第16話/負けヒロインと僕が本当にダブルデートをした時
計画通りに二人のマンションに秀哉と雪希が車で迎えに来て、無事にモールまで到着し。
駐車場について、四人が車から降りた時だった。
非常に困惑した顔で、秀哉はエイルを指さし。
「もう耐えられない、どうして誰もツッまないんだっ――――小路山さんの胸が爆発してる!? ……い、いやすまない取り乱した。……俺の気のせいだ、俺は何も気づかなかった」
「あー、ごめんね千作君、別にパッドで盛ってるとかじゃないのよ。これがアタシのフツーの大きさ、今までは押さえてたのよ」
「ま、マジ!? ええっ!? なんで!?」
「そういえば秀哉君は知らなかったわね、とはいえ私も知ってるだけで理由まで知らなかったのだけれど。……なんで今更?」
来た、と楯とエイルは目配せした。
思ったよりタイムラグがあったが、こうなる事は予想していたのだ。
恋人ごっこをしているなら当然、もうエイルは巨乳を隠さないし、隠していた理由だって作っている。
「あ、それ僕が頼んでたんだよ。エイルって可愛いし美人じゃん? それが巨乳ってきたら他の男達の視線がイヤだったからさぁ……」
「カレシのカワイー嫉妬と独占欲に応えてあげてたってワケ、でも同棲始めたでしょ? そしたら今度はアタシを見せびらかしたいって言うんだもん、まったく困ったもんだわっ」
「ふふっ、困ったと言っても顔が笑っているわよエイル。本当は嬉しいんでしょう」
「まぁねー、惚れた弱みっていうの? ま、このこの大きさまで揉んで育てたのはコイツだし多少はね?」
(よく言うよ、とはいえ秀哉に好かれる為に押さえてつけてましたって言えるワケないからなぁ……)
苦笑する楯の腕を掴んだ者が一人、秀哉だ。
彼は怖い顔をして、少し離れた柱の陰に引っ張っていく。
何事かと思ったが、彼の性癖を考えたら楯には簡単に予想がついて。
「楯、お前……本当に彼女の胸を揉んで、あんな巨乳にまで育てたのか!? くっ、ウソだと言ってくれ!!」
「ウソだって言いたいのはコッチだよ秀哉、君ってばまだ僕をスレンダー派にしようとしているね?」
「当たり前だ、スレンダーこそ志向! 小路山さんも雪希には及ばないがナイススレンダーだと、お前もスレンダーに目覚めたと思っていたのに……!!」
「バカだなぁ秀哉は、巨乳かスレンダーかで何回も殴り合ったの忘れたのかい? というか何? エイルと別れろとかいうつもり?」
「いや? お前が巨乳派のままなら布教の為にやったスレンダーアイドルのグラビアとAV女優のブルーレイを返して貰おうかと」
「…………うん、君はそういうヤツだと思ってたよ! 前浜さんに返しておくね!」
「それをやったら戦争だろうが!!」
慌てる秀哉に楯はニヤニヤ笑う、それぐらいは許される筈だし。
何より、念入りに隠してはいるが手元に残しておいたらエイルに見つかった時が怖い。
泣かれるのか怒るのか、嫉妬のあまり何かしでかすのか想像がつかないからだ。
――その時だった、エイルがひょこっと顔を覗かせて。
「話してるトコ悪いけど、それもう雪希に渡しちゃったわよ?」
「秀哉君、…………そ、その……わ、私っ、色々と頑張るから!! でも……あ、あのっ、おっ、お尻の穴とかまだ早いと思うの!!」
「ぐあああああああああああああっ、ち、違うんだっ、違うんだ雪希! 忘れてくれ、全部忘れてくれええええええええええ!!」
「ふっ、哀れな……悪は滅びた」
恥ずかしがりながら引く雪希に、みっともなく縋りつく秀哉を楯は高見の見物。
とはいかず、肩をぎゅっと強く掴まれて。
隣を見たくない、そこに居るエイルの顔が何故か怖くて見れない。
「はいはーい、助かったって思ってんじゃないわよアンタ、アタシも雪希から預かってんのよ」
「ほ、ほっ、ほほう? それはもしや金髪巨乳のアメリカンでセクシーなブルーレイでは?」
「ねぇ…………もっと大きい方がいい? お尻も大きくしないと…………アタシ、捨てられちゃうの?」
