第20話

 こいつ、完全に私をからかうつもりだ。


「ダメかー、残念だなー。俺はしたいけどなー」

「……」

「梨紗はしたくないのかー。そっかー」

「……」

「さっきはすごいしたそうな顔してたけどなー?」


 わーー!!

 やっぱりバレてたかーー!!

 くっそう……瑠果め……無駄に観察眼が鋭いんだから……。

 このムカつく顔どうにかならないかしら……。


 よし。こうなったら……!


 ――チュッ。


「ッ!?」

「――ふんっ」


 これ以上からかわれる前にこっちからキスしてやったわ!

 どやあ!

 私を甘く見たわね!

 いつまでも自分のペースだと思うなよっ――


 と、驚きに顔を染めた瑠果を見てご満悦顔を晒していたら、次の瞬間には、右腕を引き寄せられて頭までがっちりホールドされていた。

 そして休む暇なく襲ってきたのは、おびただしい程のキスの嵐。


 く、くそ……! 油断した……!


「ちょ、瑠果……! やめ、……んんっ」

「梨紗が悪い。煽った梨紗が悪い。……ねえ、もっと舌出して?」

「だめ、だって、ば……! もう戻らないとっ……ぁ」

「梨紗が悪い。梨紗が……可愛すぎるから」


 狂ったおもちゃのように『梨紗が悪い』と繰り返す瑠果。

 なんで私が悪いのよ! ちょっと仕返しするだけのつもりだったのに……!


 それに、もうそろそろお昼休みが終わってしまう時間だ。

 お昼ご飯を食べる前に瑠果を呼び出したからお腹もペコペコなのに。

 ……でも、そんな関係ないことを考える隙も与えないとばかりに瑠果からの猛攻は止まらない。


 ――なんだか、段々手足の力が抜けてきたような……。

 頭の中もふわふわしてきて、この甘さに酔いしれたい気分になる。

 このまま夢の中に堕ちてしまったら、どれだけ心地いいか……。


 ――ああ、私、こんなに幸せでいいのかな――。


「……梨紗、愛してるよ」


 瑠果の蕩けそうな官能的な声と、遠くで鳴り響くチャイムをどこか他人事のように聞きながら。

 私はそっと目を閉じたのだった――。

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