第7話

 ――中学二年生の夏。俺はこの世界の真実を知った。


「はっ、はっ、はっ」


 目が覚めて、ベッドから身体を起こす。


 濡れてる。


 全身から汗が滝のように溢れ出ていた。


「あ"―――っ」


 声に鳴らない悲鳴を上げた。


 美亜が寝取られる。


 そう断言できるのは夢がそう告げたから。


 一緒にいるのが当然で、大好きな幼馴染み。

 それが、主人公に寝取られる。


 夢だけど夢じゃない。現実だ。

 何故か、そう思った。


 否定したい。でも、否定できない。


 美亜……っ。


 どうすればいい。

 いや、どうもできないっ。


 この世界はゲーム。

 俺は脇役で、美亜はヒロイン。

 変えることのできない設定。


「くそっ」


 とんだ、クソゲー。死ねよ。


 無力感に溺れながら、俺は自分の太ももを殴る。



◇◆◇◆◇◆



「彰人、美亜ちゃん来たわよー」


 お母さんの声に俺は荷物を持って外に出た。


「あ、おはよっ、あきくん!」


 美亜はいつも通り、笑顔で俺を照らした。


「……おはよう」


「あれ?少し暗いよ?どうかした?」


 美亜が心配そうに近づいて、額に手をつける。


「……熱はなさそう。あきくん、大丈夫?」


「……うん」


 辞めて。

 まだ、心の整理ができてないんだ。まだぐちゃぐちゃなんだ。

 どういう顔を向けたらいいか分からない。

 どう取り繕えばいいか分からない。


 俺に笑顔を見せないでくれ。

 俺に触れないでくれ。

 心配そうな顔をしないでくれ。


 美亜は主人公のものになるんだろ?


 苦しい。


 ―どうして?


 美亜が寝取られるから。


 ―どうして、寝取られたら苦しいんだ?


 美亜が好きだから。


 ―どうして、好きなんだ?


 理屈じゃない。ただただ好き。


 ―重症だな


 うるさい。


 ―未来は動かないのか?


 俺は脇役だっ!変える力はない!!


 ―じゃあ、忘れろ。


 何をっ。


 ―美亜への、想いを全部。全て、跡形もなく消せ。無理なら奥に隠せ。見えないように、閉じ込めろ。いずれ忘れる。


 ……分かった。


「美亜」


「……ん?どうしたの?大丈夫そう?あれだったら休ん――」


「俺と付き合ってくれ」


 美亜の瞳が大きくなる。

 顔は赤く染まり行き、耳の先まで赤くなる。


「……そういうことなの?」


 美亜の瞳の縁に雫ができる。 


「ああ」


「私もねっ、ずっとずっと好きだったよ!」


 美亜が満面の笑みで想いを告げる。


 『私もね』、か。


「返事は?」


 俺が促すと美亜は、俺の胸に飛び込んできた。

 それが、美亜の返事だった。


 この世界はクソゲーだった。


 でも、もうそれでいい。

 俺の役が終わるまで、操ればいい。解放されるまで、耐えてやる。

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