エピローグ
「か、海翔っ」
美亜が驚き声を上げる。
「イベントはもう終わったぞ」
俺は主人公にぶっきらぼうに伝える。
「な、なに言ってるの、彰人?」
美亜は状況を飲み込めず俺の方を見る。
が、主人公は警戒して俺の顔を睨み付けていた。
「……その狐の仮面……そうか。全部、君だったんだね」
俺が手に持つ狐の仮面を見る主人公。
「か、海翔。あの、身勝手な話なんだけど、別れませんか?わ、私、海翔のこと好きなのか分からなくなって……」
美亜が必死に言葉を紡ぐ。
「……わかったよ」
主人公は呆気なく引き下がった。
意外だな。意外すぎて不気味。
「あ、ありがとう」
美亜もそう思ったのか、表情が固い。
「一度、彼と話してもいいかな?」
主人公が俺を示して美亜に問う。
美亜は俺の表情を伺う。
俺は一つ頷いた。
「いいよ。私はここで待ってるから」
◇◆◇◆◇◆
境内で、主人公と向かい合う。
「どこまで知ってる?」
主人公の第一声はそれだった。
「一応、全部」
「っち」
主人公が整った顔を歪めて舌打ちをする。
……それが本性か。
「三人のイベント奪ってどういうつもりだ?」
三人か。
俺は美亜のイベント以外は手を出すつもりなかったんだけどな。
「美亜のイベント奪ったことは故意だが、他二人に関しては仕方なくだ」
「仕方なくだと?」
あからさまに苛立つ主人公。
「お前が遅いからだろ。会長は俺の介入がなければ、あのまま不良に連れ去られてた。後輩に関しては俺が時間稼いでなかったら失敗してたろ。後輩死んでたぞ?」
ゲームのことを知っているなら分かるだろ。後輩のイベントだけはミスしたらいけなかった。
俺は主人公を睨み付ける。
「それがどうした?所詮はゲームのキャラだろ?小春が死んだところで、攻略できなくて悔しい、ぐらいだ」
「……腐ってるな」
こんな奴だったのか。
コイツは主人公じゃない。
ゲームの主人公は人の彼女を寝取るクズ。それでも、ヒロインは大切にしていた。
それを、目の前のコイツはただのキャラクターとしか見ていない。
「この世界のキャラはちゃんと生きているんだぞ?」
「はあ?俺に攻略されるために産み出された人形だろ。つか、話そらすなよ。お前のせいでイベント全ミスだ。会長も小春も「狐仮面」がどうのこうの言ってどっか行った。どうしてくれんだ?」
……全く聞く耳持たない。
「美亜は俺のだ。もう美亜には近づくな」
「あ?寝取られた分際で」
「今フラれたろ」
「っち」
忌々しげに頭を掻きむしる。
「お前は残り二人のヒロインを攻略しろ。大切にな」
現実じゃ三人を同時に攻略なんて無理だったんだよ。
二人に絞れば行けるだろ。
性格に難ありだが、これから改善されないとも限らない。
「黙れ。三人攻略するんだよ。脇役は引っ込んでろ」
奴の鋭い眼光が刺さる。
「うるせぇ。美亜は俺が幸せにする」
俺は臆せずに、奴を睨み返す。
「……くくっ、まあいいか」
突然、奴が笑いだす。
「あの時、寝取られたくせに反応良くないと思ったんだよ。でも、次寝取ったら良い反応見れそうだなァ」
主人公がそれだけ言い残して、俺に背を向ける。
「どれだけ頑張ったところで主人公には勝てねぇんだよ。イベントは、
◆◇◆◇◆◇
「彰人ー、美亜ちゃん来たわよ」
お母さんに声をかけられて、俺はカバンを手に持つ。
玄関を出ると、涼しげな表情で美亜が立っていた。
「おはよう、美亜」
「……おはよう」
美亜が小さな笑顔で返してくれる。
夏休みが終わり、俺たちはかつてのように一緒に登下校するようになった。
付き合っているわけではない。俺たちの関係は幼馴染み。まだな。
だんだんとだけど、美亜との距離が近づいて来てるのが分かる。
「美亜、好きだ」
「私はまだ好きじゃないよ」
そう言う美亜は俺に笑顔を向ける。
まだ遠いなあ。
というか、もうすぐでイベントもあるな。
まあ、俺が攻略するんだけど。
もう二度と手離さない。
脇役だけど主人公を超えてみせる。
―――――――――――――――――――――――
面白かったという方は星をつけてくださると嬉しいです!
とりあえず完結です。頂いた感想などを参考に改善しようと思います。なので、最後に感想とか書いてもらえたら嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
https://kakuyomu.jp/works/16817330661223207287
【助けた女の子がメイドになったんだが、家事スキル0の駄メイドだった】
それから、カクヨム甲子園に応募しているもう一つラブコメも読んでくれると嬉しいです。
主人公が女の子助けて、その女の子がメイドになる話です。
主人公は人間不信で誰にも素っ気ないんですけど、その元凶を少女がざまぁして、主人公が……って感じです。
幼馴染みの彼女が主人公に寝取られた。まあ、ずっと前から知ってたんだけどね。 猫丸 @nekomaru2
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