第4話

「また夜ね、海翔」


 今日も家まで送ってくれた海翔を抱きしめる。


「あー、それなんだけど、今日は電話できなそうなんだ。本当にごめん!」


 海翔が軽く頭を下げる。


「ううん、大丈夫だよ。また今度しよ?」


「うん、ありがとう」


 海翔が笑顔になる。

 うん、やっぱり海翔は笑顔の方がカッコいい。


「じゃあまた明日、美亜」


 私は海翔に手を振って、海翔が見えなくなると同時に家に入った。


「よし!」


 今日は金曜日。そして、明日は海翔とデート。

 それも、堂々と。

 彰人と付き合っていた頃に一回だけデートしたんだけど、その時は少し変装して行っていた。

 あれはあれで楽しかったけどね。


「あ、」


 そういえば、私の鞄って今どこにあるんだろう?

 私の記憶が確かなら、彰人の部屋なんだけど。

 確か彰人の部屋でデートして……


 私はとりあえず部屋を探る。

 でも、やっぱりなかった。


「彰人の部屋かあ」


 どうしよう。正直気まずい。

 だって、別れたんだよ?

 それなのに、この前のお家デートで彰人の部屋に鞄忘れたから入らせて、とか言いづらいよ。


「はあ」


 でも、そんなこと言ってられないか。

 仕方ない。これで、最後だし。



◇◆◇◆◇◆



 ピンポーン。


 彰人の家は歩いて2、3分。

 だから、すぐに着いた。


 インターホンを押して数秒。玄関が開いた。


「あら、美亜ちゃんじゃない」


 出てきたのは、彰人のお母さんだった。


「こ、こんにちは」


 私は少し、いやかなり気まずいものの挨拶をする。

 春菜さんは、というか彰人と私の家族はそれぞれ私たちが付き合ってるのを知っている。

 彰人はまだ言ってないよね?

 言ってたらそんな笑顔で出迎えてくれるわけないし。


「こんにちは。ごめんなさい、今彰人いないのよ」


 春菜さんは少し眉を下に下げる。


「あ、中で待っとく?」


「い、いえ、今日は彰人……あきくんの部屋に忘れ物を取りに来ただけなので」


 彰人のことを『あきくん』と呼び直したのは、付き合っていたときはそう呼んでいたから。

 急に彰人呼びになったら怪しまれるよね?


「あら、そうなのね。じゃあ、勝手に取って行っちゃっていいわよ?」


「え、で、でもそれはあきくんに悪いですよ」


「いいのいいの。付き合っているんでしょ?」


 ズキッ


 笑顔の春菜さんを見て、心が痛くなった。


「……は、はい」


 ごめんなさい!決心したら必ず報告しますから!


 私は罪悪感に包まれながら、彰人の部屋に入った。

 流石に一週間も経っていないから変わってないよね。

 彰人の部屋は一人用のベッドに、机、本棚がある普通の部屋。

 どこかな?彰人が見つけたら流石に私に持ってきてくれるだろうし、ベッドの下とかかな?


 ベッドの下を覗き込めば、私の黒の鞄があった。


「やった!」


 鞄を手に取る。


「ん?」


 鞄の奥に小さな箱があった。

 なんだろう?


 私は好奇心を抑えきれずに箱を取り出し、開いた。


「……え、何これ?」


 口から掠れた声が漏れた。


 そこにあったのは大量の紙や写真。

 それは、全て私と行った映画のチケットやプリクラの写真だった。


「……ど、どうして?」


 この量、たぶん全部だ。今までのデートで行ったの全部。

 私ですら持っているか分からない。


「……なんで?私のこと嫌いじゃ、」


『汚したくなかった』

『明らかに釣り合ってないじゃん?』


「……っ」


 私は箱をもとに戻して、走って家を出た。

 家を出る前、彰人のお母さんが何か声をかけていたけど、止まれなかった。


 言葉に表せない。私の心はどうしようもないくらい痛かった。

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