異世界の神様 1
『其方は不慮の事故で死んでしまったのじゃ。あまりに不憫だったゆえ、こちらの事情もあり、其方の同意が得られれば、其方の魂を地球の神から貰い受けようと思っておる。どうじゃろう、異世界転移、してみんか?』
「異世界転移、ですか?」
じわじわと、自分の身に起こったことを思い出し、震えがくる。
思わず両手で自分の首を覆う。
切られた傷は無い。
そりゃそうか。
自分で自分に触れている感触はあるけれど、この神様の言うことが本当なら、ここは異世界の神様の領域で、わたしの肉体はあのまま、まだあのファミレスにあるのだろう。
・・・なんて心残りありまくりの人生。
『異世界に転移することに興味がある魂で、厳しい審査に合格した者の中から、更に適性のある魂をスカウトさせてもらっているのじゃ。其方の魂は邪気がなく平凡で、其方の自我が想像力豊かなところが気に入ってな。』
「はぁ・・」
『儂は創造神クレエ。儂の世界は其方の世界と違い、科学が発達しておらず、代わりに魔法が発達している世界なのだが・・・魔法というのは想像力がものをいう。魔力さえあれば、想像力があれば、それだけで便利な生活が送れてしまうため、いろいろと・・地球とは違って、発展しておらず、魔法が使える者と使えない者の間の格差が大きくなってしもうてなぁ。儂は地球の神が羨ましくて・・そこで、魔法がなくともあれだけ発展し続けている地球からスカウトした魂に、儂の世界で生活してもらい、可能であれば、ほんの少しでよいから、儂の世界に何かしらの刺激を与えて欲しいのじゃ。これは使命とかではなく、儂からのささやかな願いじゃ。』
「刺激、ですか?」
『何でもいいのじゃ。何か一つだけでもいいのじゃ。過去に何人か転移してもらっているが、食と娯楽に刺激を与えてくれた者が多いかのう。世界全体への影響はごく僅かじゃったがな。大きな刺激を与えてくれたのは、公衆衛生という分野を広めてくれた地球で医師であった者と、魔法を使わない建築技術を伝えてくれた者か。なにもせず、ただ異世界で冒険を楽しんだ者が一番多いがの。ほっほっほっ。』
創造神クレエ様は、控えめに見ても、地球にものすごく興味があるみたい。
そして、今のわたしみたいな目に遭った人が他にもたくさんいるってことか。
(楽しそうに笑うなぁ。しゃべり言葉と容姿がアンバランスだけど。・・ん?冒険を楽しむ?)
「冒険を楽しんだ人たちがいるんですか?魔法のない地球から来た人たちなのに?魔法が使えなくても安心して安全に暮らせる世界なんですか?」
『ほっほっほっ。こちらから乞うて転移してもらうのじゃ。儂の世界で生きていけるだけのステータスを持つ肉体を用意するのは当然であろう?』
「あ、そうか。地球の体はあっちにあるままなのか。ということは、魔法が使える?」
『其方が望めばな。儂の世界に魔法はあるが、すべての人族が魔法を使えるわけではない。魔法は使えなくても生きてはいけるが、上手く使えれば便利なものじゃ。』
今までどちらかと言えば器用では無かったわたしは、火魔法を暴発させてアフロヘアになる自分を想像してしまった。
(にしても、「魔法が使えなくても安心して安全に暮らせる世界なのか」という質問は
『今までの者たちは、新しい肉体を得られると分かると、若返りたいと願う者が多かったが、其方も願うか?』
「そ、うですね。このままでも構わないのですが、何も知らない新しい世界で生きるには、もう少し若い方がいいのかも・・・いろいろ学んで自分のやりたいことを摸索できる時間の猶予、学校で新しい世界のことを学べるくらいの年齢にしていただけると、ありがたいです。」
『儂の世界に転移してもらえると思って、良いのかの?』
もっと生きたかった。
あんなに理不尽に、突然死が訪れるなんて、考えたこともなかった。
もう、お父さんにも、お母さんにも、桃李にも会えない。
それでも・・・
「はい。よろしくお願いします。」
わたしは、創造神クレエ様の申し出を受け入れた。
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