第12話 遺体
岐潟倉庫を見つけた。想像よりも小さく、平屋一軒程度の大きさだった。表の扉は避け、裏口から入ることにした。
ドアノブに手をかける。一瞬、迷う。ここに来るまで、もう一度事件について考えた。犯人はおそらく、自分に強い復讐心を抱いている。ただ、人生を何度振り返ってみても、僕をここまで陥れなければならない動機を与えた人物に心当たりはいない。しかし、知らないうちにそういったことが起こり、自分に対して様々な感情を抱いているのだろう。…それが田橋なのか。
息を吸い、深呼吸を試みた。先ほどから過激に動く鼓動に変化はなかったが、ドアを開ける決心はついた。ノブを回し、手前に引く。埃っぽい匂いが鼻を刺激する。一歩ずつ足を踏み入れる。
「無事来れたんだな。」
声の方へ目を向けると、倉庫の奥で田橋が立っていた。
「なんとかな。周囲を気にしながら移動なんて、もう懲り懲りだ。」
「だろうな。俺でさえ怖かったからな。」
無駄な話はやめて、本題に入る。
「それで…師匠の遺体は?」
「…ここにある。」
田橋は隣にある黒い箱を示した。が、あまりにも小さすぎる。人が抱えられる程度の大きさ。
「…まさか。」
「ああ。焼かれてたよ。」
先程の電話の言葉を思い出す。「見つかった。ただ…。」はそういうことだったのか。
「いつ焼かれたんだ?」
「分からない。俺が見つけ出した時にはこの状態だった。」
見つけ出した?言葉の端々が気になる。
「中は確認したのか?」
「ああ。人骨があったよ。」
人骨。師匠の遺体というわけか。だが…。
「師匠の遺骨だって証拠はあるのか?」
「何だよ、疑って。正真正銘師匠の遺骨だよ。」
「なぜそう言い切れるんだ?僕たちの潔白を晴らすためには、これが師匠の遺骨だってことを証明する必要があるじゃないか!」
僕は珍しく大きな声を出して田橋に詰め寄った。
「…そうだな。」
僕の主張に納得…いや、僕の勢いに対して渋々納得の言葉を述べたような態度だった。
田橋の様子がおかしい。田橋は僕より数倍賢いはずだ。その田橋が、遺骨が師匠のものかどうか調べないままでいるだろうか?
「僕も中を見ていいか?」
「…ああ。」
田橋の隣にある箱の前に立つ。田橋は人骨が入っていたと言う。自分の中で引っ掛かっているのは、なぜ田橋は人骨の鑑定に手をつけていないのか。
…やる必要がないのか?
頭の中で閃光が弾けたような感覚。田橋はDNA鑑定などの遺骨を突き止めるための手を施さなかった。それは、する必要がなかったからだ。なぜか?田橋は遺骨になる前の状態からきっと知っていたからだ。では、なぜ遺体の状況から遺骨になるまでのことを知っているのか?…全て田橋の計画だったからだ。
やはり犯人は…。
ドカッ。
振り返ろうとした瞬間、頭に激痛が走った。意識は一瞬で飛んだ。
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