第30話/負けヒロインと僕が再び朝チュンした時(エピローグ)
「「「「乾杯!!」」」」
カチンカチンとグラスがぶつかる音が数度、楯とエイルはぐびぐびプハーとジョッキの半分ほどビールを飲み干し。
その姿に秀哉と雪希はちびちびと呑みながら苦笑い、全てが丸く収まった、その記念に四人は大学近くの馴染みの居酒屋に来ていて。
服をビショビショに濡らした楯とエイルが、普段は部活で使っているジャージを着ているのはご愛敬。
「じゃあ早速、先ずは焼き鳥から頼むか。僕と秀哉は好物だから一皿づつで……エイル達は?」
「アタシ達はそこまで食べないし二人で一皿で、つーかアンタしっかり野菜も食べなさいよ?」
「んじゃあ野菜串も頼むか」
「それ揚げ物じゃない、どーせ後で唐揚げとか頼むんだからサラダにしなさいよ」
「オッケー、シーザーサラダだね一皿頼んでおこうか」
以前よりも、もっと仲良くと言えば聞こえはいいが。
膝の上にエイルが横抱きの形で乗り、事ある毎にちゅっちゅと楯の頬にキスしている光景は新米カップルには少々刺激が強く。
なるほど、喧嘩の後で仲直りするとこうなるのかと新たな知見を秀哉と雪希に与えていた。
「なぁ雪希、今更だけど、この二人だって喧嘩するんだなぁ……」
「そうね、じゃれ合いレベルの口喧嘩は何度も見てきたけど……今回はどうなる事かと思ったわ」
「けど少し羨ましいな」
「ふふっ、私たちも喧嘩してみる? それで走り回って……最後にキス?」
「――――ねぇ二人とも? 聞いてればさぁ、マジで止めてくれない?? 今回の事は凄く助かったって思ってるけど、ガチで破局寸前かと思ったんだからね!?」
「そうよそうよ!! 人ごとだと思って!! アタシは最悪の場合コイツを殺す覚悟までしてたんだからね! 包丁ぶっさそうとしたけどコイツったらへし折りやがったからもう殺す手だてが分かんないけども!!」
「は!? 何してるんだ二人とも!? 俺も雪希も初耳だぞ!? どうしてそんなに拗れてるんだ!?」
「というか待って、包丁へし折ったって折れるものなの!?」
驚愕する秀哉と雪希を放置して、楯とエイルは睨みあう。
元はといえば。
「そもそもエイルがちゃんと言ってくれれば、こんな騒動にならずに済んだんじゃないかい?」
「はー? どっかの誰かさんがアタシが酔って寝てる時だけしか愛してるって言ってくれないからよね? ん? なんか文句ある? 卑怯だと思わないの? あんだけアンタの色にアタシを染め上げてさ、アタシが起きてるときに何一つ言わないなんて」
「――――お酒のお変わりは如何でしょうか姫、どうか何とぞお慈悲をくださいませんか??」
ぐぅの音も出なかった、概ねその通りだと認識していた。
とはいえ、楯にだって言い分はある。
「姫、姫、寝てるときに言って起きてるときに言わなかったのは僕が超悪いとしてもさ。それを指摘してくれないのも悪くないかい??」
「は? たぁ君? 乙女心を理解して?? ついでに毎度毎度アタシが気絶するまでセックスしないで? 癖になるから」
「成程、それは僕が悪い。でも君が魅力的なのが原因だよ?」
「アンタも自分が魅力的なのを理解して??」
バチバチとまたも睨みあう二人、しかし瞳には愛欲の光が確かに宿っていて。
それを目の当たりにした秀哉と雪希は、頬を赤らめてモジモジとお互いをチラ見する。
まだそこまで酒精が入っていないのに、居酒屋の個室には妙な雰囲気になっていて。
「――――よし!! 楯!! 小路山さん!! 今日は俺らの奢りだじゃんじゃん呑むぞ!!」
「遠慮なく呑んでっ、貴方達の仲直りおめでとう会なんだから!」
「君らね、そこでヘタるから今まで恋人になれなかったって気付いてよね??」
「そこはさぁ……、雰囲気に流されて頬にキスの一つや二つするものよ??」
「「まだ無理!!」」
綺麗に揃った声に、今度は楯とエイルが苦笑して。
どうやら、目の前の親友達の恋路をまだまだ手助けしないといけないらしい。
しかし、いつも裏目った結果が手助けとなっていた訳で。
(――よし、呑ますぞエイルッ! 取り敢えず酔わせて)
(雪希の方は任せて!!)
