言いなり王子のかわし方

藍原美音

第1話

「さあ姫、お迎えにあがりましたよ」

「……今すぐ立ち上がってそのまま私の視界から消えて」


 朝、家のドアを開けたらそこには道路に片膝をついてこちらへと左手を差し伸べる瑠果るかがいた。

 この人は朝っぱらから何をやっているんだ……。

 またこれでご近所さんから変な噂が立ったら私は恥ずか死んでしまう。


「えー、だって梨紗りさちゃんが付き合うなら王子様みたいな人がいいって言ったんじゃん」

「だからってこんな人が見てるところで恥ずかしいことしないで。……それに、王子様を履き違えてるようだけど、王子様といえば白馬でしょう? 白馬も無しに何が王子様よ」


 ……ふう。まあ実際のところ白馬に乗って登場されたらそれこそ羞恥で顔もあげられないが、この人にはこれくらい言っとかないと諦めてもらえないし。


「白馬か……そういえば乗馬クラブの先輩が『瑠果くん欲しいものあったらなんでも言ってね』って言ってたなぁ……白い馬持ってるかな」

「やっぱり今のなし。とりあえず学校行こうか。遅刻しちゃう」


 くそう……いつの間に乗馬クラブの先輩なんかと仲良くなってたんだ……ていうか私達の学校に乗馬クラブなんてないんだけど?


 いつも登校時間ギリギリに家を出る私にこれ以上瑠果とくだらない問答をする余裕はないので、未だ跪いたままの瑠果を横切りスタスタと歩き出す。

 が、間髪入れずに付いてくる瑠果。


「僕なりに王子様研究したんだけどなぁ」


 私なんかより遥かに長い脚で優雅に歩く瑠果が残念そうな声を出す。

 私は研究してほしいんじゃなくて私のことを諦めてほしいから言ったのだけど。

 また今回もダメだった。


「梨紗ちゃんは仕草とか行動よりも見た目を重視するタイプだってことをすっかり忘れてたよ。王子様といえばブロンドヘアに真っ白なテールコートだったよね」

「……言っとくけどそんな格好で来たら全力でシカトするから」


 はあ、全く。

 毎度毎度この人は素直すぎて困る。

 出会った当初はチビで暗くて泣き虫だったのに。


 ブロンドヘアになんかしなくても十分キラキラとイケメンオーラを放っちゃって老若男女問わずすれ違う人全員を釘付けにしている。

 私がイケメン高身長と結婚したいなんて言ったばかりに……。


 というか、普通努力してイケメンになれるものなの?

 私の理想の外見になるべく毎日牛乳と筋トレは欠かさなかったみたいだけど……。

 どんなに頑張ったって普通はここまでの容姿を手に入れることなんてできない。

 認めたくはないけど元々素材が良かったとしか……。


 でも昔は前髪長いし全体的に地味だし全然わからなかった。

 顔だってよく思い出せない。

 だけど中学くらいから周りに騒がれるようになって、高校生の今では学園の王子様扱いだ。

 これぞ瑠果の思う壺だろう。

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