27 真実の告知
忘年会当日。焼鳥屋の個室に、機動隊の七人が揃った。私の姿を見るなり、音緒が抱きついてきた。
「もうユキ! 心配したんだからぁ!」
「ははっ、ごめんって」
渚が言った。
「ユキ、髪スッキリしたね?」
「ああ。心もスッキリした。思い出したこと、全部話すよ」
個室をぐるりと見回して、隊長が言った。
「まあ、まずは乾杯だな。忘年会と、ユキの快気祝いも兼ねて」
パンパン、と手を鳴らして蜜希先生が叫んだ。
「みんなー! とりあえずビールでいーい?」
全員がはぁいと声をあげ、ビールジョッキが運ばれてくるのを待った。私は隊長とアダムに挟まれていた。アダムが言った。
「ユキ、どんどん頼んで下さいね。お代は隊長が持つと仰いましたから」
「じゃあ、容赦なく頼むわ!」
私はタブレットにどんどん料理を入力していった。横から見ていた隊長が、呆れた声を出した。
「おいおい、ほどほどにしてくれよ?」
ビールがきて、乾杯をした後、私はコホンと咳払いをして、みんなに告げた。
「私の本当の名前は大竹沙也っていうんだ。でも、みんなには今のまま、ユキって呼んでほしい。私はこれからも、ユキと名乗るつもりだから」
みんなは真剣に私の方を見つめていた。私は大きく息を吸い込んだ。
「それで……言わなきゃいけないことがあるんだ。私は沙也だった頃、合成麻薬の密売人をしていた。それから逃げ出して、でも捕まって、海で溺れさせられた。弟の夕貴と一緒にな」
音緒が言った。
「えっ、弟?」
「そう。双子の弟の名前が夕貴だったんだ。彼はきっともう死んでる」
ふぅむ、と蜜希先生がうなった。
「その麻薬って、飴って呼ばれるものかな?」
「そうだよ、蜜希先生」
「色や形が、カエル印のマーブルキャンディーに似ているんだ。あのときユキが食べられなかったわけがわかったよ」
私はみんなに頭を下げた。
「私は十代の頃から、それを売って生きていた。悪いことをしていた。だから、みんなに見限られても仕方ねぇ。本当にごめん」
渚が鋭く言った。
「ユキ、顔上げな」
「渚……」
渚の方を見ると、彼女は大きな瞳を潤ませていた。
「そんなことであたしたちが見限るとでも思ったの? ユキはやめようと思って逃げたわけでしょう? 無理やりやらされていたんでしょう? 確かに悪いことをしていたのかもしれないけど、それだけでこの三年間の付き合いをやめるなんてできないよ」
指で涙をすくった渚は、なおも続けた。
「ずっとあんたの帰りを待ってたんだからね。どんな過去があったって、ユキはユキ。あたしの大切なライバル。それは変わらないんだから……」
嗚咽を漏らす渚の肩を、音緒が抱いた。アダムが言った。
「辛かったでしょう、ユキ。そんな暮らしをしていて」
「まあ、私には夕貴が居たからな。二人で密売人をしていたんだ。夕貴もゴールデンでな。姿を消すことができた。だから、取引には持ってこいの能力だったんだ」
隊長が首をひねった。
「なあユキ。本当にその弟は死んだのか?」
「多分……」
「もしかしたら、生きているかもしれないぞ。俺が調べてやる。希望を失くすな」
とんとん、と隊長は私の背中を叩いた。そして、テーブルいっぱいの料理が並んだ。徹也が悲鳴をあげた。
「ちょっと、ユキさん頼みすぎ! これ全部食べるんっすか!?」
「当たり前だろ。腹減ってるんだ」
実際、私は全ての料理をきちんと平らげた。締めの雑炊、デザートのアイスも忘れずに。料理が終わっても、まだ個室の時間はあった。みんなは追加で酒を頼みまくった。私はタバコが吸いたくなり、すっと抜けた。アダムがついてきた。
「ユキ。よく打ち明けてくれましたね」
アダムはオイルライターで私のタバコに火をつけてくれた。
「正直、アダムはどう思った? 密売人やってたこと」
「ショックではありましたよ。でも、それで僕たちの関係は何も変わりません。隊長の仰った通り、もう少し調べてみましょう。弟さんは、生きているかもしれないですよ」
蜜希先生も喫煙所にやってきた。彼女も一服するのかと思ったが、違った。
「ねえ、二人とも戻ってきて。音緒が何か言い出したからさぁ」
個室に戻ると、音緒が立ち上がってかしこまった顔付きをしていた。
「えー、では、アタシからもお伝えすることがあります。色々と考えて、ここは機動隊のみんなにも聞いてもらいたいと思って、今日そうすることにしました」
音緒はカバンから包みを出し、渚に渡した。渚は怪訝な表情で聞いた。
「開けろってこと?」
「うん」
封を開けると、そこに入っていたのは腕時計だった。音緒は渚に向かってひざまづいた。
「渚。これからも、一緒に時を過ごしていきたいの。結婚して下さい」
目を丸くした渚は、少々戸惑った表情を見せたものの、音緒の手を取り、こう言った。
「はい。喜んで」
その途端、黙って行く末を見守っていた私たちは、どっと湧いた。蜜希先生が飛び上がって手を叩いた。
「キャー! 二人とも、おめでとう!」
音緒は渚の左腕に時計をはめた。みんながそれぞれの言葉で、二人を祝福した。
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