第13話(委員長視点)

 うちの高校の名物、“三波瑠果”と“羽咲梨紗”カップルが話さなくなってから数日――

 なんとなく校内にも気まずい空気が漂っていた。


 厳密に言えば2人は付き合ってないみたいだったけど、周囲からすれば毎日一緒にいる2人は付き合っているも同然だった。

 容姿端麗な2人は入学当初から校内の人気者で、1ヶ月経つ頃にはファンクラブが出来上がっていた。


 そして羽咲さんのファンクラブが1日で壊滅したのは一部では有名な話だ。

 原因は勿論三波くん。

 経緯は知らないけど、その日から表立って羽咲さんを好きな男子は現れなくなった。


 そんなことがあれば当然2人は付き合っているという噂が回る。

 でもすぐに三波くんの一方的な好意だということに気付いた。

 三波くんは毎日のように羽咲さんに『好き』とか『付き合って』って言っていたのに対し、羽咲さんは呆れたようにいなすだけだった。

 その光景が日常化して、2人は校内の名物となった。


 それに伴って、三波くんのファンクラブに所属していた子のほとんどは三波くんの恋の応援隊と化した。

 かくいう私もそのうちの1人だ。

 最初は単に三波くんの外見や王子様のような振る舞いに惚れてファンになったけど、一途に羽咲さんを想う健気さにキュンとするようになった。

 羽咲さんのためなら一晩でキャラチェンもするくらいなんだから相当だ。


 王子様キャラだったのも、おそらく羽咲さんが関係しているのだろう。

 元からアレなら、いくら不良になったからって周囲に対してあんな冷たい態度は取らないと思う。

 まあ私としては、本当に羽咲さんのことが好きなんだと再確認して余計萌えたけど。あと俺様な三波くんもかっこよかった……。


 ……ゴホン。

 それは置いといても、2人の絡みは日々の癒しだったのに……まさか見れなくなるとは。


 噂では、不良の三波くんが嫌だと羽咲さんに言いにいった愚かな女達のせいで仲違いしたとか……。

 全く、ファンの心得というものを全然理解していない。

 いくら推しが豹変しようが根本羽咲さんを好きな気持ちが変わっていなければ文句なしに推し続けるべきでしょう。

 なのに、ましてや推しの想い人に抗議しにいくなんて……愚かすぎる……。


 これだからガチ恋勢は嫌なんだ。

 羽咲さんに勝てるわけないんだから潔く諦めて三波くんを応援しなさいよね!


 まあ、最近は羽咲さんと喋ることが増えて私的には嬉しいこともある。

 ずっと三波くんがべったりで話しかけづらかったから……。


 入学して最初の方はお昼ご飯一緒に食べようと誘ってみたけど、三波くんがちょっぴり不機嫌そうだったんだよね。

 羽咲さんはその時は私達を優先してくれたんだけど、なんだか三波くんに申し訳なくて次第に誘わなくなってしまった。


 でも、最近は毎日一緒に食べれてる。

 羽咲さん自体は元々明るくて話し易いし、とても楽しい時間だ。


「羽咲さんはさ〜三波くんのこと好きなんじゃないの?」

「ちょっとマキ!」

「えーいいじゃん気になるんだもん」


 穏やかなお昼タイムを満喫していたら、一緒に食べている友人が爆弾を落としてきた。

 そんなデリケートな質問をぶっ込むなんて……。


 ……だけど私も気になっていたから耳を澄ませてみる。

 羽咲さんはちょっと考えた素振りを見せて、躊躇いがちに口を開いた。


「人としては……好きだけど、男としては見てない……と思う」


 おや?

 今までの羽咲さんを観察していると即答で否定の言葉が返ってくると思ってたけど、意外と曖昧な表現だ。


「えー! なにそれ曖昧〜!」

「ちょっとマキ!」


 全く、マキはストレートすぎる。

 こんな悩める乙女みたいな羽咲さんにストレートに突っ込むのはダメだって!


「だ、だって本当に今までは男として見たことなんて一度もなかったの」

「今までは……ってことは、今は……?」


 戸惑った表情を見せる羽咲さんに対し、マキに注意しときながら私も聞いてしまった。だって気になるんだもん。


「……どうだろう。でも、不良の瑠果が近付いてきた時はどうしたらいいかわからなくて……」

「それは……完璧男として意識してますね」

「ですな」

「あのフェロモンには勝てないもんね〜」

「全くその通り」


 マキ達がふむふむと思案顔で議論している。

 羽咲さんは何かを思い出したのか、プシューと顔が赤くなった。

 控えめに言ってめちゃくちゃ可愛い。

 これは三波くんが一途に追いかけるのも納得だ。

 むしろここまでよく襲わずにいられたと感心する。


「……もう今となっては、瑠果とは近付くこともないけど」


 だけど次の瞬間、赤い顔がスッと引いて悲しみを帯びた無表情になり、私はギシギシと胸が痛んだ。

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