第19話「特戦隊の一番長い日⑦」/9
「1分にゃ」
「えっ?」
すっと木の陰から現れたのは、江吉良エリ絵だった。なんかダサいジャージ着てる。どこに売ってんのそれ?
「江吉良一尉。貴官は待機命令を」
「にゃから、装備にゃんか何もにゃいでしょ?」
江吉良エリ絵は、弐瓶貴久の指摘にかぶせるように答える。確かにイモジャージしか着てないけども。屁理屈だろそれ。
「1分てなんだ?」
それよりこっちが気になる。
「にゃから、1分経って状況終了報告がにゃければ、やられたってことににゃるって言ってるんにゃ。14対2。しょんなもんにゃと思うにょ」
「じゅ、14? そんなにいるのか!」
「エリ絵が言うんにゃから間違いないにゃ。観測班は、活性化しゅる前の数しか分からにゃい。正確に数えられるのは、エリ絵たち強化人間の視力がなくちゃ、不可能にゃ」
「なんだって!?」
馬鹿野郎! 前提の数が間違ってんのかよ! それじゃ、あいつらは!
「エリ絵たちの時には、そんなのしょっちゅうだったにゃ。特戦区に入ってから、そんな事で怯むようにゃやつは生き残れにゃい。戦いのスピードが違うかりゃ、一瞬の気遅れが命取りになるんよにゃ」
「江吉良……」
このダサジャージのロリっ子デコっぱちは、今の体制が整う前から戦っている。そして、生き残ってきたのか。アグレッサーは伊達じゃねえ、な。
「お前、何か失礼な事を考えてないかにゃ? お前の目、なんか不快にゃ」
「気のせいだ」
うおお、気づかれてる。何、強化人間てもしかしてテレパシーとかも使えるの?
「根拠は?」
弐瓶貴久が江吉良エリ絵に真意を問うた。重要な情報だからな。次の対応に移る判断を下すには、かなり有用な目安になるだろう。……次の、対応? それって、何だ? 考えたくねぇよ。
「あいつ、高嶺って言ったかにゃ? ナイフを装備して行ったにゃ。過去の討伐戦を観る限り、あいつの得意は徒手格闘、ソニックナックルによる一撃必殺の戦法にゃ。でも、ナイフにゃと一撃では倒せにゃい。つまり、まずはナイフで動きを鈍らせ、後でゆっくりトドメを刺しに行く戦略にゃ。ナックルにゃと一撃1体、ナイフにゃらひと振りで3体は斬れるけど、その代わり、傷は浅いかりゃ、手数で勝負ってことににゃる。にゃから、1分かかると想定したんにゃ。対圧倒的多数の危険生物たちにはいい戦略にゃけど、時間はかかるはずにゃんにゃ」
「なるほど。戦略立案は私が行なったが、それによる状況終了時間予測までは出来ない。ありがとう、助かった」
「いいんにゃ。どうせヒマにゃ」
江吉良エリ絵はひらひらと手を振り目を閉じた。そんな江吉良エリ絵に、疑問も湧く。
「お前、なんでここに来たんだ? 後詰めに来たようにも見えないけど」
てっきり助けに来てくれたのかと思ったが、それにしては随分テキトーな感じがする。高嶺たちを信頼しているから? 自分の出番は無いと、そういう意味か?
「にゅ? ふん、そんなの、ここが破られた時の為に決まっているにゃ」
「え、しかし」
「にゃんで私服にゃのかって? そんなの、命令だからにゃ。でも、たまたまここにいたにゃら、戦うしかにゃい。にゃろ?」
「はあっ? アホかお前、いくらお前でも、装備無しじゃあ!」
「アホはお前にゃ。江吉良エリ絵はアグレッサー。特戦隊のスーパーエースだった戦士にゃ。例え装備なんかにゃくっても、爆撃機が来るまでやつらを足止めするくらい、朝メシ前にゃ!」
「お前っ、その、為にっ……!」
こんの野郎、そんなのカッコ良過ぎだろ。そんなふざけた話し方してんの、本当に勿体無いやつだ。お前はっ、お前はっ。
「にゃから、お前たちはもう逃げるにゃ。囮は一人で十分にゃ」
「馬鹿言え! 俺は残る! 高嶺にもそう約束した!」
その上、囮役までやるつもりか。ふざけんなよ、そんなのお前一人だけにやらせてたまるか。この燃え上がる俺の気持ちは、どこにも逃げやしないんだ!
「うむ。私も逃げるつもりはない。出来ればここで切腹したい。もう死ぬって分かったら、何の躊躇いも無く腹切れそうだし」
「弐瓶一尉……ブレないですね……」
「にゃ? こにょ人アホにゃの? ねえアホにゃの?」
実は腹切るの怖いのでは? まあいいけど。
「あ、あのー……」
「ん? 何ですか、王子准尉? 王子准尉は早く逃げた方がいいですよ。ここで王子准尉を失うのは、日本の、いや人類の大きな損失です。その大いなる可愛いが失われてはならないのです!」
「あ、いや、そうじゃなくって」
「スルーですかそうですか」
今のは渾身の決め台詞だったのになあ。ぴえん。
「ごめんなさい。あの、江吉良一尉、今から出撃されるのは無理なんですか? そうしたら、割と勝ち目が出て来ると思うんですけど……」
「それですね! おいデコ、行ってこい!」
「誰がデコにゃ!?」
「ほぶっ!」
殴られた! すげぇ痛い!
「ああムカつくにゃ! エリ絵は絶対出ないのにゃ!」
「ごめんなさい、江吉良一尉! この人は、あとできっちりシメときますから!」
「シメられるんですか俺!?」
俺、王子聖子にシメられるんだ! 想像出来ないんですけど!
「そんなの関係にゃいにゃ。とにかくエリ絵は出撃出来にゃい。エリ絵に出来るのは、ここまでにゃ……」
「江吉良一尉……」
くっ、と王子聖子が唇を噛む。なぜ、ここまで江吉良エリ絵は出撃を拒むのか? 俺には思い当たるフシがあった。
「馬渕司令だな?」
「えっ?」
俺はゆらりと立ち上がり、その予想を突き付けた。
「その通り、にゃ」
江吉良エリ絵が胸を押さえた。そこに何があるのか、俺は、多分、プロデューサーでは俺だけが知っている。
「ライオット・スタンシーバー」
俺はそれの正体を口にした。
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