第21話/負けヒロインと僕が黄色い太陽の朝を迎えた時



(きゃーっ、きゃーっ、今からいっぱい愛されちゃうんだ、もー、愛されちゃって辛いわー、ケダモノみたいなヤツに愛されちゃって困るわーっ)


(どうしたらエイルの気持ちを確かめられるんだッッッ、せっかく買ったエログッズをどう使えばいいんだ――――!!)


 エイルがヤる気満々に自室で下着を選んでいる一方、楯は悩みに悩んで一つの結論に達しようとしていた。

 もしかすると、聞き出そうするのが間違っていたのかもしれない、と。

 それは正しく正解である、だがこの男は。


(…………全てを使ってエイルの体から堕としてしまえばいいッッッ!! とりあえず首輪と手かせからだ!!)


 盛大に間違えた、彼と彼女の関係性を考えれば正解に近いかもしれないが。

 ここで間違えるあたり、告白すら出来ずに終わった手痛い経験が生かされていない。

 彼がその事に気づくことなく、寝室で待つエイルの下に行くと。


(クソッッッ、マジかよエイル!! お前……エロすぎだよソレェ!!)


(ほわわわわぁ!? やっぱりアタシ、無茶苦茶されちゃうっ!! 僕をどれだけ煽るつもり? ワルイコだなって首輪と手かせで拘束されて――――、ああんっ、独占欲の強い男に愛されちゃって困るわぁっ!)


 エイルの視線は首輪と手かせ、楯の視線と言えば彼女の格好に視線が釘付けだ。

 ネット上では探せばすぐ出てくるしグラビアやAVでもよく見かける、だが生で目にするとこんなに興奮を煽るものなのか。


(ベビードールでシースルーの白ッッッ!! どうして……どうして神はこんな芸術作品を生み出したんだ!! ひらひらしてドレスっぽい感じなのにすっけすけで!! おっぱいの形が丸わかりなくせに、腰やお尻はシルエット!! おそらく上はブラと一体型だろうが下は別だから限りなく紐に近い純白がさぁ!!)


 もし楯が童貞であったら耐えられなかっただろう、だがこの身は何度も彼女と交わった身。

 だから、理性を無くす寸前で抑えられた。

 彼は頭の中で力づくで破ったり上から、はたまためくったりと好き放題しながら近づく。


(くる……、いっぱい愛さ…………)


 その瞬間、ふとエイルは思いついた。

 魔が差したと言っても過言ではない、もしくは性欲に脳が染まりきったとでも言うべきか。


(もしかして――――逆転シチュの方がもっと燃えるんじゃないかしら??)


 それなら楯の体を彼に邪魔されずに好き放題でき、その上で不自由さの反動で今まで以上にケダモノになって彼が襲ってくるという計算だ。

 ごくりと唾を飲み込み、彼女はベッドに上がってきた楯に提案した。


「今日はちょっと趣向を変えない?」


「…………手短に頼む、見ての通り僕はもう我慢が利かないよ!!」


「きゃっ、たぁ君ったらご立派さんっ!! じゃあ簡単に言うけど……その首輪と手かせ、最初はたぁ君に付けようかなーって、その後は流れで、ね? 分かるでしょ?」


「なるほど…………」


 エイルの提案に楯はとても動揺した、これは罠なのか、それとも素で提案しているのか。

 彼女はストーカー気質で独占欲も強めだ、つまり……受け入れた途端に監禁され一生外に出れないとかならないだろうか。

 だが……彼女に襲われるのも悪くないと頭のどこかで考えていて。


(ど、どうするッッッ!! エイルみたいな脱ぐとエロの権化を好き放題するのは凄くイイ、しかしそれは毎度のコト……、だからとても新鮮だろう、けど……、もし何かの罠、だったら――)


 性欲と理性の狭間で数秒間悩んだ彼は、条件を一つだけ出すことにした。


「安全の為に、鍵は僕が握っておくよ」


「オッケーオッケー、じゃあアタシがつけてあげるっ! うーん、なんだかとっても倒錯的だわぁ――」


 彼の服を甲斐甲斐しく脱がし、首輪とつけ、手かせをつけ、エイルは彼の体がいつも以上に官能的に見えていた。

 然もあらん、彼女から見れば女王様と下僕、SMプレイでもあり。

 また、こっそり読んでいる過激なレディコミがそのまま現実になったような気分。

 ――――しかし。


(………………もしかして、この鍵がたぁ君じゃなくてアタシの手にあれば、いつもと違ってアタシが最後まで好き放題襲えるのでは??)


