第5話 計画
「さて。何をするかだな。」
田橋は腕を組み、目を閉じた。寝ているわけではない。田橋は考える時、深呼吸して目を閉じるルーティーンがある。彼は自慢のネタを何度も生み出している。期待を込めて時を待つ。田橋の瞼が上がった。
「よし。お前を全面に生かそう。」
「え?」
「俺は表に出ない。お前が笑いを巻き上げるんだ。」
計画を説明し始めた。
「師匠はどうして俺たちを弟子にしてくれたんだ?」
「それは…何でだっけ?」
田橋が一瞬で呆れ顔になる。
「おいおい。お前が弟子になりたいって言い出したんだろうが。」
「…いや、あの時は興奮しまくってたから。正直よく覚えてなくて。」
「気持ちが分からないでもないが。まあ、俺がいてよかったな。」
今度は勝ち誇ったような顔。そんなに表情が豊かなら、お前が表に出るべきだと言いたくなる。話を戻す。
「結局、僕は何をするんだ?」
「師匠は弟子に引き受けた理由として、お前が師匠に似ていることを挙げてた。それを全力で使う。つまり、モノマネだ。」
モノマネ?僕たちがまだ踏み込んでいない領域だ。
「師匠のモノマネ?僕が?」
田橋は僕の想いに気付き、納得させるための補足を始めた。
「庵屋の気持ちは分かる。コンビ芸人なのにお前だけが表に出ることは、プライドを捨ててるようなもんだ。でもな、俺が今回、一番大事だと考えたことは、師匠に笑顔で天国に行ってほしい思いだ。そのためなら、何だってするべきだと思う。俺たちは一番弟子なんだから。」
弟子入りを始め拒んでいた相方からの言葉に驚きつつも、「師匠を弔いたい」と熱い思いでいることに心から安心した。
師匠のモノマネ。それを師匠の葬式でする。普通ならバチが当たりそうだが、師匠も僕たちも漫才師だ。師匠のことを思うと、一番良い方法のように感じる。
ただし、モノマネということは…。
「…見た目も全部ってことだよな?」
「当たり前だろ!声やセリフだけ真似たって、見てる人に師匠って伝わらなかったら意味ない。」
分かりきってることだが、師匠の容姿をもう一度思い出す。顔のパーツは似ている。眉毛は師匠の方が濃く、髭もある。服装はタキシード。そして、チャームポイントとなるスキンヘッド。
自分もお笑いを追求する身ではあるが、髪型や容姿までを変えることには抵抗がある。だからこそ、容姿までもとことんお笑いに全振りしている師匠をかっこいいと感じていた。
「悩むか?」
田橋が僕を覗き込んだ。おそらく、容姿のことで悩んでいることに気付いたのだろう。目を閉じて、もう一度考える。自分の気持ちと師匠を弔いたい気持ち。
答えは決まっている。
「決まりだ。その計画で行こう。」
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