イマジナリィ・ネットスーパー始動 1

「8歳!?19歳より少し若い方がいいって言ったけど、いくら耐性があっても・・8歳の子供で、どうやって右も左も分からない異世界で生きて行けって言うのよ~!!」


思いっきり叫び倒したいところだったのだけれど、最初の叫び声をあげた途端に20mくらい離れたところの草むらが揺れたため、一気に冷静になった。


その場からゆっくりと立ち上がる。


続いてガサガサッと音が聞こえてきて・・・その音が近づいて来る!

体が緊張し、背中に嫌な汗が流れる。

恐怖で体が動かなくなる。


音がすぐそこまで近づいて来て、わたしの緊張が最高潮に達した時、音が発生していた草むらから、頭に黒い2本のクルリと丸まった角の生えた、真っ白い犬のような生きものが顔を出した。


(この流れ・・見たことも無いこんなに大きな生き物って・・・)


顔を出した白い生き物は、地球産の大型犬なんかより、遥かに大きかった。

全身が見えていないけど、頭の高さから推測するに、牛や馬より大きいかもしれない。


慌ててスキルの名称を唱える。


「鑑定!(超小声)」


白い生き物の頭上に、青い半透明の板が現れた。


********************


呪■■■■獣:害獣(■■■■)


********************


自分のステータス情報を見た直後だと、情報量が少なすぎると感じてしまう。

これが鑑定<Lv.1/10>。


無いよりはずっとマシだと思っていたけれど、魔物の情報は別!

もっと知りたい、知る必要がある、できるだけ早く高くレベル上げしなきゃ、と速攻で決意する。


---人間て欲深い。---


とにかく、この生き物は動物ではなく魔物であると知ることができた。


(魔法があるとは聞いたけど、本当に魔物がいる世界だなんて・・考えなしに大声出したせいで、魔物を呼んじゃったんだ・・・武器になるようなもの持ってないし落ちてないし、寿命以外では死なないと加護にあったけど、今この時が寿命だったら・・・どうすればいいの?)


ぐるぐる考えていると、犬のような生き物と目が合ってしまった。

背筋を、嫌な汗が滝のように流れ始めた気がする。


意を決して、犬のような生き物から目を放さず、ゆっくと後ろ向きに歩き始める。


一歩、また一歩、離れる。

8歳の子どもの足の1歩は、とても小さい。


なんとか逃げ切りたいわたしの内心をあざ笑うかのように、犬のような生き物は草むらからその全身を現そうとして・・その場にどさりと倒れた。


「はぇ?」


変な声が出た。


よく見ると、犬のような生き物は口から舌をだらりと垂らし、大きく胸を上下し、浅い呼吸をしている。

体の下には、黒い液体がじわじわと広がっていた。


(黒いけど、これ、もしかして血?怪我してるの?それとも、傷ついて弱ったフリをして、わたしが近づいたら一気に襲いかかるつもり?)


本当に怪我をしているのであれば、今なら逃げられるかもしれない。

けれど、苦しそうなその顔を見てから、恐怖で動かなかった足が、別の理由で動かなくなった。


必死に生きようとするその姿に、先程までの恐怖は消えていた。


「しょうがないなぁ。」


何も持たないこの小さな手で何ができるか分からないけど、取り敢えず状況を確認することにした。


白い生き物の体の半分は草むらの中なので、体の状態がまったく分からない。

草むらから引っ張り出すのは、この8歳の小さな体では無理だ。

白い生き物は、わたしよりはるかに大きい。


「この草が自分で歩いて動いてくれるといいんだけど、そんな魔法持ってないし・・・そもそもわたし魔法系のスキルが無・・」


ピコン!