そうして二人は協力して秀哉と雪希に呑ませ、同時に不自然にならないよう自分たちもパカパカ呑み干す。
すると、どうなるだろうか。
気付けば親友達をラブホの一室に放り込み、楯とエイルも違う部屋に行き。
「………………で? これからどうする? 流石に疲れたから寝るかい?」
「そうねぇ……流石にあんだけ走り回って、けっこうお酒も呑んで、いっぱい食べてちょっとお腹ぽっこりしてるし…………素直に寝ちゃう?」
「そうだねぇ、そうしようか」
「……」「……」
奇妙な沈黙が流れた、率直に言って二人ともムラムラしている。
だが、疲れているのも酔っているのも、そして満腹で眠気があるのも事実。
しかしだからこそ、ヤりたい、なまじ愛を確認しあった後である故に。
「…………オラァ!! なにカマトトぶってんだよエイルッッッ、とっとと股開け!! 誰が僕の女かその体に教え込んでやる!!」
「きゃーっ、おそわれちゃう~~っ、ワイルドなたぁ君もカッコイイ!!」
「今夜は眠れないと思っていいよ、――どこまでも天国に連れてってやる!!」
「……………………えっと、その、最初は優しく……して?」
何も憂うことがないのなら、二人でケダモノになってもいいじゃない。
という事で、非常に情熱的な夜をすごしすぎて。
起きてみれば着ていたジャージは、どちらもボロボロになって捨てるしかない。
「しまった…………見境なくヤりすぎた!!」
「どーすんのよたぁ君!! もう出ないといけないのに服はないしアタシは腰が立たないのよ!!」
「…………一つだけ、一つだけ手がある」
「ッッッ!? ま、まさか……本気なの!?」
湿ったキングサイズベッドの上で正座する二人、楯はちらりとクローゼットを見た。
そこにあるのはコスプレ用の衣装、それも生地がペラッペラな安物。
「これを着て外に出れば僕らは痴漢に痴女だ……だけど、背に腹は変えられないッッッ!! お願いだ着てくれこのバニーガールのやつを!! おっぱいが絶対にこぼれるだろうけど、僕が守るから!!」
「くっ、それしかないのね……アンタも気をつけなさい。何故か男物はぴっちぴちの幼稚園児の服しかないし……たぁ君、気をつけてたぁ君のたぁ君がボロンしちゃうから!!」
チェックアウトの時間が迫っている、安価とはえ二人分となると手痛い出費だ。
楯とエイルは慌てて着替えると、家まで知り合いに会いませんようにと祈りながら部屋を出て。
エレベーターまでは誰も会わなかった、しかし一階のエントランスまで到達し外に出ようとした瞬間。
――ポーン、と背後でエレベーターの開く音。
「………………もしかして、楯か??」
「えっ、エイル!? 貴方なんて格好を……」
(終わったあああああああああああああああああああああああああああああああ!!)
(なんで二人とも居るのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!)
見られたくなかった、こんな姿なんて。
なんと返事すればいいのだろうか、思わず黙り込む二人に秀哉と雪希はそれぞれの親友の隣に行き。
「男だ……お前は男だよ楯ッッッ、人の目など何一つ気にせず欲望を満たすその姿! くぅ~~、やっぱりお前には勝てそうにないぜ! 嗚呼、俺のセックスの師匠になってくれ楯! 彼女にコスプレして貰う方法、特に逆転する方法を教えてくれッッッ!! このままじゃ俺、上に乗られて搾り取られる一方なんだ!! ――この支払いも俺がしておく、だから後でコツを教えてくれよな! あ、俺のダウン貸すぜ明日返してくれればいい。じゃあな!」
「あっ、はい、ありがとう??」
「エイル……貴方こそ真の大和撫子よ!! 愛する男にどこまでも尽くす……、それでいて男を絶対に離すまいと己の肉体美を最大限に発揮する衣装を着て隣をキープする…………、私もまだまだエイルから学ばなきゃね、秀哉君の立派な恋人として成長する為にも、取り敢えず小さな胸でも快楽を与える方法を後で教えてね、これ私のコート、返すのはいつでもいいわ!! またね!!」
「う、うん、またね??」
何を誤解したのか、秀哉と雪希は熱くまくし立てた後で上着を二人に貸して去っていった。
残されるは当然ながら、唖然として立ち尽くす楯とエイル。
思わず首を傾げてきっかり一分間、復帰した二人は。
「君がこんなコスプレ選ぶから!! 絶対変態だって勘違いされたじゃん! しかも秀哉と前浜さんにさぁ!!」
「それはコッチの台詞よ!! アンタがこんなの選ぶから!! どうして雪希にエッチなこと教えないといけないのよ!!」
「エイルが!!」「楯が!!」
がるる、きしゃー、と一触即発な二人。
しかしそれも一瞬、大きなため息を一つ、苦笑も一つ。
「――――ん」
「ん…………はぁ、帰ろっかたぁ君っ?」
唇と唇を合わせるだけの簡単なキスを一度、二人は笑いあうと帰宅すべく腕を組んで歩き出したのであった。
――負けヒロインと同棲することになりました・完
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
皆さまに楽しんで頂けていたら幸いです。
この後の構想は一応ありますが、一旦〆とさせて頂きます。
ではでは。
負けヒロインと同棲することになりました 和鳳ハジメ @wappo-
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