「付けてみるとかなり不自由だなこれ、首輪と手かせが鎖で繋がってるし、首輪もベッドの柱に繋いだし……じゃあ鍵ちょうだい」


「…………」


「あ、あれ? エイル?」


「…………ね、たぁ君。いつもいつも好き放題さ、アタシをシてくれてるじゃん?」


「まぁ、君の弱点は全て把握してるし、新しく弱点も作れちゃったし、体力は僕の方が上だし、なにより体の相性いいし」


「不公平だと思うのよ、アタシだってたぁ君の弱点新しく作りたいし――――好き放題したいし、具体的には前立腺とか興味があって……」


「……………………………………なるほど??」


 あ、これヤバいヤツだと楯は確信した。

 想定していた最悪ではないが、別の意味でヤバい。

 具体的には男として後ろの貞操の危機、絶対に守らなければいけないのに既に拘束済みで。


「鍵はリビングにぽーーーーーいっ!!」


「ぼ、僕の鍵――――ぐぇッ!! 鎖で届かない!!」


「よいではないか、よいではないかぁ……、今日はアタシがベッドヤクザになる!! 今日こそ勝利を掴み腰が立たなくなる前にたぁ君を起たなくなるぐらい搾り取る!!」


「うおおおおおおおおおッッッ!! 頑張れ僕うううううううううううううううう!!」


 結果から言おう、楯は後ろの貞操を守れなかった。

 しかし、腕力に任せて鎖を引きちぎり逆転勝利を収めた。

 だがその代償は大きく、太陽が黄色く見え半日は立ち上がれなかった。

 ――なお、エイルは丸一日ベッドから立ち上がれなかった。


(僕は……まだまだ弱いッッッ、なんて情けないんだ……腰が起たなくなるなんて!!)


 楯は決意した、次にこんな事があっても体力が保つように体を更に鍛えなければならないと。

 エイルがベッドから出られるようになった翌日以降、彼は大学とアルバイトの時間以外はトレーニングにあてるようになった。

 それをエイルは、うっとりした表情で手伝って。


「ふんッ! ふんッ! ふんッ! 輝いてるッッッ、煌めいてるよ僕の筋肉!!」


(鍛えてる楯もカッコイイ……、上半身裸なのが謎なけど汗でテカってるのイイっ! しかもこれアタシの為鍛えてくれてるんだよね? アタシを抱き、アタシを守る為に――――)


「僕の腹筋が歓喜の声をあげてるよォ!! ふんっ! ふんっ! ふんっ! これで3セット完了!! ………………ふぅ、次は腕立てかスクワット、どっちにするかなぁ」


(何か手伝えること、何か、でも筋トレって基本一人だし……)


 見ているだけでも幸せなのは確かだが、構ってもらえず見ているだけなのは寂しい気持ちもある。

 何かあるだろうか、楯が筋トレ初心者なら介入する余地はあったがエイルの目には生憎とプロ級に思える。

 そんな彼女の物言いたげな視線は、彼の顔に突き刺さって。


(構えって顔だな、まぁそろそろ休憩しても……い、いや、僕はもっと鍛えるんだ!!)


(構って欲しいなー、もっとアタシを見て欲しい、というか休憩挟みつつも三時間ぐらいやってるから、そろそろ……)


(う゛っ、視線が痛いっ、負けない、僕は負けずに体を鍛えるんだ!!)


(無視する気ね、くっ、焦らすなんてたぁ君ったらアタシの気を引くのが上手いんだから!!)


 頭ド級ピンクなエイルは至極ポジティブに考え、そのニタニタした顔に楯は警戒するしかない。

 警戒しつつも無視して筋トレするしかない彼に対して、色ボケモードの彼女の思考は飛んであの日の夜に。

 寝ている彼女に対して彼は確かに好きだと言った、聞きたい、もう一度聞きたい。


「じぃ~~~~~~~~~~~」


(な、なんだッ!? ウザったいほどニマニマしてるんだけど!?)


「ねぇたぁ君? なーんか言うことあるでしょー」


「………………なにが?」


「聞きたいなぁ、ちゃんと聞きたいなぁ、たぁ君なら言ってくれると思うんだけどなー」


「いやだから何が!?」


「えー、忘れちゃったの? もー焦らすの大得意ね楯は、でも言ってくれないとぉ――」


 その瞬間、楯はとても強い嫌な予感を覚えた。

 だがエイルが欲している言葉に、心当たりなどなく。


「正解するまでセックス禁止っ!」


「なにそれ!?」


「――さ、ちゃんと正解しなさいよねたぁ君! 楽しみに待ってるから、……いつまでも、いつまでも、ずっとずっと…………待ってるから」


(もう訳わかんないんだけどおおおおおおおおおおお!?)


 これはもう筋トレしている場合ではない、正解を言い当てないとエイルを抱けないなんて楯には耐えられそうにない。

 何より、早く正解しないとリアル黒髭危機一髪をする確信があって。


(なんだよ!! 何を僕は言わなきゃいけないんだよッッッ!?)


 楯にとって、命の危機まで予想される脳内当てゲームが始まったのだった。


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