異世界
異世界で初めて見たのは・・・・・見渡す限りの緑だった。
その緑の中に、放心状態でわたしは立っていた。
(ほぼ説明なしで放り出すなんて、酷いよ。これからどうしろって言うのよ。)
異世界って感じはしない。
地球上のどこかにありそうな、緑豊かな大自然、って感じだ。
空を見上げれば、青い空に白い雲。
これも地球と同じ。
違うところは、太陽。
よく異世界モノであるような、太陽が2つある、のではない。
太陽らしきものは1つ、だと思う。
大きな太陽のまわりを、小さな、太陽と同じように光るものが数個、大きな太陽のまわりをゆっくりと、けれどこうして短時間見ているだけでも分かるくらいのスピードで回っている。
数が特定できないのは、太陽の向こう側に消え、太陽の向こう側から現れるものがいくつかあるため、正確な数が分からないからだ。
わたしが今立っているのは、3~5センチくらいの高さの細長い、牧場でよく見るような草の草原。
右手側には地平線が見えるくらい、この草原は広い。
ところどころ咲いている小さな白い花が、草原の良いアクセントになっている。
うん。これは・・・
風に揺れる深緑の草も白い花もとても綺麗で、思い切り転がり回りたくなる誘惑に打ち勝つのがたいへんな環境だ。
左手側には森。
森の手前は草むらがあり、所々に低木やお母さんが育てていたブルーベリーに似た茂みのようなものがある。
(あれは花じゃなくて実、だよね?後で食べられるか鑑定してみよう。)
森の奥には富士山の半分くらいの高さの山があり、森は山に近付くにつれ、緑が深くなっている。
草原のさわやかさとは対照的に、山の方からは嫌な感じがする。
(緑のグラデーションは綺麗なんだけど、近づくのは嫌だなぁ。きっとこういう感は大切にした方が良い。あの山には近づかないようにしよう。)
魔法がある世界って言ってたから、魔獣もいるかもしれない。
聞いてないけど、と、またふつふつと怒りが湧いてくる。
冷静にならなければ生存率が下がるぞ、と自分に言い聞かせる。
これだけ見晴らしがよければ、見つかりやすい。
これからのことを考えるために、わたしは草むらに点在するブルーベリーの茂みのようなものに向かって歩き出した。
(なんだろう、この違和感。あの茂みまでの距離感と自分の歩いた距離が合わない感じ。目測より目的地がだいぶ遠い。)
1~2分で到着すると思ったのに、5分は歩いた気がする。
地球では運動音痴だったけど、この体は体力があるようで、まったく疲れを感じない。
目標だった、美味しそうなブルーベリーに似た青い実の茂み(実だった!)に到着して、
(鑑定、って言えばいいのかな?)
たわわに実っている青い実を見ながら、呟いてみる。
「鑑定。」
すると、青い実の手前に半透明の板が浮かんだ。
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毒性のある木の実
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「鑑定できた!でも残念。美味しそうなのに・・異世界怖いなぁ。鑑定がなかったら、
それからまわりにある物をいくつか鑑定してみた。
結果は、
・草
・石
・草
・草
・木
・木
・石
という感じだったので、鑑定結果は簡易なものなのだろうと思われた。
(さっき体に害のあるものを教えてくれたのは、知らないモノを食べて早々に命を落とさないようにという、神様のサービスかな?)
それでもなにも分からない、知らないものがどんなものなのか、簡単にでも分かるのはすごく助かる。
例えば石や木の枝に擬態した虫が分かる、それだけでも儲けものだ。
さてさて。
毒性のある植物であれば、野生の動物が近づく確率が低くなるだろう。
最初に毒性のある植物を見つけられてラッキーだったと思おう。
わたしは青い実の茂みの近くに座り込むことにした。
座ろうとして気付く、わたしの服装。
足首までの茶色い長いスカートの上に、白いエプロンを付けていた。
上には生成り色をした木綿っぽいゴワゴワのブラウス?
ただ四角く切った布を縫い合わせただけの袖と身ごろ。
伸縮性のない布でできていて、動き辛い。
スカートも四角く切った物を縫い合わせ、ウエスト部分を筒状に縫って紐を通して縛っているだけ。
なのに、白いエプロンはフリル付きの綿のような柔らかい布でできているというアンバランスさだった。
靴は、靴と言えるのだろうか。
厚めで荒い目の木綿っぽい布を2枚重ねにして、足底部分の布の間に板のようなものが入れてあるっぽい。
板のまわりを縫って、歩いても板がズレないようにしてあるようだ。
それを足に履いて、足首まわりに紐を何周かさせてから蝶々結びにしてある。
履き心地は、すこぶる悪い。歩くのに時間がかかったのは、この靴のせいだろう。
鏡が無いので目の色がどうなっているかは分からないけど、見える範囲では、髪は青みがかった白というか銀色?で、肌は白めなんだけど、血管がみえるような白さではない。まるで陶器のようにすべすべだ。
いくつ若返らせてくれたのだろうか・・・やけに手足が小さい気がする。
(新しい肉体、日本人だった時とは別人なんだなぁ。顔もまったくの別人なんだろうか。)
華やかで人目を惹く美貌のお母さんと弟の顔も好きだったけど、子どもの頃は自分だけお母さんに似ていないと大泣きしたこともあったけど、お父さん似のそこそこ可愛い系の自分の顔が気に入っていた。
(この世界でもあの顔が良いなぁ。西洋系の血が入っているから、この白いすべすべ肌でもあの顔は合うと思うんだよね。)
ひとしきり今の自分の観察をした。
持ち物は、無かった。
アキラメルノハマダハヤイ
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