第三十五話 誤解が全て解けた後、大嫌いだった幼馴染のツンデレ皇太子殿下との関係は……
離縁の準備を手伝わせておきながら、急遽取りやめにしたなんてクロエには本当に悪いことをしたと思う。
わたくしたちの身勝手と鈍感さ故に多くの人を振り回してきた。けれど、それでも笑顔で許してくれるのだから、わたくしは恵まれているに違いなかった。
「離縁を取りやめるのですか。それは良うございましたね、ジェシカ様」
柔らかな黄色の瞳を細め、どこか嬉しそうに言うクロエ。
その視線はまるで全てお見通しと言いたげだった。
「……そうかしら」
「そうですよ。だってお二人は、どこからどう見ても両想いでいらっしゃいましたもの。ではお荷物を戻しておきましょう。ジェシカ様は皇太子殿下とごゆっくりお過ごしくださいませ」
気を利かせてクロエが離れていったかと思えば、今度は「ジェシカ様」と声が。
振り返るとそこには桃色の瞳でじっとこちらを見つめるサラ様の姿があった。
「ハミルトンから聞いて驚きました。皇帝陛下が離縁を命じられたのですって? しかしそのご様子を見るに……」
「ご心配をおかけして申し訳ございません。ヒューパート様の計らいで、離縁の話はなくなりましたの」
肩の荷が降りたかのようにホッと息を吐きながらサラ様が微笑んだ。
「そうなのですね、安心いたしました。これからも応援していますね」
「ありがとうございます。これからもサラ様に教わったことを胸に精進していきますわ」
本当に彼女と、そしてアンナ嬢がいなければここまで漕ぎ着けることはできなかっただろう。
アンナ嬢にも後日報告しなければ。仰天するだろうか、それとも「とっくにあなたたちが両片想いだったことくらいわかってたわよ」と笑うのだろうか。どんな反応をされるかが楽しみだ。
無事に離縁の危機は去った……かのように思えるが、実はあくまでこの措置は一時的なもの。一年以内にわたくしが子を身籠ることができなければ今度こそ離縁となると皇帝陛下はおっしゃっていたという。
でもおそらくそうはならないのではないかとわたくしは考えている。
口付けだけに留まり、結局昨晩はあれ以上の行為には及ばなかったが、それでもわかってしまった。
ヒューパート様はわたくしのことを疑いようのないほどに好いている。そしてわたくしも、もはや彼のことなど、一欠片も嫌っていないのだと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「今日もジェシカは眩し過ぎる。うっかりしたら目が焼かれそうだ」
「今ちょうど暇だから時間潰しに付き合ってやる。エスコートするから庭園までついてこい」
想いを通わせてからというもの毎日毎日、ヒューパート様はひっきりなしにわたくしに話しかけ、隣にいるようになった。
そしてこんなことを言うのである。
「私はお前のこと、好きでも嫌いでも、もちろん大嫌いでもないからな。誤解するなよ」
「ふふっ。ありがとうございます、ヒューパート様」
好きでも嫌いでもない。これすなわち、大好きということらしい。
なんとまあ遠回りでわかりづらい言い方ではあるが、ツンデレなヒューパート様は素直になれず、なかなか真正面から愛を告げられないようだ。
かくいうわたくしも、愛しているとはまだ自信を持って言えない。
だが、ツンデレという皇太子殿下の本性を知ったおかげでその言動一つ一つが全て照れ隠しにしか聞こえなくなってしまい、笑みを隠せない。
一方でヒューパート様はポッと頬を赤め、わかりやすく視線を逸らせながら無音でこちらの肩を抱く。
そんなところがまたたまらなく愛おしく、わたくしはそっと彼へ身を寄せたのだった。
出会いは最悪、始まりは白い結婚、仮初の夫婦生活を過ごしたり冷戦状態に陥ったりなどしたわたくしたちだけれど。
本当の夫婦になる日は近い――そんな気がしてならないのだった。
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