第12話 悔恨

 なんでこんなことになったんだ。


テレザの疑問に答えるものなどいるはずもない。当然、彼の頭の中にしか響かない声だからだ。


 帝国軍官寮が壊滅的被害を受けたことは最悪どうでもよい。強い将官たちが生きていれば再起は図れる。だが、反乱軍が帝国兵を蹂躙し始めている。普通ならばありえないことだ。帝国兵は最強の存在から庇護を受けた最強の軍隊である。他国の、寄せ集めの反乱軍に劣勢になるはずがない。


 何故だ。反乱軍の方が個として強い。それがこちらを上回る数存在している、英雄級の者が突発的に、それも多発するなどありえるわけがない。仮にも英雄級の者は世界でも数えるほどしか存在しない稀有な存在のハズだ。帝国兵は例外として、他国がなぜこれほどの軍事力を持っている。賢者の言葉がよみがえる。洗脳による挙兵ができる存在がいるというのならば、反乱軍全体を強化する魔法も使えて当然だ。個別に対象を指定しなくていい分難易度は低いはずだからである。だとすれば人間の限界を超えた強化が可能かもしれない。


 ―帝国が危ない。


 テレザの脳裏を支配するように、これだけが、これだけしか考えられなくなった。今までの行動は正しかったのだろうか、帝国で帰りを待つ家族は、本国での立場は、俺の命は・・・考えないようにしていたことが瞬く間に蘇る。


「―ッグ!」


 鈍い殴打の音と口から洩れる苦痛の声。自分の頬を力の限りぶんなぐり、正気に戻る。それを見て、少将ジンカも同じようにする。流石帝国で出世するほどの者たちで立ち直るのが早い。


 口に残る血を吐き捨てて、深呼吸をする。正直、未だに嫌な考えが途切れる様子はない。行動で払拭、或いは上書きするしかない。


「少将!軍を率いて反乱軍を鎮圧しろ!俺は学術国の勢力の対処に回る」


「了解。ですが、未だに特大魔法を放ったものの存在を感じます」


「ッチ勇者は何をやってんだ!最悪この国が亡ぶのだぞ!」


 学術国は前線において最重要拠点となる。他国への侵略に関しては、海を隔てて軍を送ったり、双方向からの進行が可能になる。防衛に際しては、本国と挟み撃ちが可能となる。重要拠点であるのは言うまでもない。


 万が一にでもここが滅んでしまえばすべての責任は中将たるテレザにのしかかる。軍人としての職はそこで終わる。家族は養えなくなり、実力至上国家である帝国では稼ぎのない家が生活できるはずもない。


 テレザの軍刀が反乱軍を切り捨てる。英雄級の力があったとしても逸脱者を軽く凌駕するテレザの攻撃に耐えられるわけがない。


「ッチ忌々しい!洗脳なんかされやがって!!」


 テレザの叫びには同情も含まれている。洗脳により操られた軍勢がどうなるのか、祖国の命に反した者たちの末路は決まっている。それが故意的でなくとも、事実として反乱軍として挙兵した。他国からは戦争の火種を起こしたとして袋叩きにされるかもしれない。不幸中の幸いなのは反乱軍が一国の軍勢で組織された軍でないこと。それも周辺国家であることから、互いに手を出し合うことはない。敵対するとしたら、帝国と学術国と同盟関係にない国だけ。そもそも、洗脳した者たちらに殺されるだろうとも思えた。ここまで情報封鎖が完璧にできるのならば、リスクとなる被害者たちを生かしておく必要もないはずだ。


 反乱軍だけが相手であるならば問題はなかった。だが、実際はそれだけではない。学術国の国兵も帝国を悪と断じ制裁と銘打って挙兵してしまった。学術国の兵士は強い。通常の反乱軍と同じだけの力を持つ。これが反乱軍と同じ勢力に呑まれれば帝国兵としても苦しい状況となる。そして、最も最悪なことが、洗脳された兵士たちが学術国の軍に友好的な態度を示してしまっていること。


 ―どこまで用意していた・・・。


 テレザは震えた。この状況での学術国の動きに少しの間があった。完璧に段取りを踏んで、作戦を立てていたと目される敵らがこんなミスはしない。何かこちらの行動に、相手側の予想していなかったことが生じたということ。


「HOMEか!やはりお前が、お前たちが!!」


 テレザの只の勘が、この状況を雄弁に説明してくれる。ただ、テレザはほんのわずかな優越感を得た。自分の頭脳―というには根拠の無いものであったが―が敵にとって最悪な状況をご提供してやったからだ。


「俺と少将のみが生き残ったところで拠点を維持することはできない。勝利条件は学術国の形を保った状態で帝国が居座ること・・・」


 自分で口に出して再度、絶望する。まず、学術国は滅亡する。反乱軍が洗脳されているからこそ、帝国兵が降参したとしても殺し尽くされるだろう。おそらく相手の狙いは帝国と、学術国のどちらか、或いは両方である。また、学術国の兵士ですらこちらを悪とした。上層部が洗脳されている可能性もあるだろう。


