第12話

『…………』


『…………』


 主人公が会長のアフターケアを行っているであろう時。

 美亜は気まずそうに頭を下げて、後輩は暇そうにスマホを弄っていた。


 あー、今行けそう。


 取るか?いや、でも確実は後輩のイベントの時。

 後輩のイベントは中学の時の同級生に見つかって、いじめられるところを主人公が助けるってものだ。


 そこを、主人公が攻略しているときに美亜をさらう。

 それが俺の作戦。


 なんだけどぉ。


『あれ?小春じゃない?』


 ……何してんだよ、主人公。


『やっぱそうだよね!覚えてる?遥香だよ!中学のときに遊んでた!』


 五人ぐらいの浴衣を着た女子が一斉に後輩を囲みだす。


 後輩というと、顔を俯かせて震えていた。


『ちょっと私たちと回ろうよ』


 そういって、女子が後輩の手を掴んで歩きだした。


『ぁ、ま、待って!』


 と、そこで美亜が声を上げる。


『……なに?』


 女子が美亜を睨み付ける。

 美亜はビクッと肩を震わせる。


『……余計なことしないで。友達とちょっと遊びに行くだけ。海翔先輩にもそう伝えといて』


 さらに、後輩が美亜を突き放す。

 でも、それはたぶん美亜を巻き込まないための不器用な優しさ。


 そうだった。彼女は、主人公には小悪魔系で、他人にはきつく当たる。でも、優しい子だったな。


 ……主人公急げよ。

 なかなか出てこないなあ。なにしてんだろ?

 覗こうにも会長にバレたら面倒臭いし。


 つか、もう始まってんぞ?

 本当に攻略する気あんのか?


 ……もう行かねぇからな?行かねぇからな?

 アイツはヒロイン。アイツは……



◆◇◆◇◆◇



 小春のイベント。

 彼女は中学の時に可愛いという理由でいじめられる。

 そして、高校に入っていじめはなくなった。でも、夏祭りに再会する。

 絶望する小春だが、主人公が駆けつけて解決。トラウマも払拭。


 それが、一連の流れ。

 確か、失敗すると心が折れて自殺する。

 ヒロイン三人の夏祭りイベントの中でも最も重要度の高いイベントだ。


 あー、分かってんのかな?攻略するからには責任持てよ。夏祭りに一緒に行かなかったらこんなイベント起こらなかっただろ。

 彼女も生きてるんだぞ?


 人のこと言えないけど。


「あのー、少しいいですか?」


 はあ、時間稼ぎと行こうかな。


「キツネ……?」


「不審者?」


「え、こわ」


「写真撮っとこ」


「ナンパじゃない?」


 え、言いたい放題じゃん。今時の女子高生怖っ。

 つか、時間稼ぎってどうすりゃいいんだ?

 ええい!ままよ!


「君!」


 小春に指差す。

 小春は困惑したようにあたふたする。


「君は可愛い。自信を持っていい。何せ、あの海翔が君を落とそうとしてるんだ」


 小春の目が大きくなる。


「は?急になに言ってんの?きも」


 周りの女子は怪訝そうな目を向ける。


「そして、彼女たちを恐れる必要はない。彼女たちは何の脅威もない。この公衆の面前で何かできる程肝は座ってないはず」


 そう。ここは祭り会場。俺らは迷惑にも真ん中で立ち止まっている。だから、必然と目線が集まる。

 そんなとこで暴力なんてできないだろう。したらゴメン。


「まあ、そんなわけで海翔が来るまで気楽に待ってな。もうすぐでアイツが来るから」


『いた!!』


 ほら、噂をすればとやらだ。背後から主人公の声が聞こえた。

 俺は踵を返す。


 いる。

 主人公。その後ろを会長。そして、さらに後ろに美亜が。


「待ってください!あなたは誰ですか?」


 小春が俺の背中に問いかける。


「……狐仮面だ」


「んー、それでいいです!が、どうして、私の中学の頃を!?」


 俺は無視して歩みを進める。


「小春!」


 遅いわ。


 すれ違いざまに主人公に文句を心の中で言う。


 続いて会長とすれ違う。


「……っ!」


 俺を見て驚いていたけど、小春の元へ向かった。


 そして、美亜が暗い表情ですれ違う。


「待って」


「え?」


 俺は美亜の腕を掴む。


「着いてきて」


「え、この声、もしかして……!?」


 美亜のイベントは俺が貰う。

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