31 エピローグ

 私が記憶を取り戻してから二年後。特定超能力機動隊に、新たなメンバーが配属された。


「真星紘一です! よろしくお願いします!」


 そう、ゴーレムの事件で少年院に入っていたあの少年だ。私は彼と握手した。


「よろしくな、紘一」

「はい、ユキさん!」


 音緒と籍を入れ、チャペルでの挙式も済ませた渚が言った。


「よーし、早速手合わせといこうか」

「ええっ!? マジっすか!?」


 私たちは訓練所へ向かった。渚が腕をぐるぐると回しながら言った。


「さーて、何体でも出していいよ!」

「じゃあぼく、本気でいきますよ!」


 紘一が繰り出したのは、一体だけだった。しかし、そいつは三メートル近くもあり、腕も六本あった。私と渚をめがけ、ゴーレムはその巨体をぶつけてきた。見かけによらず、速い。


「はっ!」


 私はゴーレムの腕の一本に拳を打ち付けた。しかし、崩れもしない。なるほど、紘一はあのときより何倍も強くなっている。

 ドスン!

 腕が振り下ろされた。私はジャンプしてそれを避けた。しばらく戦ったが、私と渚はゴーレムを倒すことができなかった。


「紘一、すげぇな!」


 私はパンパンと紘一の肩を叩いた。


「ユキさん、痛い、痛いです」

「悪い、能力出したままだった」


 音緒が言った。


「もう、二人とも蜜希先生とこ行くよ? ボロボロじゃん」


 私たちは診療所へ行った。診察を逐えた蜜希先生は言った。


「こりゃあ、凄いルーキーが来たね。ボクの仕事も増えそうだ」


 私と渚のアザを癒しながら、徹也も言った。


「おれの仕事も増えますね……」


 徹也の頬をつんとつつき、私は言った。


「それより徹也、彼女できたんだろ。早く紹介してくれよ」

「えっ、ユキさんいつの間に知ってたんっすか!?」

「蜜希先生から聞いたんだよ」


 くふふ、と蜜希先生は悪い笑みを浮かべていた。アダムが言った。


「それじゃあユキ、行きますか」

「うん」


 私はアダムの車に乗り、登子さんが営む小料理屋へと着いた。


「紗也! いらっしゃいませ!」

「おう。その格好、似合ってるな」


 黒いシャツに黒いエプロンをした夕貴が、私たちを出迎えてくれた。彼は住み込みでここで働いている。私と二人で暮らす案もあったのだが、彼はそれを断った。


「登子さんが、たんまり用意してくれてるから。ささっ、アダムさんもどうぞ」


 席に通され、少しして、テーブルいっぱいの料理が並んだ。私はまずは刺身から頂いた。


「んー! 美味しい!」


 アダムが聞いた。


「日本酒でも頼みますか?」

「アダム飲めねぇだろ? 我慢するよ」


 登子さんの許可を貰ったのか、夕貴が席にやってきた。


「紗也。新しい隊員が来たんだって?」

「ああ。手合わせしたけどボロ負けだ。私ももっと強くならなきゃな」

「無茶すんなよ? 紗也の仕事は応援してるけど、やっぱり心配なんだ」

「まあ、能力切れたら引退すっからさ。そのときは、何かゆっくりできる仕事を探すよ」


 料理を平らげた私は、夕貴に手を振り、車に乗り込んだ。


「あー、食った食った」

「お酒ならまだ飲めそうですか?」

「ああ。帰ったら一杯やろうか」


 私とアダムはソファに座り、ハイネケンで乾杯した。二人ともタバコをくゆらせながら、今日あったことを話した。


「夕貴さんも元気そうで良かったですね」

「うん。登子さんに相談してみて正解だったよ」


 なんとなく私は、テレビボードの上に置いてあった写真立てを手に取った。渚と音緒の結婚式のときの集合写真だった。


「これからも、このみんなで街を守っていくんだな」

「ええ、そうですね。犯罪を犯すゴールデンがいる限り、僕たちの仕事はなくなりません」

「本当は……無い方がいいんだよな、機動隊なんて」


 私は写真立てを元の位置に戻した。そして、こてんと頭をアダムの肩に置いた。


「アダム、ありがとよ」

「何がですか?」

「いつも傍に居てくれて」

「僕の方こそ」


 スマートフォンの着信が鳴った。隊長からだった。


「任務だ! 出動してくれ!」


 私はゴールデンのユキ。どんなときでも、この街を守るのが使命だ。私は頼れるパートナーと目を合わせた。彼は頷いた。今後もゴールデンの犯罪は止むことはないだろう。力尽きるその時まで、私は戦う。戦い続ける。それが私の生き方だ。

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