第2話

「あっ見て、三波みなみくん来たよ!」

「今日も美しすぎる」

「また羽咲はざきさんと登校してる」

「お似合いだよね〜でもまだ付き合ってないんでしょ? 羽咲さんが一方的に振ってるとか」

「あんなイケメン振るとか意味わからなくない?」


 はあ、今日も校門をくぐった瞬間言いたい放題。

 意味わからないとか酷くない?

 しょうがないじゃん、今がどんなにイケメンだって私は昔のチビで泣き虫でじっっっみ〜〜な瑠果を知ってるんだから。


 ほら、幼馴染は恋愛対象外とかよく言うじゃん。

 なんで相手が瑠果になった途端この世間一般論が通じなくなるの?

 そっちの方が意味不明だ。


 だからどんなに瑠果がかっこよくなったところで一向に食指が動かない。

 そもそも瑠果を振るために真逆のこと言っただけだし。私が滅茶苦茶面食いなわけではないのだ。

 瑠果は必死に私の関心を引こうと私の適当な願望や命令を叶えようとするけど、全くの時間の無駄だと思う。


 ていうか、「王子様と付き合いたい」なんて言ったら普通引かない?

 なんでそこで王子様に成り切ろうだなんて思っちゃうかな。


「梨紗ちゃんごめん」


 下駄箱で上履きに履き替えていると、真横から聞こえた瑠果の謝罪。

 ちなみに瑠果が何の脈絡もなく謝ってくるときは要注意だ。

 絶対またろくでもないこと考えてる。


「わからないんだ。既に全校生徒に僕が王子様に見えるか市場調査して99.9%の人にはYESを貰えた。これ以上どうすれば君の理想の王子様になれるの? やっぱり白馬貰ってこようか?」

「……」


 ほらね。

 思った通りろくでもなかった。

 ていうか白馬引きずりすぎ。何故か貰える前提だし。


 しかも市場調査ってなに?

 瑠果に限って冗談ではないだろうから……本当に全校生徒に聞いて回ったの?

「僕って王子様に見える?」って?


 恥ずかしすぎる。本物の王子様はそんなこと聞かないって何故わからないかな。

 きっと残りの0.1%はそんなヤバいこと聞く瑠果に幻滅してNOって答えたね。


「白馬は本当やめて」

「じゃあどうすればいいの?」

「……100%の生徒が瑠果を王子様って認めたら」


 うん、我ながら馬鹿なこと言ってると思う。

 でももうこれくらいしか王子様になるの諦めてもらうことできないし。

 何はともあれこの条件は絶対達成できないだろう。瑠果がこの質問をする限り冷めていくのだから。


 瑠果には悪いけど潔く諦めてもらうとしよう。

 君に王子様は無理だ――!


「ん〜でも残りの0.1%の子には『質問に答えたら付き合ってくれる?』って言われたからそれなら答えなくていいって断っちゃったんだよね」


 ……。

 なにそれ聞いてない。

 そんなのもう王子様だって答えてるようなものじゃん。

 ヤバいこと言う瑠果に幻滅したなんてのはただの願望に過ぎなかったのね……。


「わかった。もう王子様はいい」

「えっ? じゃあ僕と付き合ってくれるの!?」

「ううん」

「そんな食い気味に振らなくても……」


 王子様はもういいや。

 そもそも瑠果は心優しいから女性には当然のように紳士的だし王子様の素質があったんだ。

 私は無理難題を言ったつもりでも瑠果にとっては楽勝だったってわけ。


 それなら瑠果がどんなに頑張ってもなれないような存在を条件にすればいいんじゃない?

 瑠果の見た目ともかけ離れていて性格も絶対真似できないような……


 そう、それは――


「私、不良と付き合ってみたい」


 瑠果から一番遠い存在。

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