第17話 田橋優の計画
母親から檜垣星が父親だと告げられ時、あまりの衝撃で時が止まった。喜びはもちろんある。ずっと会いたいと思っていた人が身近に現れたなんて。信じられなかった。
しかし、その気持ちは一瞬で溶けた。心に残ったのはただただ檜垣への許せない気持ちだった。母がこんな状態にも関わらず、のうのうと表舞台で脚光を浴びている。今までの苦しい生活のことなど何も気付いていない。絶対に許せなかった。
復讐するしかない。
だからこそ庵屋の提案を了承し、弟子入りを申し出た。師匠と言う度に、体内の何かが暴れ出しそうだったが必死に耐えた。いつか必ず復讐を達成するために。
弟子入りから暫くして、檜垣の妙な行動が気になった。好きだと言う海外旅行の予約で現地の誰かと電話していた。どうやら向こうで知り合った人物らしい。庵屋はその姿に憧れている様子で、それに気付いた檜垣は「お前たちも売れれば、すぐにできるようになるさ」と発言した。その自慢顔にすぐにでも殴りかかりたかったが、気になるワードがあった。
「ああ。“いつものやつ“だよ。あれは日本じゃ全くだから。」
日本では手に入らないもの?俺の本能が告げた。このセリフにはもっと深い闇があると。だから調べて、突き止めた。買春をしていることを。
これが明るみになれば檜垣を社会から追放することができる。
しかし、不安材料がある。師弟関係を築いた事で檜垣のことを多く知ることができたが、買春のことが世間に出た場合、弟子の自分達まで悪影響が及ぶ可能性があった。それは避けなければならない。
檜垣への復讐の一手が手に入ったにも関わらず、自分達の立ち位置のせいでそれが使えないでいる。本当は今すぐに殴りかかりたい。殴れるほどの距離にいる憎い檜垣を、毎日眺めることしかできなかった。
庵屋に相談しようと考えた時期もあった。自分だけではどうすることもできない。誰かに話を聞いてもらいたい。一番の理解者であり、信頼できる庵屋ならいいかもしれない。だが、それができなかった。檜垣は俺よりも庵屋を可愛がった。俺に対して悪口を言ったり、悪態をついたりしているわけではない。表面上は問題ない。しかし、細かな部分で庵屋だけに贔屓している節があった。俺はそれも耐えられなかった。実の息子が目の前にいるのに、他人を可愛がるなんて…。可愛がられている庵屋の様子も腹が立った。
檜垣も庵屋も許せない。気が付けば、どちらに対しても殺すに値するぐらいの憎しみが暴れていた。
そんな時だ。檜垣が亡くなった。俺の本能が言った。今しかないと。急いで計画を立てた。檜垣が俺たちを弟子に選んだ理由を最大限に生かす。そして、檜垣が生きているように見せ、庵屋を窮地に追い込む。その中で庵屋に罪を擦りつけ、最後は自殺したことに見せる。きっとこんな事件に巻き込まれた人物をマスコミはほっとかない。必ずお金は入ってくる。それを使って母親の病気を治す。
檜垣への復讐。庵屋の排除。母親の治療。全てが入った計画だ。しかし、問題点が無数に存在する。
・檜垣の遺体をどう始末するか。
・檜垣が生きているように偽装する方法。
・庵屋が表向きの計画に納得するか。
・庵屋を含め、多くの人が俺の計画内の行動に収まってくれるのか。
不安材料は多いが、成功する確率はある。
実行しよう。全ては計画通りに。
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