「そんなワケないだろ!! 今の君のままで十分に素敵だよ!! 愛してる!」
楯がガバっとエイルを抱きしめた次の瞬間であった、涙声だった彼女の声はスッと冷たくなって。
「じゃあ雪希から預かったのだけじゃなくて、本棚の裏とか机の引き出しの奥とか、クローゼットの壁に偽装してある専用本棚とか……ぜーんぶ捨てていいわよね?」
「全部把握されてる!? お、おい助けて秀哉!?」
「――あのね秀哉君、お尻の穴に興味を持つなとは言わないけれど……私のをする前に言い出しっぺの秀哉君のをしてみるべきだと思うの、ね? 私頑張るから、一緒に安全な方法を勉強しよう?」
「違うんだ雪希、誤解だから、マジで誤解だから――」
「…………南無、強く生きろよ」
「で? 助けはないみたいだけど……どうする? アタシってMっ気はあるけど独占欲強いタイプだし嫉妬深いのよ――――アンタが他の女でヌくとか考えただけで頭がおかしくなりそう、嗚呼、話は変わるけど金玉って一つだけでもいいと思わない??」
「ハハハハハハっ、バカだなぁエイルは、君がいるんだからもう必要ないさ! 処分を忘れてただけ、君の好きにしてくれよ!!」
グッバイ僕のエロ本と心の中で涙を流しながら、楯は運命を受け入れた。
然もあらん、途中からドスのきいた声に変わったエイルは怖すぎで。
ともあれ、一波乱あったものの楯と秀哉は召使いのように女性陣の後ろをついて歩き。
「…………ねぇ秀哉、これってダブルデートだよね?」
「言うなッ、今は耐えるんだ、下手なことをすれば俺のケツの穴が……、お前だってゴールデンボールが危ないんだろう!?」
「――――秀哉君? またエッチな本の相談ですか?」
「たぁ君? 二つあるうちの右と左、選ぶ??」
「「何でもないです愛してます!!」」
ともあれ、デートは始まった。
計画では服屋などウィンドウショッピングをしながら一通り見て回り、お昼を食べた後はアクセサリーショップで記念になにか買おう、という事であったが。
女性陣の向かった先を見て楯と秀哉は顔を青くした、何故ならそこはランジェリーショップで。
「あ、僕用事思い出した」「俺も俺も」
「ほら行くわよたぁ君、セクシーな下着ちゃんと選んでよね雪希と見せ合いっこするんだから変なの選ばないように」
「はいこっちですよ秀哉君、……その、着てあげますから、好みの、選んでください……」
「オラァとっとと歩け秀哉! 女の子に恥をかかすんじゃねぇ!!」
「それはお前もだ楯ッ、死ぬときはお前も一緒だ!」
やるしかない、全力でエイルに似合う下着を選ばなければ。
しかも彼女は雪希と見せ合うという、――なおのこと下手なものは選べない。
秀哉と共に気後れしながら店内に入る、幸いにしてエイル、雪希の二人と一緒だった為にさほど注目されなかったのであるが。
「すっごい気まずいんだけど……大丈夫、生きてるかい秀哉」
「死にそうだぜ親友、俺ら今からこの中で下着選ぶんだよな……」
「――エイル、選ぶときに一緒にしてくれないとこの場で泣くからね」
「はいはい、ま、アンタだけじゃ不安だからついてってあげるわよ」
「雪希、俺も頼むぅ~~っ」
「う゛っ、弱々しい秀哉君、イイ……じゃなくて、うん、一緒に選びましょうっ。――じゃあエイル、また後で」
「ええ、また後で見せ合いましょ」
という訳で、それぞれで見て回る事になったのだが。
問題はすぐに発生した、それはエイルの巨乳にあう下着が少ないではない。
楯にとって、とても切実な問題で。
これによって、今後が大きく違うと言っても過言ではない。
「――――くっ、僕には選べないよ……どれもエイルにはエッチすぎるッッッ」
「たぁ君? 欲望だだ漏れすぎない??」
「だって……スケスケレースと紐、どっちも君に似合うと思うんだッッッ!!」
「下半身だけで考えるのやめて?? せめてあの辺りのサルートのデザイン性を兼ね備えたのとかにして??」
「あー、あの合コンに着ていって胸チラしただけで優勝できそうなの」
「誉めてるの?」
