突然訪れた死 2

来客を告げる音が店内に響き渡ると同時に、店員さんたちに緊張が走った。


(どうしたんだろ?今入って来たオジサンがどうかしたのかな?)


友だちも異変に気付いたようで、一斉に口を噤んで様子を見る。


すると、呼び鈴を押していないのに、店員さんが「お待たせいたしました」とやって来た。

そして声を潜めて、こう言ったのだ。


「恐れ入りますお客様。本来他のお客様のことをこんな風に言うのは良くないのですが、今入って来た男性のお客様が、なんというか、その、静かな環境を好まれる方で、あの、できるだけ、お話はあのお客様に聞こえない程度の声でされるか、場所を変えられた方がいいと思います。」


そう言う店員さんの顔色は悪い。


(客商売をしているのに、場所を変えるのを勧めるって、相当だ。)


「空いたお皿、お下げいたしますね。」


声を通常の音量に戻した店員さんは、今下げる必要が無いドレッシングが入っていた小さな食器を2つトレーに載せ、厨房に戻っていった。


わたしたちは顔を見合わせて、小声で話し始めた。


「どうする?」

「店員さんがあそこまで言うんだもの。お店変えようよ。」

「でも、まだ頼んだものほとんど手を付けてないじゃん。」

「じゃ、速攻で食べて、ほかでお茶しよ。」


わたしたちは超小声でしゃべっているつもりだったのだけれど、小さい声でしゃべっていても、毎日発声と滑舌の訓練をしているわたしたちの声は、普通の人の声よりよく通ってしまった、らしい。


店員さんが注意喚起していたオジサンに、わたしたちはロックオンされてしまった。


「うるせえんだよ、てめえら!ここはてめえらの家じゃねえんだ!静かにしろ!!」


店内が一瞬にして、水を打ったように静かになった。

店内で聞こえるのは、怒鳴り散らすオジサンの声と音楽だけ。


まわりの人々の顔には驚き、恐怖、そして、目を付けられたのが自分でなかったことへの安堵が見て取れた。


わたしたちは超小声囁き声でしゃべっていたつもりだった。


わたしたちより子供連れのグループの方が、はるかにうるさかった。


けれど、その男は、わたしたちにだけに文句を言ってきた。

ギラついた、焦点の合わない目で、よだれを垂らしながら。


「出よう。」


友だちの1人が荷物を抱えて立ち上がった。


「そだね。あの人の顔覚えといて、あの人がいるお店に入らないようにしよ。なんか、危なそうな気がす…カエデ!!」


たくさんの悲鳴と、何かが割れる音が聞こえる。


(熱い。)


そう感じた次の瞬間、視界の端に、笑いながら椅子を振り回して、わたしの大切な友だちを次々と薙ぎ倒している男が映った。


わたしは男に椅子で薙ぎ倒される前に、床に崩れ落ちていた。


わたしだけ、背後から刃物で首を切られたのだ。


(熱い・・でも、寒い。暗い・・怖いよ。誰か、明かり付け・・て・・・)






『遠い世界から我が世界へようこそ。サクラモリカエデ。』


ぼーっとした頭で、声のした方を見る。


なんか、眩しく光る人型がある。


(・・・誰?眩し過ぎて見えない。)


『そんなに神々しいか?(どやぁ)』


(どやぁ、って擬音が聞こえた気がする。誰?眩しくて、神々しいかすら分からないよ。それに、ここどこ?)


視界がぼやけているが、自分の視力に異常が生じたのか、まわりが白の濃淡のみの色彩のため歪んで見えるのかが分からない。


『ふむ。では、これでどうじゃ?』


光が徐々に治まってきて、そこにはこの世のものと思えない、美しい人がいた。

ゆったりとして飾りのついた上品な白いシャツに黒のスラックス。

金色の長い髪を後ろで束ねてから前に流している。

中性的で性別不明、大体の年齢も分からない。


(・・・人?)


『儂はこの世界の神じゃ。』


(声でも性別判別不能。でも綺麗な声。)


「この世界・・・・・・・って、神様!?」


頭に?マークが、ポンポンと、音を立てて並んでいく。


(え?なんで音がするの?)


きょろきょろとまわりを見回すと、今度は自分の顔のまわりに?マークが次々と浮かんでくる。


『演出じゃ。』


「演出て・・・(お茶目か!)」


予想外の展開に力が抜けた。


『少しは落ち着いたようじゃな。今から大切な話をする。よく聞くのじゃ。』


「・・はあ。」


『其方は不慮の事故で死んでしまったのじゃ。あまりに不憫だったゆえ、、其方の同意が得られれば、其方の魂を地球の神から貰い受けようと思っておる。どうじゃろう、異世界転移、してみんか?』

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