第14話

「……この場所」


「美亜。好きだ。もう一度やり直させてくれ」


「う、嘘よ……」


 美亜が首を横に振る。


「嘘じゃない。美亜の優しい性格が好き。ちょっとわがままなところも好き。長い髪も好き。短いのも好きだけど。顔も好きかな。タイプとかじゃなくて、美亜の顔が好き。他にも色々含めて全部好き」


「……やめてっ!そんなこと言ってくれなかったじゃんっ」


 美亜の瞳の縁に雫が溜まる。


「今度はちゃんと好きって言うから。美亜がいいのなら手も繋ぐ。抱き締める。それ以上のことも」


「やめてよ!」


 美亜の頬を一筋の涙が伝う。


「私はっ、彰人を裏切ったんだよ!?浮気したのは私だよ!?もっと、貶してよ!酷いことしたのに、好きだなんて言われてもわかんないよ!」


 美亜が大粒の涙を溢しながら泣き叫ぶ。


「違う。俺がそう仕向けたんだ。俺が裏切った。美亜は何も悪くない」


「手も繋いだ!ハグもした!」


「関係ない」


「私はもう汚れ――」


「美亜の気持ちが知りたい。美亜は俺のこと嫌い?」


 美亜の言葉を遮る。


 美亜は首を横に振る。


「俺のこと好き?」


「分からないっ」


 美亜が再度首を横に振る。


「じゃあ、海翔は好き?」


「…………分からない」


 だいぶ間を空けて美亜が答える。


「どうして?」


「……好きだった。でも、今は分からない。海翔が私のこと好きなのかも分からない。私がいるのに、他の子と一緒に笑って。でも、私も彰人に同じことしてたから何も言えなくて、どうしていいのか分からない」


 美亜が頭を下げてぽつぽつと吐き出す。


「……たぶんアイツは変わらない」


 アイツは自分の意志で主人公をしている。


「……私もそう思う」


 美亜もそれは感じているのか、哀しそうな表情で賛同する。


「俺は美亜しか見ない」


「……本当?」


 美亜が俺の顔を見上げる。


「ああ」


 美亜へ微笑み頷く。


「……わかった」


 美亜がゆっくりと立ち上がる。俺と視線を交錯させる。


「勘違いしないでね。私は、アンタのこと好きじゃない。だから、付き合うってわけじゃない」


 どういうこと?


「でも、海翔のことも今はもう……好きじゃない。だから、海翔とは別れる。それで、アンタが本気なら私を落として。文句ある?」


「ないよ。ありがとう」


 イベントを奪ったからと言って、付き合える程そんなに甘くないか。

 でも、スタートラインには立てた。俺も主人公も同じ位置だ。


 今日、証明できた。


 脇役でも主人公に勝てる。


 もう、絶対美亜は渡さない。


「……花火終わったね」


 美亜が空を見上げて呟く。


 空には、星と満月が飾られていた。


「帰ろう?海翔には連絡で十分かな。会長に、小春ちゃんもいるだろうし」


 穏やかな表情でスマホを取り出す美亜。


 いや、たぶんアイツは――


「はあっ、はあっ、ここにいたんだねっ、美亜……っ」


 俺たちの前に肩で息をする、主人公が現れた。


「か、海翔っ」

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