創造神の基準が分からない

俺の話を聞いたカエデは、自分のスキルのことで大泣きしたさっきより、更に激しく泣き始めた。


(困ったなぁ。俺はまだ4年しか生きていないし、その内2年の記憶が無いし・・泣いてる子どもはどう扱えばいいんだ?)


受け継いだ記憶や知識を漁っても人間の子どものあやし方など分からない。


俺の毛並みが気に入っていたようだったので、両前足でカエデを抱え込んでみた。


カエデは俺の顔に抱き着いて、更にわんわん泣いて、泣き疲れてそのまま眠ってしまった。


(あーあ、また水檎と水桃が地面に落ちて泥だらけだ。学ばない奴。)



********************************




ミルクがこの世界が捻じ曲げられる時のことを話し始めた。


話の焦点を、世界を捻じ曲げた転移者トランスジーンたちに絞って話しているようで、胸が痛くなった。


その時、ミルクはまだ2歳の小さな子どもで、


大好きなお母さんが目の前で惨殺されて、


恐ろしくて、悔しくて、なにより悲しかったはずなのに、それを淡々と話すミルクが、悲しかった。


8歳の体に引き摺られて、涙が止まらなくなって、しゃくりあげながらまた大泣きしてしまった。


悲しいのは、わたしではなくて、ミルクなのに・・・


泣き過ぎたわたしは、いつのまにか意識を失っていた。



目を覚ますと、ミルクの前足に抱えられ、ミルクの顔に寄りかかる様にして眠っていたことに気付いた。


ミルクは心配そうに視線だけでわたしを見て、声をかけてきた。


『ぐっすり眠れましたか?』


あまり感情のない言葉。

心配してくれているのは分かるけれど、違和感があった。


「はい・・・ぐっすり眠ってしまいました。ごめんなさい。話の途中で・・」


『いいんですよ。もっと簡単にお話すればよかったですね。カエデには、衝撃的だったでしょう。』


あれでもだいぶ簡素化して話してくれたであろうことが分かる。

臨場感たっぷりに話されたら、気絶していたかもしれない。


「わたしは大丈夫だよ。ミルクは・・大丈夫?ひょっとして、お母さんが亡くなってからさっきまでの記憶がないんじゃないの?だとしたら・・まだ、泣いてないんじゃ・・・」


これは想像だけれど、「記憶を無くして人間を襲え」と言われたということは、神獣に戻る前の記憶は、お母さんが殺された時の記憶になるんじゃないだろうか。


『僕は男の子ですし、神獣ですからね。泣きませんよ。まぁ、母の死を悔やむのは、復讐を果たしてから、ですね。』


そう言ったミルクは、ちょっと怖かった。


「復讐・・・どうするつもり?」


『まだなにも考えていません。僕の記憶は2年前で止まってしまっていて、ご先祖様方の知識が受け継がれていると言っても、その内容をまったく把握していませんし、僕自身はまだ2歳の子どものままです。そうですね・・取り敢えず、あのローリーという名の転移者トランスジーンを探し出してから、考えますよ。いろいろとね。』


やっぱり、ミルクが怖い。

これが「畏怖」というものなのだろうか。


「創造神クレエ様は、何故そんな物騒なスキルの数々を、わたしと同じような異世界からの転移者に授けちゃったんだろう。わたしの<イマジナリィ・ネットスーパー>も非常識だし。」


『カエデのスキルに関しては、使い方次第ではないでしょうか。まあ、スキル<理操作>も使い方次第だと、<コピー>と<魅了>は、他人に迷惑をかけず自分が生きやすい様に使う分には、大きな問題はないと、創造神クレエ様はお考えになったのかもしれませんね。』


「人間のわたしでも、大問題で非常識でありえないと思うのに?」


『神様の基準ですから。』


納得いかないよ。


異世界モノでスキル<コピー>は物語の登場人物が使うスキルとしては、両極端だった気がする。

無能と蔑まれた主人公が成り上がっていくストーリーと、悪役がスキルを使ったことの対価のように破滅していくストーリー。

<魅了>はすべて悪用されていたような・・乙女ゲームの世界に転生系では定番の、性格の悪いヒロイン枠が持つスキルだった。

<理操作>は初めて聞いた・・これは、転移者の発案だったのではないだろうか。

あの常識外れの神様のことだから、いいように丸め込まれてしまったのかも。


そう言えば、わたしが歴代の転移者がどんな能力をもらったのか教えて欲しいとお願いした時の創造神クレエ様、異常に興奮してたっけ。

あれって今までの転移者にこんなとんでもないスキルを授けてきて、この世界が破滅しそうになってるから、今までの自分のやらかしをわたしに知られないために大声出したってこと?

挙句、更にとんでもないスキルをわたしに押しつけたってこと?


創造神クレエ様への疑惑が膨らみ確信に近付いた気がしたわたしは、あまり好きになれなかった物語の中のあるスキルを思い出す。

物語としては面白いのかもしれないけれど、楽して他人の大切なものを奪うそのスキルが、そのスキルを使う様子が、気分が良くなかった。


けれど、今はそれが使えるかもしれない。


過去の転移者の誰もそのスキルを手にしておらず、<イマジナリィ・ネットスーパー>で購入できれば、の話だけれど。


<イマジナリィ・ネットスーパー>で購入できるって、そういうことだよね?

この世界に存在しているもの、存在したことを認識されているモノは、買えないってことだよね?

たぶん。


「神獣のミルクには、ご先祖様の神獣の知識があるんだよね?」


『はい?』


「この捻じ曲げられたこの世界の理を正せる方法はないの?」


『これから検索するところです。数千、数万年分の知識なので、時間がかかります。』


「そうなんだ・・・じゃあ、わたしの<イマジナリィ・ネットスーパー>の使い方は、分かる?この世界に来てから2回使ったんだけど、手順がいくつもあって、使うのに時間がかかるのと、発動の基準が分からなくて・・えっと、つまり、使い方がまったく分からなくて、使ってみた感じ、物凄く不便で・・・」


『説明を読んだだけですが、ですよ。使いこなせさえすれば、カエデのこの世界での生活はになると思われます。ですが・・・そうでしたね。スキルの説明部分には、使い方は記載されていませんでしたね。通常は持っているスキルの使い方は、感覚で分かる物なのですが?』


「まったく分かりません!」


『では、使ってみましょうか。僕の目で見れば、発動条件が分かるかもしれません。』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る