第8話

「滑稽だ。本当に滑稽だ」


 如月の言葉に怒りが沸く。


 全てを思い出したからだろうか。


「はあ?お前が創ったんだろ、このクソゲーをっ!?」


「そうだよ」


 冷たい笑顔で頷く。


「お前が俺を創ったんだろ!!」


「ああ」


 鷹揚に頷く。


「お前がこの感情を生んだ創ったんだろ!!」


「それは違う」


 断然と首を横に振る。


「この世界では君の感情までは支配していない。設定は、君の役割だけ」


「だからなんだ。お前のせいで幼馴染みが寝取られたことには変わりない」


「はあ。そこだ」


 如月はタメ息を吐く。呆れたように。


「感情は支配していないって言っただろ?それと、同時に行動も支配していない」


「……何が言いたいんだよ」


 如月が眉を歪ませる。

 まだ言っても分からないのか、と。


「君が選んだんだろ?このルートを」


「……ッ!?」


「脇役だから、シナリオは変えれないと思ったんだろ?仕方ないよな。仕方ない、仕方ない。だって、君は脇役なんだから」


 慈愛の笑みを浮かべる如月。

 だけど、刹那にして軽蔑の目に変わる。


「逃げるなよ、都合の良い言い訳作って。君がこの世界を知るなんて、設定上あり得ないことだろ?自分の身にあり得ないことが起きているんだ。ゲームのシナリオを変えられないなんて道理はないだろ?」


「……ぁ」


 声が出せない。


「設定に縛られているのは君のせいだよ」


 クソッ!


「……怖かったんだよ。変えようと思って行動した末、何も変わらなかったら。だから、そうだよ。逃げたんだ、逃げた。傷つけた。裏切った。脇役は良い言い訳だった」


 無気力に俺は首を下げる。


 今さら、後悔しても遅い。変えようとしなかった俺が悪いんだ。


「さて、まあこのゲームを創ったお詫びに二つ良いことを教えよう」


 如月が手を叩く。

 軽い音が室内に響く。


「君の行動が少し未来を変えている。奇跡だよ。たまたま、美亜がその場に居て、それから偶然美亜がそれを見つけて覗いた。そんな奇跡はなかなか起きない」


 如月が優しい笑顔を作る。


「……なんの話だ?」


「行動と感情は支配されていなかったということだ」


 なんだそれ。意味がわからん。


「それから、最後に。望月海翔についてだ」


 主人公だろ?そいつがどうしたんだよ。


「彼は転生者だ」


「は?」


 何言ってんだ?そんな非現実的なことが起こる筈……いや、この世界自体が非現実的か。


「納得したようだね。彼はおそらくこのゲームの知識がある。そして、彼はもう二人のヒロインも攻略しようとしている」


 このゲームには三人のヒロインがいるんだが、まあ主人公だし普通じゃね?


「それが何かあるのか?」


「普通に考えてみるんだ。彼女がいるのに二人の攻略。それを見て彼女はどう思うだろうか?」


「……あ」


 そうか。三人を攻略するということは浮気を重ねるということ。


「今、美亜は彼に対して不信感を抱いている。君の行動のおかげでね」


 俺の胸が高まる。

 呼吸は早く、身体が熱く。


「察しがついたようだね?」


「今なら取り戻せる」


 如月は小さく笑った。


「かもしれない」







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