第11話/負けヒロインと僕がダブルデートに赴いた時



 デートには相手より先に待っていたいタイプである楯とエイルは、当然のように集合一時間前に到着。

 ワクワクそわそわと待ち続ける、楯の頭の中は雪希のデートコーデ妄想。

 当然の様に、エイルの頭の中も秀哉のデートコーデだ。


「――まて、とてつもない事に気付いてしまったぞエイルッッッ!!」


「ちょっと、妄想するので忙しいから後にしてくんない?」


「いいのか? ……その妄想が壊されるとしてもか??」


「は? どういうコトよ」


「………………僕達と同じかもしれない、秀哉と前浜さんは付き合っているんだ、お互いの服装は……」


「ッ!? んなっ!! なんてコトに気付くのよ楯!! 脳が破壊されちゃうじゃない!!」


 どうして気付いてしまったのか、好きな人が他の異性の好みの服装で染められているとか。

 楯とエイルは頭を抱え身を捩って悶絶、不審そうに見ている他の客の視線など気にしていられない。

 そんな時だった、楯はエイルに違和感を覚え。


「…………なぁ、今日の君ってばちょっと変じゃないかい??」


「は? どこが?? どっからどー見てもパーフェクトでしょ、千作君好みの露出低めでちょっと甘めのコーデ、完璧じゃない……え? どこか変なトコあるの!?」


「いや君のデートコーデは完璧だ、そうじゃなくて、んんーー? なにか足りない気がするんだよなぁ……どこだろう、ツインテールは結んでる紐がお洒落になってるだけだし、なんだろ、すっごい違和感あるんだよな…………あー、そういえば昨日もそうだったかも」


「昨日も!? そういうコトは早く言いなさいよッ!」


 二人でうんうん唸って悩む、エイルはスマホの自撮で己の体を写してチェック。

 楯は彼女の全身を舐め回すように見る、しかし違和感の原因がわからない。

 彼としては、とても落ち着かない物を感じて。


「なぁ、ちょっと触っていいかい? 触ったら分かるかもしれない!」


「わかったわ、二人が来る前にさっさと原因と突き止めるのよッ!!」


「手早くすませるよ、――髪はいつも通り艶やかでサラサラだね、顔も……」


(ちょッ!? 近い……顔近いってばたぁ君!? きゃっ!? 首筋へんな手つきで触らないでよバカぁ!!)


 ここが人前じゃないなら、遠慮なくぶん殴っていたのに、とエイルは拳を握りしめて恥ずかしがった。

 どうして首筋を人差し指でなぞるのか、そもそも髪を優しく指で梳くとかどうかしている。

 そうこうしている内に彼はまるで恋人同士の戯れのように、彼女の握りしめた拳を丁寧に撫でながら一本一本開いていく。


(んもおおおおおおおおおッ、何がしたいワケ!! ――って、ああああああああああっ、掌にキスするんじゃない!! そして首を傾げて不思議そうにすんな!!)


(違うなぁ……違和感はここじゃない、んー? 念の為に指を噛んでおくかな)


(ひゃうっ!? 噛むな噛むな甘噛みするな!! 変な声出そうになっちゃったじゃない!! う゛う゛う゛っ゛、そういうコトするなら夜に二人っきりでしなさいよ!!)


(何処だ? 近い気がするんだ、後もう少しで何かが――――)


 傍目から見れば熱々バカップルそのものであるが、本人達は至極マジメである。

 もっとも、結果としてエイルとしては羞恥プレイに耐えているだけだし。

 楯は無自覚に彼女の小さな弱点を攻めていて、野外プレイ直前という有様であったが。


「………………あ、これこれ、これだよ! そうか……違和感はこれか、あーすっきりした!!」


「ねぇ、ちょっと楯、たぁ君? なんでアタシの胸を両手で揉んでるワケ?? ん? ケンカ売ってんの? 買うわよ? 誰かに止められてもグーで顔に痣ができるまで殴るわよ??」


「そうは言うけどさエイル、――なんでまた胸を潰してるのさ?? すっごい揉み心地悪いよこれ、それに苦しくないの?」


「馬鹿なのアンタ? アタシが巨乳なのは雪希とアンタしかしらないの、千作君は知らないし好みがスレンダーなんだから仕方ないじゃないッ!!」


 むきーと怒る彼女に彼は、そういえばそれが最初の朝チュンの原因の一つでもあったと今更ながらに思い出した。

 だが知ってしまった以上、どたぷんがペターンとなっている様はとても窮屈そうで心配しかない。

 しかし楯にエイルを止める権利などなく、見守るしかないという結論に落ち着いた。


「――今まで気付かなくてゴメン、これからは僕も最大限協力するから胸が苦しかったらすぐに言うんだよ」


「あっ、ありがとう……、うん、わかった、頼る、アンタに頼るから……その、抱きしめて頭を撫でるのやめて、やめろ、アタシはアンタの女じゃないんだから……」


「ああ、考えなしだった。これから秀哉達が――……ん? んんんんんん?? マジで??」


「雪希……なんだろう遅れるのか…………あ゛ッ゛」


 スマホの振動に気づき画面を見た二人だったが、楯はやられたと半泣きで空を見上げ。

 エイルに至っては膝から崩れ落ちる、彼らは今、絶望の中に居た。

 秀哉と雪希の仲に割ってはいる絶好の機会で、それが裏目に出ようとも、一緒に遊園地を楽しめるチャンスだったのに。


「ううっ、怒れない……これは怒れないよ秀哉……でも恨むぞおおおおおおおおお!!」


「今まで応援してくれていたお礼に、高級ホテルお泊まり豪華なディナー付き遊園地デートをプレゼントします……って、気持ちは嬉しいけれど!! 嬉しいんだけど雪希ッ、そうじゃないのよおおおおお!!」


