第4話

 そう、顔は瑠果だ。

 だけど……コイツは私の知る瑠果じゃない。


「み、三波……なのか? なかなか来ないから心配したぞ。何か事故に巻き込まれたんじゃって……」

「別に? 学校なんてかったるいから来たくなかっただけだけど」

「そ、そうか。それならいいんだが……」


 いや、何もよくないでしょう。

 ダメだ、先生もあまりのインパクトに余裕をなくしている。

 そりゃそうだ。昨日まで誰もが認める王子様だったのにいきなりこんなに豹変すれば。

 一種の事故といっても過言ではない。

 まさか本当に不良になってくるとは……。


 しかも私がなんとなく想像していた不良を忠実に再現している。

 あんなに綺麗だった黒髪まで染めちゃって……まあ赤髪になってもツヤツヤさらさらのままだけど。キューティクルまで瑠果の味方してる。

 ピアスだって痛かったでしょうに……ファーストピアスがここまで似合っているのも瑠果くらいか。

 制服もどんだけだらしないのよ。あーあ、そんなに肌見せるから色気ダダ漏れでみんな目ギラつかせてるじゃない。


 ……総評、不良の瑠果もかっこ良すぎる。


 まあ元は同じだものね。王子様があの完成度だったんだから不良になっても外見は完全保証だろう。


 気になるのは中身だ。

 口調も表情も態度も今までと180度違う。

 あまりの変わりように驚きが隠せない。

 先生にタメ口なんて使ったことないくせに……。

 まあ礼儀正しい不良なんて見たことないけどね。

 でも素は王子様寄りだと思うから……相当アレ無理してるんじゃないかな。


「で、では気を取り直して授業始めるぞ」

「……その前に一ついいか」


 先生がチョークと教科書を手に黒板へ向かったが、瑠果は席に座らずに私の方へ歩いてきた。

 なっ……この状況で何をするつもり?


「まだ愛する女に挨拶していない。……はよ、梨紗」


 ……。

 …………。

 うん、この人は100%瑠果だ。

 やはり不良になっても瑠果は瑠果のままだった。

 多少無理はしているかもしれないが彼にとってそんなものは些末なことなのだろう。


 そして、変なところだけいつも通りな瑠果にようやくみんな意識を取り戻したのか、さっきまでの静寂が嘘のように騒ぎ始めた。


「きゃああっ! あれ三波くん!?」

「嘘っなんで赤髪!?」

「口調とか荒っぽいし……ていうか制服エロすぎない!?」

「お、おいみんな、授業を……」

「不良の三波くんもヤバすぎるんだけど!!」


 うーん……なんか前より騒がれてない?

 瑠果が不機嫌そうに顔を顰めている。すごい、そんなところまで不良っぽい。今まで王子様スマイルで微笑み返すだけだったのに。


 先生は騒がしい教室の中必死に授業を始めようとするけど……可哀想に、女の子達の甲高い声で全部打ち消されちゃってる。

 私は真面目だからちゃんと授業受けてあげよう。


 と、瑠果には「おはよう」とだけ返して教科書に向き直る。


 ───が、その時。


「今日も可愛いな」


 なんて甘い言葉と共に頬にチュッと柔らかな感触が走った。


 …………えっ?

 今何した????

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