イマジナリィ・ネットスーパー始動 3
「えっと、使い方は、定番だとスクロールを読んだり破ったりだけど、どうやって使うんだろう?」
3本のスクロールをそっと地面に置いて、その1本を手に取る。
使い方が分からなくて焦るっていると、頭の中に男の人の声が響いてきた。
艶のある、成人男性の声、だと思う。
『スクロールを開いて、その中の2つの魔法陣それぞれにてのひらを当てて。』
それは、今にも消え入りそうな、弱々しい声。
まさか、と白い生き物を見ると、その目だけが、今にも消えてしまいそうな命の生き物の体の中で、力を失っていなかった。
「教えてくれて、ありがと。」
きっとさっきの声はこの子だ。
わたしが何をしようとしているのかが分かって、この子が教えてくれたんだ。
・・・生きたくて。
「よしっ!」
わたしは1本目のスクロールを開き、その中に描かれている複雑な2つの模様に、それぞれ右てのひらと左てのひらを押し付けた。
途端に、スクロールから眩しい光が発生!
「うわっ、眩し!」
直ぐに光は収まったけれど、目の前がチカチカして、視界に映る色彩が変だ。
うぅ~っと唸るわたしの頭の中に【上級浄化魔法<Lv.10/10>】と、スキル名とレベルが浮かんだ。
使い方の説明も一緒に。
あの子の体が汚れ一つなく綺麗になって、傷口が殺菌、消毒されるイメージをする。
「えっと、これは魔法だよね。だから、まずは、ん~っと、魔素変換の魔力により、あの子の体を浄化!」
なにしろわたしのMPは10・・さっき鑑定したから今は7もないだろう。
大気中の魔素のお世話になります!
お世話にならせてください!
あなたが力を貸してくれなかったら、わたしは魔力枯渇で気を失います!
創造神クレエ様は魔法は想像力がものをいうと言っていた。
スキルの使い方は分からないけど、これで何とかなってください!
最初は、きらきらと空気中の異物に太陽の光が当たってきらめくような感じだった。
きらめきは徐々に大きくなり、わたしたちのまわりに小さな白い光の粒が生まれ始めた。
それらがどんどん集まってきて、白い生き物の方へ動いていく。
白い光の粒は次第に密度を増し、白い生き物を包み込んで光の塊になってしまった。
(あの黒い液体を綺麗にしてるんだよね?漫画みたいあっという間にってことはなさそう。よし、次のスクロールだ。)
わたしの視線が、片方のスクロールに向く。
(呼ばれてる気がする。)
2本目のスクロールを開くと、さっきとは異なる複雑な2つの模様が描かれていた。
今度は両手をその模様の上にセットしてから目を瞑り、両てのひらを模様に押し付ける。
目の前が白くなったけれど、さっきほどの
今度は頭の中に【神級解呪魔法<Lv.10/10>】と、スキル名とレベルが浮かんだ。
どのタイミングで魔法を使おうかと顔を上げると、光の粒が霧散し、白い生き物本来の姿が現れるところだった。
全身密度の濃い白い長毛で覆われた体。
大きさを考えなければ、丁寧に手入れをされたわんちゃんに見える。
その体のあちらこちらから、変なものが見えていなければ、だけど。
「うん。体にこびりついていた黒い液体は消えたね。じゃ、次行くよ。魔素変換の魔力により、あの子にかかっているあらゆる状態異常を解呪!」
(イマジナリィ・ネットスーパーに解呪魔法をお勧めされたけど、わたしにはあの子がどんな状態にあるのか分からない。
解呪魔法って言うくらいだから呪いの類だとは思うんだけど、特定して外したら目も当てられないからね。)
今度は先程とは逆に、白い生き物から黒い靄のようなものが浮き出し始めた。
「うえぇ・・気持ち悪い。嫌な感じがビシバシするぅ・・」
怖気と寒気を感じながら、最後の【上級治癒魔法スクロール】に取りかかろうとすると、
『ぐうぅう・・』
白い生き物が苦しみ始めた。
唸りながら、体を横に倒し、四肢を必死で動かしている。
白い生き物が藻掻き苦しむほどに、黒い靄が白い生き物の上空に集まって、どんどん大きな雲のようなものになっていく。
(え?これ、大丈夫なの?)
虫の息一歩手前だった白い生き物が、必死で体を動かしている様は、とても見ていられるものではなかった。
それでも、魔法をかけたのはわたしだ。
わたしには、責任がある。
目を背けてはいけない、と思った。
長い時間だった。
わたしには終わりが来ないんじゃないかと思えるほど長く感じられたけれど、実際は数分だったかもしれないし、数時間だったかもしれない。
そして、空中に集まった黒い靄の雲は、だんだんと小さくなり、
小さく小さくなって、ぽひゅんと間の抜けた音を出して消えてしまった。
残ったのは、ぐったりと四肢を投げ出して横になった白い生き物。
身動き一つしていない。
(まさか、まさかまさか・・間に合って!)
両てのひらを最後のスクロールの魔法陣に押し付ける。
「魔素変換の魔力により、あの子を治癒!あの子の命を繋ぎ止めて~っ!!」
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