね。

 きっと明日になればいつも通りにできるって。

 不良だからなんだというのか。

 結局は瑠果のままなんだから、いつもみたいに接すれば私の方が優位に立てるに決まってる。

 うんうん。




「なあ、早く食べさせてくれよ」

「……」


 絶対に瑠果より優位に立ってやる! と意気込んだ次の日、何故か私は瑠果と屋上でお昼ご飯を食べている。

 初めて立ち入った屋上は思ったより広くはなかった。

 普段はきっちりと施錠されているはずなのに、瑠果はなんてことないようにピッキングして入ったのだ。

 もうこれは不良というか、犯罪一歩手前ではないだろうか。


「梨紗? そんなにボケッと可愛い顔してると梨紗を食べるぞ?」

「んなっ!?」


 ふに、と。

 またもや頬に感じた柔らかな感触。

 こ、こいつ……! 昨日に引き続き今日も……!

 いつから私のほっぺはそんなに安くなっちゃったの!?

 これじゃあ全然優位に立ててないじゃん!


「ちょっと瑠果!! 昨日から好き勝手して……!」

「は? そんなの可愛い顔する梨紗がいけない」

「そんなわけないでしょ!! どう考えても私のほっぺにキ、キ……」

「キ?」

「チ、チューした瑠果がいけないに決まってる!!」

「ッ……梨紗、それ無意識ならほんと気をつけねえといつか襲われるぞ。俺に」

「な、何言ってるの!?」


 今は瑠果が悪いって責めてる最中なんですけど!?

 何故私を襲う話になる!?


 ……だめだ。不良になった瑠果にペースを乱されまくっている。

 こんなの私らしくない。己を強く保たないと。

 よし、深呼吸をするんだ。スー、ハー。


「も、もういい」

「何が?」

「もう不良の真似しなくていい!」

「は?」


 うん、ちょっと負けを認めたことになるけど、不良モードの瑠果は手強すぎる。

 私が扱い切れる相手じゃない。

 瑠果相手にこんなことを思うのはとても悔しいけど、もう降参だ。

 不良になり切ってるせいで態度生意気だし、今までは勝手に私に触れることなんてなかったのに平気でチューするし。


 これならまだ王子様の方が全然マシだった!

 だからもう不良はいいです!


「やだ」

「え!?」

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