異世界の神様 2
『儂の世界に転移してもらえると思って、良いのかの?』
もっと生きたかった。
あんなに理不尽に、突然死が訪れるなんて、考えたこともなかった。
もう、お父さんにも、お母さんにも、桃李にも会えない。
それでも・・・
「はい。よろしくお願いします。」
『では、想像力豊かで、異世界転移に興味を持っているサクラモリカエデ。其方は異世界での
「えっと、創造神クレエ様の世界にどのような能力が存在するのかを知らないので、歴代の転移者がどんな能力をもらったのか教えていただけますか?」
『それはならぬっ!!!!!』
「えっ!?・・・それほど、ですか?」
あまりの剣幕に、吃驚してしまう。
『こほん。・・・それでは其方を呼んだ意味がない。できるかできないかは儂が判断する。思いつく能力を申してみよ。』
(んー・・異世界に新しい刺激を求めているから、既存の概念で思考を制限したくないのかなぁ。う~ん。とは言っても、欲しいのは定番のチート能力なんだよねぇ・・・でも、その定番のチート能力を過去の転移者が望んだとは限らないよね。面白くないからやっぱり魂を地球に返すとか言われないといいんだけど、言うだけ言ってみよう。)
「定番かもしれませんが、転生ではなく転移であれば、生活していくために最低限必要な言葉の読み書きができる能力、転移した時の年齢で常識的に知っていなければならないことが分かるように、植物や動物、物の名称が分かる鑑定能力、天涯孤独で生活を始めるのであれば、常時自分の持ち物すべてを持ち歩くことができる異空間収納能力が欲しいです。」
『定番じゃな。言語理解と鑑定と収納は、ほとんどの転移者が望んで得た能力じゃ。じゃが、今までの転移者たちと違って、欲しい理由がしっかりしているのが気に入ったぞ。』
「・・今までの転移者は、無茶なお願いをしたんですか?」
『願われたものをそのまま与える訳がないのにのう。ほっほっほっ。』
(ですよねー。この3つは異世界モノでは定番で、そのレベルや能力によっては、これだけでチート無双できちゃうもんね。)
『この世界の常識も習慣も知らずに転移するのじゃ。それなりに使えるこれらの能力は与えよう。じゃが、これらの能力を持つ者は、儂の世界にはおらん。能力を持っていることを知られるということは、其方が転移者であることを公言していると同意じゃ。自身が口外さえしなければ、持っていることがばれない能力じゃ。口外しなければ、じゃよ。いいな。』
創造神クレエ様が念を押しながら、神気と思われる圧を膨れ上がらせる。
(ちょっ、苦しいです神様!・・体で危険性を覚えろってことですか!?)
圧に体が押しつぶされそうになる中、やっとのことで声を絞り出す。
「は、い・・気を・・付・・けま・・す・・・!」
すっと圧が消えると、創造神クレエ様は何事もなかったかのように、言葉を続けた。
『他にはないかの?』
「え?他にもいただけるんですか?」
『能力によるがの。』
創造神クレエ様は、願われたものをそのまま与える訳がないって言っていた。
貰える3つの能力だけでも、十分チートでなんとか生きていけるだろう。
ダメで元々。
他が無くても、これがあれば憂いなく生きていけるヤツをお願いしてみることにする。
「地球の物が購入できる、ネットスーパーという能力が欲しいです。」
『・・・ならぬ。』
さっきみたいな剣幕で無かったことに、安堵する。
「・・・・・やっぱり無理ですか。そうですよね。常々思っていたんです。異世界で地球の物がなんでも購入できるなんて、どうやって次元を超えて異世界に地球の物が届くんだって。そんなにほいほい地球の物がお取り寄せできるんだったら、地球に簡単に帰ることができるんじゃないかって・・・」
『聡いの。それもあるが、地球の物をこちらの世界の金で購入できんじゃろ、常識的に考えて。そのネットスーパーというのが使えるとしたら、地球と儂の世界の経済に支障をきたしかねん。故に、地球に存在する物は購入できん。まあ、物語としては非常に興味深く楽し気な設定ではあるがのう。』
「そうですね。」
『聞き分けが良いのう。やはり其方を選んでよかった。着眼点は良い。』
「はい?」
『地球に存在する物は、双方の世界に影響を与えるため無理じゃが、地球に存在しない空想の産物を購入できるネットスーパーの能力であれば、授けることができるぞ。』
「?????」
(何言ってるの、神様?意味不明。)
『ほっほっほっ。意味不明か。』
(!)
『心の声も全部聞こえておる。』
「きゃあああっ!スケベ!」
・・・創造神クレエ様が激しく咳ばらいをした。
『実際に地球上に存在しない、空想の産物。其方が好きなマンガ?アニメ?ラノベ?とかいうものに出てくるような、現実には存在しないものや、まだ存在していないものが購入できる能力じゃ。其方が望む空想の産物の創造には、創造神である儂が力を貸そうぞ。』
ちょっと待って欲しい。
思考が追いつかない。
地球の物を購入するのがダメなのに、創造神の力で創造した空想の産物は購入できるって、ネットスーパー以上にヤバい能力なんじゃないんだろうか。
これ、マジでヤバ過ぎる能力だ。
人の手には余る、神様しか持ってちゃいけない能力じゃん!!
「あの、お申し出はありがたいのですが、わたしのような平凡な人間には過ぎた能力なので、不要『ある程度常識が無くても問題ない年齢まで若返らせる故、自分で能力を検証しながら、スキルアップしていくと良いぞ。1人で異世界生活をスタートすることになるが、腹は減っても死なぬよう加護を与える。少しでも儂の世界に刺激を与えて欲しいが、まずは、儂の世界を楽しんでもらえると嬉しく思うぞ。ではな。』
創造神クレエ様が右手の指先を軽く振ると、わたしの足元に幾何学模様の光る円が現れ、体がその円に沈み始めた。
「ちょっ~・・!話はまだ終わってませんっ!!要りません!要りませんからねっ!!その能力!!」
創造神クレエ様はわたしの言葉が聞こえていないように振舞っていて、わたしの体はもう首まで円に沈んでしまっている。
「新しい世界についても何も聞いてないのに~!!」
とぷんっ・・・
一見親切そうだった創造神クレエ様に、唐突に、異世界に放り出された。
見渡す限り、綺麗な緑な場所に。
(あり得ない!!)
『何を言うておる。あの者たちの子どもがこの世界を知らぬはずがあるまい。』
創造神クレエは元の光の塊へと、姿を変えていく。
その顔は、笑顔だった。
『期待通りだ、サクラモリカエデ。』
とてもとても悲し気な、笑顔だった。
『この世界を・・救ってくれ。』
絞り出すように発せられたその言葉を聞いた者は、誰もいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます