イマジナリィ・ネットスーパーの使い方 2

目の前には、ハンバーガーとポテトとナゲットとアップルパイとコーラとにぎり寿司のセットが入っていると思われる箱が、見上げる程の山となっていた。


『水桃は神気に満ちた亜空間で作られた果物だから、対価が大きすぎたか。』


恐る恐る、その1箱を手に取る。


(あ、凄い。ちゃんとハンバーガーやポテトは熱々で、コーラやお寿司に熱が伝わらないようになってる。)


セットは3つの箱をくっ付けたような状態だった。

ハンバーガーやポテトが入っている保温効果のある箱の上に、にぎり寿司が入っている保冷効果のある箱が重ねてあり、重なった2つの箱の側面に、氷入りのカップにストロー、背が低くて太めのペットボトル入りのコーラが倒れないように固定されて入っている箱がくっ付いている。

3つの箱は、軽く力を加えるだけでバラバラになった。


にぎり寿司が入っている箱は透明な蓋で覆われていて、蓋に触れると冷んやりしている。

ハンバーガーやポテトからは湯気が上がっている。


『上手いな!』


声の主を見ると、ミルクが箱に顔を突っ込んでハンバーガーに齧りついていた。


ミルクの体の大きさだと、ハンバーガーなんてひと口にもならない。

牛や馬がハンバーガーを食べている姿を想像してみて欲しい。


「えっと、コーラ、この飲み物がペット・・瓶にはいってるんだけど、ミルクが飲みやすい様になにか大き目の容器に入れたいんだけど・・・」


『ねぇカエデ。これ、僕がもらってもいい?』


山積みの箱を見ながらミルクが聞いてきた。

つられてわたしも山積みの箱を見上げて、首肯した。

元々水桃はミルクのだからね。


私が箱を見上げていると、ミルクが開いた亜空間から、たくさんの小さなミルク(3頭身の仔犬)が飛び出してきて、とてとてと二足歩行でハンバーガーとポテトとナゲットとアップルパイとコーラとにぎり寿司のセットが入った箱を亜空間に運び込み始めた。

その内の一匹が、わたしの前に大きな木でできたボウルを置いて、小さくお辞儀して箱を運ぶ作業に参加した。


私の視線は、新たな異世界のもふもふに釘付けになった。


(か、可愛い、可愛い、可愛いぃぃ~!!!なんてファンシーな生き物!!)


「ミルク!ミルク!この子達は誰!?ミルクの兄弟?」


『・・・僕の分身です。これも僕のスキルで、僕は自分の体の一部、抜けた歯や爪、体毛から、自分の分身体が作れるんです。但し、大きさはこれが最大です。』


「可愛い~!!」


私が見悶えていると、ミルクが少し不機嫌になったように感じた。

契約の効果か、ミルクの気持ちがなんとなく伝わってくるようになったのだ。


「ミルク、どうしたの?」


『・・なんでもなです、カエデ。せっかくだから、これでごはんにしましょうか。』


そう言えば、私が来た時には高かった太陽(?)の日差しも、今では地平線近くまで移動している。


「異世界最初の夜は野宿か。」


『暫く旅をすることになるでしょうから、カエデのスキルで持ち運び可能な小屋やテントのようなものを購入しても良いですし、毎日僕の結界魔法で簡易な家を作ることもできますよ?僕は防御結界が張れるので、地面の上に柔らかい寝具だけ置いて空を見ながら眠るのも楽しいですよ。』


「選択肢がたくさんあるって素敵だね。その柔らかい寝具って、ミルクのことかな?」


ミルクは答えず、にこりと笑った、気がする。


そんな会話をしている間に、大量にあった箱と小さなミルクたちは消えていた。


(もう自分たちの世界に帰っちゃったんだ。残念。あのもふもふに埋もれて眠れたら、しあわせかも。)


それからミルクは、器用に箱を開きながら、ポテトとナゲットとアップルパイを食べ、わたしが器に注いだコーラを飲み、握りずしを食べてから、一点集中食べを始めた。

次々と箱を開け、すべての箱からまずはハンバーガーを、次にポテトを、次にナゲットを、という感じだ。

見る見る20箱ほど食べてしまった。


「すごい食欲・・・」


『まだまだ食べられますが、久しぶりの食事です。あとは大事に取っておきましょう。』


そうだね。その大きな体じゃ、20箱じゃ全然足りないよね。

あれ?さっき、亜空間から果物いっぱい出して食べてなかったっけ?


『<イマジナリィ・ネットスーパー>・・すごいスキルですね、カエデ。』


「あ、そうかな。確かに、こんな使い方ができるなんて、思いつきもしなかったよ。発動条件はなんとなく分かったかもしれないけど、やっぱり使い勝手が悪くて・・・」


『これだけのスキルです。手間がかかることは、悪いことではないと思いますよ。欲しいものを思い浮かべてから購入するまでに何段階もあるということは、その度にしっかりと購入するものについて考えられるということです。このスキルは空想の産物しか購入できないという縛りがあります。カエデも気付いているようですが、一度購入したものは、この世界で存在することになってしまい、もう二度と購入することはできません。そう考えると、注文してから手元に届くまで、段階が考える時間があるのは、良いことだと思いませんか?』


「・・そう言われると、そんな気がしてきた。でもね?あのね?よく分からないんだよ、空想の産物の定義が。ミルクの言う通りなら、理解できるんだけど、この世界には魔法があるんだよね?なのにどうして、あの魔法のスクロールが購入できたんだろう?この世界に浄化の魔法はあるって、ミルク、言ったよね?」


『ああ・・・うっかりしてました。あの日の転移者トランスジーンの言葉、覚えていますか?』



“おまえらが元に戻れないように、この世から神聖魔法や浄化魔法は消えてしまえ!魔法も害獣を殺すための攻撃魔法だけでいい”



「あ・・・」


『あの日、この世界から神聖魔法と浄化魔法は消えてしまいました。だから、カエデが使った3種類の魔法がこの世界で発動したことは、奇跡のようなことなのです。そしてその内の1つ、上級浄化魔法をカエデはスキルとして習得した。これがどれほど凄いことなのか、分かりますか?』


「私のスキルが、ことわりを覆したんだね・・?」


『そうです。この世界を元に戻せるかどうか分からない今、カエデのスキルで神聖魔法や浄化魔法のスクロールをおろしで購入してもらい、できるだけ多くのダンジョンに仕入れて貰えると、嬉しいです。卸せるかどうか、新たに生まれた神聖魔法と浄化魔法がこの世界で攻撃魔法以外の無属性魔法として認められるかも分かりませんが、僕が神獣に戻れたように、カエデのスキルなら、この世界に蔓延してしまった邪魔素を排除して、少しでも暮らしやすい平和な世界に戻れるような、更なる奇跡を起こしてくれるかもしれないのです。』


「・・・・・それは、やらない方がいいと思う。」

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イマジナリィ・ネットスーパー ~スローライフする前に、異世界救っちゃったみたいです~ のあ きあな @kiana_noa

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