第10話

「なあ、夏休み遊ぼうぜー」


 遥人が俺の席の前に立ち言う。

 遥人が急に誘い出したのは他でもない。明日から夏休みだからだ。


「いいけど、お前部活は?」


「そうなんだよなあ。部活あるんだよなあ」


「無理じゃん」


 こいつスタメンだからな。安易にサボれないだろ。


「じゃあ夏祭り一緒行こうぜ?夏祭りは休み確定なんだよ」


「いや、そこは無理だ」


 2週間後、ここら辺で毎年夏祭りが行われる。

 誘われたのは嬉しいが、生憎外せない絶対の用事があるんだ。


「お前、もしかして女と……」


 遥人が乾いた笑みを浮かべる。

 瞳が否定してくれ、と語っている。


「お前が思ってるのとは違うけど、先客がいるんだよ」


 こんなにすぐに彼女ができるわけないだろ。

 イケメンの主人公やお前ならあり得るかもしれないけど。俺はフツメンだからな。


「くそぉ、仕方ねえ。部活の奴と行くか」


 遥人が悔しそうに嘆く。


 どうせなら女子を誘えばいいじゃないか。数行けばお前なら行けるってのに。


「まあ、そんな感じでよろしく」



◇◆◇◆◇◆



 夏祭り。

 屋台の間を進み、だんだんと灯りが少なくなっても進み、静かになってきた先に境内がある。


 そこには、周りを木々に囲まれ、空を遮る高い建物はなく、花火が綺麗に見える。


 現実、ゲーム共に俺と美亜が初めてのデートで行った場所。

 そこに辿り着いたのは偶然なんだけどな。ゲームの設定上では。

 現実ではたまたまを装った。


 そして、今年の夏休み、そこが美亜のイベントの場所となる。

 結構簡単な成功条件で、それは花火を一緒に見ること。


 成功すれば美亜の好感度急上昇。

 ゲームではここで、美亜は完全に俺のことを忘れる。俺との思い出が上書きされたことによって。


 全ヒロイン攻略しようとしている主人公にとっては外せないイベントであるだろう。

 でも、させない。

 そのイベントは脇役がジャックする。


 そして、俺が美亜の好感度を奪い取り、美亜と復縁する。

 今度は逃げない。


 でも、一つ問題がある。

 どうやって美亜を誘おうかな。美亜は主人公と行きたいだろうし。実際行くだろうし。


 あ、そういや他二人のヒロインにも割りと重要なイベントがあったはず。

 つまり、主人公はヒロイン三人と行くんじゃないか?いや、絶対に行く。


 なら、行けるのでは?

 うん、たぶん大丈夫そう。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る