神獣フェンリル 2
『‥ホント、スミマセン。』
神獣フェンリル様が頭を下げながら、謝ってきた。
「え?なんで?なんで神獣フェンリル様が謝るの?いやほんと、ここに落とされて良かったんですよ。人のいるところに落とされて、人攫いに掴まって、奴隷生活一直線コースもあったかもしれないんですから!異世界初の遭遇者が憧れの神獣フェンリル様で、もふらせてもらえて、すごくラッキーだと思ってます!」
神獣フェンリル様がお眠りになっている間の自分の愚行を吐露してしまったことに気付かないまま、なんとか神獣フェンリル様に頭を上げてもらおうと、必死にしゃべり続けた。
神獣フェンリル様はくすくすと笑いながら、頭を上げてくれた。
『では、創造神クレエ様が説明し忘れたこの世界のこと、そして僕たち神獣について、これから話してあげましょう。お腹、空いてませんか?』
「あ・・・空いてます。」
神獣フェンリル様は雄なので、何となく初対面の異性に言うのは恥ずかしかったけど、空腹には勝てなかった。
神獣フェンリル様が空を前足で縦に動かすと、そこに亀裂が生じ、神獣フェンリル様はその亀裂に前足を突っ込んで、いくつかの果物らしきものを取り出した。
「それがストレージ、ですか?」
『いえ、ストレージとは似て非なる物です。すべての神獣が所持しているわけではありませんが、僕は亜空間に自分独自の世界を持っていて、その世界にあるものを空間を開くことで取り出すことができます。中は神気に満ちているので人の身では入ることができませんが、取り出したもの食べる分には問題ありませんよ。使うのは2年ぶりです。』
「そうですか。」
わたしのスキル<ストレージ>は、自力で検証するしかないみたいだ。
『僕にとってはただの果物ですが、人間はこれを食べると、魔力が少し増えることがあるそうです。どうぞ。』
「ありがとう、ございます。」
差し出された2つの果物は、地球の林檎と桃に似ている。
わたしはその場に足を前に投げ出して座り、広げたエプロンの上に果物を置いた。
神獣フェンリル様もわたしの横に座り、亜空間から果物を取り出しながら食べ始めた。
物凄い勢いで。
少し悩んで、林檎に似た、林檎よりまんまるな赤い実に齧り付いた。
「はわわ、美味しい~。体に沁み渡る~。」
『小さいのに、ずいぶんしっかりお話ができるんですね。』
ピシッと固まるわたし。
(そっ・・・か。今のわたしは8歳だった。子どもらしくした方が良いのかな。いやいやいやいや。絶対に直ぐボロが出る。素でいこう。)
「神獣フェンリル様は、お名前なんて言うんですか?わたしはカエデです。」
『ああ、人間には名前があるのですね。僕たち神獣には真名はありますが、人間のような名前というものはありません。』
「神獣フェンリル様って、他にもいらっしゃいませんか?」
『いますね。』
「お名前、あった方が良くないですか?」
毎回神獣フェンリル様って呼ぶのが面倒だなぁと思ったわたしは、年齢を利用して、少し上目遣いでおねだりしてみる。
今の容姿が分からないけれど、可愛めだと良いなぁ。
わたしのおねだりに神獣フェンリル様が大きく目を見開き、ニヤリ、と笑った気がした。
『・・・では、名付けてください。』
「じゃあ、遠慮なく。真っ白で良い匂いがするから、ミルク!!」
『え!?ミルクって家畜の乳じゃ・・・』
ぐんっと神獣フェンリル様とわたしの距離が縮まり、手から林檎に似た実が、エプロンから桃に似た実が地面に落ちる。
見えない何かに動かされる!
抗うことができないまま、神獣フェンリル様の額とわたしの額が重なる。
重なったところからから赤い光が生まれ、次第に糸状になり、わたしたちを包んでいく。
(やだ、なにこれ、怖い!)
怖くて目を瞑ろうとしたところで、神獣フェンリル様の目が見えた。
その目は、なんというか、してやったり、って感じの、いたずらっ子の目だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます