第11話 合流

田橋からの荷物に入っていたスマホを眺める。自分の思考よりも早く指が動いた。僕の本能が田橋に会って真実を聞き出そうとしている。画面には田橋の連絡先が映し出された。一緒に入っていたメモには「連絡はするな」と書かれていた。師匠の遺体を探すことに専念するためだ。しかし、田橋が犯人だとすれば…それは嘘だ。実際はどこかで僕の状況を監視しているのかもしれない。

背中に汗が流れた。暑さのせいではない。恐怖に体が支配される。

…本当に田橋なのか?

可能性があるなら、連絡を待つ意味はない。こちらから動かねばならない。指に力を込め、受話器マークを押そうとする。その瞬間、画面が切り替わった。息が止まりかけたが、その主の名前で鼓動が再始動し、リズムを乱す。

画面の名は…田橋優。

「…もしもし。」

声を出すまでに、時間がかかった。

「庵屋か?俺だ。」

疑心を抱いている。しかし、その声がもたらしたのは安心だった。

「警察には捕まってないようだな。」

疑いの目があっても、今の精神状況では、誰かが声をかけてくれることだけで救われた。

「…なんとか。そっちは?」

「すぐ本題だな。師匠の遺体だが…。」

師匠の遺体。田橋はそれを探していた。彼の口から、一体何が明かされるのか。

「見つかった。ただ…。」

田橋の言葉が続かない。沈黙が流れる。

「…計画を再度練る必要がある。会って話したいが、いけるか?」

彼からの計画という言葉に、疑心が生まれる。その計画の目的は何だ?聞きたいことが山ほどある。

「分かった。ただし、長距離の移動は危険だ。」

「今どこにいる?」

「良くわからない。看板には二伍町って書いてある。」

「二伍町か。じゃあ、そこから駅と反対側の方向に行ってくれ。そこに、岐潟倉庫ってところがある。身を潜めるためにも良い場所だ。」

「分かった。」

電話を切る。ついにこの事件の終止符を打つ時が近付いている。僕の本能がそう告げた。

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