第9話

『会長、仕事手伝いましょうか?』


『あら海翔さん、今日も手伝ってくれるのかしら?』


『ええ、忙しそうな人を放っておけませんから』


『優しいのね。じゃあお願いするわ』


 海翔に先に学食に行くからと言われて、遅れて行くと海翔が仲良さそうに女性と喋っていた。

 彼女は知っている。この学校の生徒会長だ。

 頭脳明晰、運動もできて容姿まで整っている完璧に近い人。とても、モテるって噂だけど実は他校に彼氏が既にいるらしい。


 それなのにどうして、海翔と仲良さそうに話しているんだろう?

 気のせいじゃないなら、会長の顔はまんざらでもないような。

 それに、海翔も私にいつも向けるような優しい笑顔。


 どうしてかな。行きづらい。私は海翔の彼女なんだし行けばいいのに。


『それじゃあ、放課後待ってるわ』


『はい』


 あ、会長がどっか行った。海翔が一人になる。

 タイミングを見計らい海翔の方へ足を進めた。


「海翔ー、おまた――」


 言葉と足が途中で止まった。


 海翔が満足そうな笑みを浮かべていたから。

 そんな顔見たことない。


 私の心が沈む。


「あ、美亜。何してるの?早く食べようよ」


 海翔が立ち止まる私に気づいて近づいてくる。


「う、うん」


 いつも通りの笑顔だ。優しい笑顔。

 でも、心が晴れない。


 どうして、こんなに心が痛いの?



◆◇◆◇◆◇



『海翔せんぱーい!』


『お、小春。どうしたんだ?』


『海翔先輩が私に会いたそうにしてたので来ましたっ』


『してないしてない』


『えーっ、嘘だぁ』


 別の日には、放課後に海翔の元に小柄の後輩が来ていた。

 黒髪ツインテールの可愛い子だ。


 生徒会長は分からないけど、たぶんあの子は海翔のことが好きだ。

 でも、ダメだよ?海翔は私の彼氏なんだから。


「海翔、一緒に帰ろう?」


 私は海翔に近づいて話しかける。

 後輩ちゃんが威嚇するように睨み付けてくる。


「海翔先輩、私と帰りませんかっ?」


 後輩ちゃんは甘えた声で海翔に聞く。


「あのね、海翔は私のかれ――」


「いいよ」


「え?」


 海翔があっさり承諾したことに頭が真っ白になる。


「ふふっ、そんなに私と帰りたかったんですねっ」


 後輩ちゃんが海翔の腕に抱きつく。


 やめて。そこは私の場所なのに。


「美亜、帰ろう?」


 海翔が笑顔で私に告げる。


「う、うん」


 上手く笑えてる自信がない。


 海翔にとって私って彼女だよね?





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