第22話
瑠果を恋愛対象として見るようになったのは――
「じゃあ、俺のこと意識し始めたのはなんで?」
「それは……改めて瑠果って男なんだなぁって思ったから……?」
「……何それ。昔の俺はどんな風に思われてたんだよ」
「勿論――」
「いや、やっぱ想像つくから言わなくていい」
ぷいっと拗ねたように顔を逸らした瑠果。
無防備になった頬が無性に可愛く思えて、自分から擦り寄ってみた。
「ッ!」
「拗ねないでよ。今はちゃんと、男として瑠果のこと好きだもん」
「……ほんと?」
「うんうん。だからもうちょっと手加減してほしいな? 昔のことは反省してるからさ……」
「……付き合ってくれるなら、考えてみてもいいけど」
顔をそむけたまま、目線だけで様子を窺ってくる瑠果。
そんな彼に、私はキョトンとする。
「何言ってんの? 当たり前でしょ? 両想いなんだから」
「え!!」
「ただ、すぐにみんなに言うのは――」
「やった! ついに恋人同士だ!! 早くこのことを学校中に伝えないと!!」
「え? ちょ、瑠果! 話を聞いて――瑠果! 瑠果待ちなさい!!」
急に満面の笑みになったかと思えば、私の言葉を最後まで聞かずに目にもとまらぬ速さで走り出した瑠果。
しかも、何やら不穏なことを言いながら……。
最悪だ。まだ恥ずかしいから心の準備ができてからみんなに報告しようと思っていたのに。
追いかけようにも、学年トップクラスの脚力の持ち主である瑠果に追いつく見込みはゼロ。
こうなったら、ちょっとでも時間を稼いでみんなの気が紛れるのを待つしか――。
いや、無理だな。
たった今遠くの方――おそらく、私達の教室の方から歓声が聞こえた。
中庭までかなり距離があるのに、ここまで聞こえてくるなんてどんだけ大きい声で叫んでるのか。
これだから人気者の彼女なんて嫌なんだ……。
……まあ、好きであることを認めてしまったからには付き合う以外の選択肢はなかったけど。
このことが今後学校全体に与える影響を考えると眩暈がする。
瑠果のファンになんて言われるかな……。
瑠果が不良になった時でさえ大騒ぎだったのに、もし彼女ができたなんて知られたら……。
お、恐ろしい。
もう考えるのやめよう。
このままだと瑠果と青春を満喫するどころか引きこもりになってしまいそうだ。
……そんなこと瑠果が許してくれるわけないけど。
もう、いつまでも怖がっていてもしょうがないと観念して、いや全て諦めて教室に向かうことにした。
すると、予想に反して厳しい視線を投げてくる人はいなかった。
まあ、委員長をはじめとしたクラスメイト達に泣いて喜ばれたり、心底安堵した様子の人がいたり、顔面蒼白で瑠果のことを見ていたりと、なかなかカオスだったけど。
「二人のことは私が全力で守り抜くからね!!」
と、委員長から熱烈な応援をもらったが、一体何から守ってくれるのかはよくわからなかった。
――後日、三波瑠果ファンクラブの防壁となるべく『神カップル見守り隊』が一人の熱烈な少女によって発足された。
見守り隊と瑠果の擁護により、梨紗に被害が及ぶことはただの一度もなかった。
勿論、当人のあずかり知らぬところで――。
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