 なんという事だろうか、最初からサプライズプレゼントとして計画されていたのだ。

 気付くべきだった、ダブルデートに誘われたときに楯は彼らとの会話に違和感を覚えていたではないか。

 後悔しても嘆いても状況は変わらない、楯とエイルの手には遊園地のチケットがあるのだから。


「…………どうする? 帰るか?」


「出来ないコト言うんじゃないの、帰ったら千作君と雪希の顔に泥を塗るってことじゃない」


「だよなぁ……二人とも傷つくしホテルのキャンセル代だって…………ああ、書いてあった通りにチケットの封筒が二重になってて、そっちにホテルの地図が同封してある、ははっ、ご丁寧に僕らの名前で予約してあるし……うん、ここって前浜さんの親戚筋の経営してるホテルっぽいね、名前聞いたことあるよ」


「あの子……強くなったわね。前はお嬢様の立場をあんなに嫌ってたのに、積極的に使うようになったなんて千作君のお陰だわ、でも恋人同士になったのは絶許だけど」


 二人はお互いの姿を見る、なんて滑稽なんだろうか来ない者の為にお洒落をして早く着てワクワクしながら待って。

 秀哉も雪希も悪くない、全ては一言足りとも気持ちを伝えなかった楯とエイルの、その癖、お邪魔虫として散々妨害した挙げ句にヘタれて応援にしかなってなかった因果が巡ってきた、そういう事なのだ。

 ――開園の時間になる、遊園地に人々が入っていく、二人は並んでそれを見ている。


「…………ま、しゃーないよね。じゃあ二人で楽しもっか!!」


「確かに、ここは切り替えて楽しみましょう!」


「だいたいね、これで何回目の敗北だっての!」


「そうそう、これぐらいで絶望していられないっての!!」


 二人の瞳に再び闘志が燃え上がる、空元気なんてない、などと言うと嘘になるが。

 それ以上に、どこかほっとしてしまった自分を直視したくなくて。

 更にそれ以上に――。


(うおおおおおおおおおおおおおッ!! 高級ホテルでタダ飯!! しかも泊まりだよね?? ってことはさ……いつも以上に気合い入れてお洒落したエイルとデート!! 絶対にエロい下着履いてるはずだしッッッ!!)


(高級ホテルでお高いお肉がタダで食べれる!! じゅるり、お肉……美味しいお肉!! ……って、違う!! ま、まぁ? これは練習、千作君とデートする時の為の練習だから楯とめいっぱい楽しんでも……うん)


(前浜さんじゃないのが残念だけど、冷静に考えたらエイルみたいな可愛くて奇麗な子とタダでデートとか役得じゃね?? しかも夜付きだよ??)


(べ、別に? もしかしたら今日もヤケ酒かなーってコイツを慰める為に下着選んでたワケだし、ま、結果オーライってもんよ!)


 こんな即物的な所が様々な敗因に繋がっているのだが、残念なことに二人は気づかず。



「――じゃあ中に入ろうよエイルッ!! 今日は楽しもう……ところで今日の僕は機嫌がいいから提案があるんだ」


「ほうほう、奇遇ねアタシもご機嫌だから提案とやらを聞いてあげるわっ」


「どうだろう、僕は君のことを雪希って呼ぶから、君は僕のことを秀哉って呼ぶのは」


「お、それいいわね。じゃあ、服とか髪も可能な限り二人に寄せない?」


「乗った! ……あー、でも一つだけ注文していいかい?」


「いいけど?」


「…………実は僕、見るからに巨乳って感じの子とデートしたかったんだ、可能なら是非ともそのおっぱいを今みたいに抑えずに解放して欲しい……みたいな?」


 恐る恐るといった塩梅で楯に言われた言葉に、エイルは嬉しさを感じてしまって。

 仕方ないなわねぇ、とか、サービスしてやるか、とか、折角だしその状態で自慢の胸を彼の腕に押し付けてあげるか、なんて満更でもない。

 彼女はにこっと満面の笑顔を彼に向ける、――そんな笑顔、秀哉に一度も向けたことがない事実に気づかずに。


「サービスしてあげるんだから、ちゃんとエスコートしなさいよねっ」


「勿論だよ! じゃあ……今日は楽しんで行こう!!」


 そうして二人は、恋人繋ぎをしながら遊園地の中へ足を踏み入れたのだった。



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