第14話(委員長視点)

 あの日――三波くんが不良を辞めた日から、2人の距離はずっと遠いまま。

 しかも、三波くんが羽咲さんを避けているように見える。

 あんなに羽咲さんのことが好きで止まないといった風だったのに、一体何が起きたのか。

 いくら仲違いしたとはいえ、三波くんから遠ざかるなんて万に一つもあり得ない。

 羽咲さんは三波くんに嫌われたと思い込んでいるけど、そんな簡単に冷めるほどの気持ちではなかったはずだ。

 と、2人の推しである私は胸を張って言える。


 だからどうにか原因を突き止めたいのだけど、部外者の私がそこまで介入していいものか……。

 恋愛は本人同士の問題。

 そんなのわかっている。百も承知だ。


 でも――


「羽咲さん、ちょっといい?」

「うん?」

「伝えたいことがあって……」

「あ、うん。わかった。……ちょっと行ってくるね」

「行ってらっしゃい〜」


 他クラスの男子生徒に話しかけられて教室を出ていってしまった羽咲さん。

 ……うっ、またこのパターンか。

 最近妙に増えてきている羽咲さんへの声掛け。

 おそらく告白だろう。

 三波くんと仲違いしている今がチャンスとばかりに、羽咲さんを陰で好きでいた男子達が続出している。


 あーもう、羽咲さんのベストパートナーは三波くんしかいないのに……。

 こんなの私が黙って見ていられるわけないでしょ!?


 というわけで、私もう我慢の限界です!


「三波くん!」

「……」

「三波くんってば!」

「……なにかな?」


 羽咲さんが教室を出て行った後、只ならぬ様子でいなくなった三波くんを追いかけた。

 何度か声をかけてようやく応答してくれた三波くんは心ここに在らずといった感じだ。

 というか、ここ最近は生気が抜けている気がする。

 きっと羽咲さん不足なんだ。そうに違いない。

 もう、慣れないことするから!


「なんで羽咲さんを避けてるの? 少し前まであんなに仲良さそうだったのに!」

「……委員長には関係ないでしょ?」


 うっ……。

 そ、それはそうだけど……。

 痛いところをつかれてしまったけど、狼狽えている場合じゃない。

 私は2人のためを思って言っているんだから! あとは自分の癒しのために……!


「だ、だって三波くんはこのままでいいの!? 羽咲さんずっと元気無さそうだよ? たまに三波くん見つめて悲しそうにしてるし!」

「……」

「三波くんだって、バレないようにこっそり羽咲さんのこと見てるよね!? 羽咲さん以外にはバレバレだから!」

「……」


 感情に任せて言いたいことをぶち撒ける。

 そう、羽咲さんだけ気付いていないようだけど、三波くんが羽咲さんをめちゃくちゃ気にかけているのはクラス全員の共通認識だった。

 三波くんの気持ちなんてみんな知っている。

 だからクラスメイト達は誰も羽咲さんに告白していない。

 羽咲さんが連れていかれる時の三波くんの不穏なオーラにビビっているのだろう。

 最早、連れていく男子達のことを勇者を見る目で見送っているくらいだ。


 ちなみに私はそいつらのこと、『この身の程知らずが!!』と思って見ているけどね。


「……別に見てないけど。みんなの勘違いだよ」


 ひたすら黙っていたかと思えば、ぶっきらぼうに嘘をつく三波くん。

 あああもう!! なんて往生際の悪い!!


「もう! 三波くんがそんな様子じゃ、羽咲さんみたいな美人さん、他の男に取られちゃうんだからね!?」


 あまりにももどかしいから、三波くんが反応しそうな言葉を投げかけてみた。

 本当はそんなこと、露ほども思ってないけど。他の男に取られるなんて限りなくゼロに近い可能性が起きようものなら全力で邪魔するけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る