第15話 病院
慣れ親しんだ病院の道を歩く。いや、慣れてはいるが親しむつもりはない。早くここに来なくていいようにと心から願っている。目的の病室の前に着く。
「元気かい?」
扉を開けて、元気に尋ねた。すぐに返事は来なかった。声を出す前に、まず体を起こそうとしていた。
「おいおい、無理するなって。」
慌てて起き上がるのを補助する。
「どちら様?」
変装していたことを忘れていた。急いで女性用のカツラをのけた。
「ああ。まだ周りに気をつけないといけないのかい?」
やっと気付いたようだ。大事なことをまず聞く。
「体調はどう?手術がもうすぐたけど。」
「大丈夫。元気だよ。」
そう言って笑顔になる。
「本当に助けられてばっかしだよ。ありがとう。」
その言葉に少しばかり罪悪感が生まれたが、必死に握りつぶす。
テレビをつけ、2人で番組を眺める。インタビューのニュースが流れる。
「すごい有名人になったね。」
「ここまでは予想してないよ。」
肩をすくめる動きを見せる。それを見て、また笑顔になる。
「今日は何か用事かい?」
その質問に持ってきた物のことを思い出す。
「お花買ってきたんだ。ローズの香り好きでしょ?」
「気が利くねえ。ローズの香りは心が落ち着くんだよ。」
ローズが好きと知り、ここに来るときは必ずローズの香水を付けた。
花瓶に花を差し、テレビの横に置く。その様子をじっと見つめられた。そして、こちらに向かってゆっくりと囁いた。
「哲はさすがだよ。私の自慢の子だ。」
僕は照れながら、笑顔で頷く。
やっと母さんと2人で過ごせるようになる。
視線をテレビに戻すと、事件の説明で師匠の写真が映されていた。
僕は心の中で呟く。師匠に語りかけるように。
「師匠。全て計画通りです。」
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