ゲームのレベルアップの時のような音と共に、目の前に半透明の板が現れる。

ステータスが表示されるものと形は同じだけれど、色が違う。

ステータスの板は白、こっちは緑だ。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 【商品名:植物の根が足になって動き回れるようになる薬】


 <購入しますか?>


  □ いいえ


  □ はい


   対価 □ 金貨5枚

      □ 魔力100

      □ 物々交換 <交換するものを入力(     )>

      □ 卸


 ※ 該当の□をタッチ、または選択項目を音声入力してください

 ※ 物々交換を選択した場合は、交換するものを(     )に音声入力すると、査定を開始します


 <決済開始>


 ※ 選択が完了すると、<決済開始>がアクティブになります

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「何これ?まさか、これがイマジナリィ・ネットスーパーなの?」


パソコンやスマホで買い物した時の様に、たくさんの商品から欲しいものを選んで購入するネットスーパーを思い描いていたわたしは、想定外の画面に固まった。


そして、さっき決心したばかりの、


1 要らないと断ったスキルだし。

2 元々無かったものだと思えばいいし。

3 こんなチート過ぎるスキルは使わないようにしよう!


をすっかり忘れて、この状況に集中してしまった。


「金貨と物々交換は分かるけど何も持ってないし、魔力って、わたしの魔力は10しかないから無理ゲーじゃない。残りは・・なによ、”おろし”って。」


ピコン!


※ 補足説明「おろし

この世界に無いものを創り出す時に対価。ダンジョンに同じものを卸すことを条件に、商標登録レシピ使用料の対価として、卸したものと同じものを得ることができる。


突っ込みどころ満載だけど、何も持っていないわたしに選択肢はない。

ポチポチと画面にタッチして選択していく。




◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 【商品名:植物の根が足になって動き回れるようになる薬】


 対価 ■ 卸


 <決済開始>


 ※ 内容を確認して、よろしければ<決済開始>をタッチ、または「決済開始」と音声入力してください

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「決済開始」


音声入力をすると、ブォン、と音がして、一瞬画面が暗くなる。

10秒くらい待つと、画面が明るくなり、別の文字が表示された。




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 【植物の根が足になって動き回れるようになる薬 出荷準備完了】


 <配送先を指定してください。>


  □ ストレージ


  □ 目の前


  □ その他<配送先を入力(     )>


 ※ その他を選択した場合は、配送先を(     )に音声入力してください


 <配送開始>


 ※ 選択が完了すると、<配送開始>がアクティブになります

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「あの真っ白い犬のような生き物がいる草むらに配送して。」




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 【植物の根が足になって動き回れるようになる薬 出荷準備完了】


 配送先


 ■ 真っ白い犬のような生き物がいる草むら


 <配送開始>


※ 内容を確認して、よろしければ<配送開始>をタッチ、または「配送開始」と音声入力してください

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




「配送開・・あ、草むらの草にだけ薬がかかるようにしてもらえる?」


(怪我してるかもしれないあの子にかかって、症状が悪化するのは可哀そうだもんね。)




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 【植物の根が足になって動き回れるようになる薬 出荷準備完了】


 配送先


 ■ 真っ白い犬のような生き物がいる草むらの草


 <配送開始>


※ 内容を確認して、よろしければ<配送開始>をタッチ、または「配送開始」と音声入力してください

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「配送開始!」


なにも無い草むらの上の空間に、薬が入っていると思われる瓶が出現した。

何が起こるのか見ていると、薬の瓶から濃緑の液体が出てきて、見る見る霧状になって広がっていく。


「ふわぁ・・流石魔法のある世界。どうなってるんだろ・・」


不思議な光景にぼーっと見入っていると、霧が草むらに吸い込まれていった。


薬が入っていた瓶は、草むらに落ちてガシャンと音を立てて割れてしまった。


(あ・・大きめの瓶だったから、お水入れるのに使えそうだったのに・・)


その音が合図になったかのように草むらが揺れ始め、勢いよく草が空中に飛び出してきた。

飛び出した草には、根ではなく、足が生えていた。


「・・シュールすぎる・・」


気持ち悪いながらも目が離せないでいると、地面に着地した足の生えた草たちは軽やかに走り始め、少し離れたところに生えている草の間に駆け込み、すごい勢いで足で土を掻き、潜り始めた。

そして、何事も無かったように、まわりと同化して草むらの一部となった。


「ふぇえええ・・気持ち悪かったぁ・・」

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