「誉めてる誉めてる、だって僕的にも着て欲しいし。――でも、そこに実用性皆無なエッチな下着があれば選ぶのが男ってもんだと思う、着てください、着て、着ろ、今すぐ土下座してもいいんだよ??」
「自爆覚悟やめなさいよおバカッ!?」
エイルは危機感を覚えた、このままだと夜の決戦仕様どころか真夜中限界バトル最終兵器を見せ合いっこする羽目になる。
こういう時に千作秀哉ならば、まともなのを、可愛いのを選んでくれるのかもしれない。
だが、どうしようもなく目の前の下半身で下着を選ぼうとする愚かな男を悪くないと思ってしまっているのだ。
「はぁ……一歩譲ってエッチなのを選んでいいけど……アンタのお財布から出しなさいよ」
「大船に乗った気でいてくれ、夏に高級ホテルのプールの監視員で稼いだバイト代がまだ大量に余ってるんだ」
「なら、アタシが普通に選んだのも買うコト――ってそれぇッ、股間にパールが連なってるようなの選ぶんじゃないわよ!! せめて大事なところが割れて見えるとかスケスケなのにしてよ!!」
「は? それで君の美しさとエロスを最大限に引き出せるのかい? ――――そこで、これだ」
「ばッッッか!! それもう下着じゃないわよ!! なんで乳首にチェーン付けるのよ!!」
「これを買おう、ああ、僕はこれを見つける為にこの店に来たんだね――――」
「泣いて喜ぶほど!? うううううううっ、わかった、わかったから、でもアンタだけの前でしか着ないからねッ、だから他のちゃんとしたの選びなさいよ!!」
「女神……ここの金髪巨乳の女神がいる……!!」
「泣いて拝むな!!」
そんな騒がしい一角を秀哉と雪希は横目で見ていた、五月蠅いバカップルそのものであるが見ていて楽しくて。
それ以上に、雪希には驚きがあった。
(――あんな楽しそうなエイル、見たの初めて)
自分と二人っきりでいる時より楽しそうなのは仕方がない、恋人と同性の友達との楽しさは別だからだ。
しかし、同時に疑問が発生する。
小路山エイルとは、あんな風に恋人とはいえ男の欲望を易々と受け入れる女の子であったか、と。
(エイルには悪いけど、確かめないと……)
堅木楯、秀哉の親友で、エイルの恋人で、雪希自身とも高校時代からの同級生で唯一の男友達。
彼は秀哉との仲をおおいに取り持ってくれた恩人で、でも。
エイルの恋人としての彼はあまり知らない、二人は見せようとしてこなかったし、己も知ろうともしなかったから。
「どうしたんだ雪希?」
「……ううん、なんでもない。ただエイル達は楽しそうだなって。――あ、秀哉君はエッチな下着を選ばないで」
「…………………………わ、わかった」
「ふふっ、そんな残念そうな顔しないで。貴男だけに見せるのは自分で選びたいの」
「おう!! 楽しみにしてるぜ!」
途端、秀哉はぱぁと笑顔になって、彼も男の子なのだと雪希は再確認。
嬉しいのだけれど、恥ずかしくどこかむず痒くて。
ともあれ選び終わった後、彼女とエイルは仲良く試着と男子禁制の見せ合いっこ。
「――くっ、中々やるわね。黒なのに清純さがあるなんて……雪希の美しさをよく理解したチョイスだわ」
「エイルのは、……なんというか凄いわね。もしかしなくても堅木君の趣味百パーセントかしら? 夜のことしか考えてない、し、シースルーでフリルがとてもエッチな感じの、赤い…………」
などと、お互いの姿を見てゴクリと生唾を呑んでしまったのはご愛敬。
それぞれの彼氏が購入した後、エイルと秀哉がトイレへ。
残された楯と雪希は、モール中央広場のベンチに座る。
(…………あれっ。これって、前浜さんとお近づきになる絶好のチャンスなのでは??)
(エイルのことを聞くなら今の内、でも……聞いていいのかしら。――ううん、勇気を出すの、大丈夫、ただ少しだけ確認するだけだから……)
相方を待っている二人の間で、奇妙な空気が流れ始めたのであった。
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