 本国に応援要請したとしても間に合わない。それに通信も遮断されている。結界か、首都全体を包むような巨大な結界だ。それも外部からの干渉を遮断し、内部からの通信を遮断する。だが、定時連絡が途絶えれば本国も異変を察知することだろう。本国が異変を察知し、通信が遮断されていることを察知すれば本日中には援軍が来る。それまで耐えられれば、という枕詞が必須だが助かる可能性がある。


 だからこそ、やるべきは時間稼ぎだ。学術国の上層部に、詳細を話し反乱軍への助力をやめさせる。それさえできれば反乱軍を鎮圧できるかもしれない。少将が居れば少なくとも持ちこたえられる。


「首相は居るか!いるならば声を上げろ!殺されたくなければ今すぐにだ!」


 テレザに余裕はない。目の前の敵を殺しながら歩む。当然、学術国の兵士も殺している。中には顔見知りもいた。数年間この国で暮らし、祖国のように愛していたのだ。顔見知りが何人かいるのは当たり前だ。


 誤って首相を殺せば交渉は成り立たない。首相の顔は知らないし、一人一人の顔を把握することも難しい。声を荒げながらでないと、殺してしまう。こうなっては悪と断じられても事実として間違いではなくなってしまっているのだ。だが、真実は黒幕が別にいる。


「中将テレザか、アイツが帝国軍の大将だ!殺せ!」


 学術国の兵、その末端は何も詳細を聞かされていない。いつもであれば、完璧な伝達が成されているべきだ。だが、現実はそうなっていない。帝国に対する不満が募っていたという事実があったせいで、帝国が反乱軍として違和感のない存在になってしまっているのだ。だからこそ、学術国を守る者として帝国兵を殺す事に躊躇はない。


「邪魔だ退け!首相を出せと言っているんだ!」


 テレザに群がる人間は彼の一撃のもとに屠られる。数百の人間を殺しながら前進するその姿が異質で、悪夢のようでさらに帝国兵へ悪影響を与える。


「そこの道を開けろ、中将殿と話をする」


 学術国の兵士、その中から声がした。そこに立つは首相ホステルだった。ホステルは今回の件、帝国が黒幕であるとは思っていなかった。シャーリーの暗示によって考えを歪められたが、効果が切れてからは帝国の味方でありたいと考えていた。だが、暗示の効果が切れたのは数分前、もはや遅すぎたのだ。帝国は悪ではない。帝国を目障りに思った何者かの陰謀と考える方が幾分自然であった。


「ホステル首相・・・感謝する」


 テレザは軍刀を鞘にしまった。そして、ホステルの元へと歩み寄る。そして、二人を中心に開けた空間を形成した。熾烈な戦争の地に平和な空間が形成された。混乱し互いの思惑と戦力が交錯するこの戦場において、一瞬だが剣を交わす事の無い場所が生まれたのだ。


「ホステル殿、反乱軍が今どのような状況かわかっているのか?」


「正直なところ何もわかっていない。貴国ただ一国と敵対するほうがあとくされがないと判断したのみだ」


「愚かな!帝国軍はほかのどの国の軍よりもはるかに強い。学術国の再建の芽を残したいならば我が国と苦境を共にした方がよいであろうが!」


 テレザは憤慨した。何も知らないのに帝国を敵国として断定した、と。確かにすべての国が同じ戦力を持っているのならば一国だけを切り捨てればいいかもしれない。だが、相手は圧倒的な軍事力を持つ帝国であり、反乱軍は何者かの手に落ちた洗脳兵だ。どちらが悪かは明確なはずだ。


「まさか、知らないのではないだろうな?反乱軍が洗脳によって組織されている、ということを」


 テレザはふと思い返した。確かに、テレザとしても賢者に答えを教えてもらうまで反乱軍は組織されていたこと、洗脳により軍を統制されていたことを知らなかった。ならば、首相が知るはずもないのではないか?


「それは本当なのか・・・いや本当なのだろうな。実際にこの状況を見れば可能性は十分にある。だが、戦争は始まった。もはやどうにもならん」


 今更敵を変えることなどできようはずもない。だからこそ、学術国はもはや後戻りもできない状況下にある。洗脳も永遠ではないはずだ。永遠ではないのならば、洗脳が解けた後、慈悲深く接してやれば学術国としての評価は跳ね上がるかもしれない。


 兎にも角にも、ここで帝国が抵抗せず学術国を後にすれば、学術国としては最適なのだ。


「何を言っているんだ!洗脳は解けない、反乱軍は一人残らず殺さなければ鎮圧できない!加勢できないというならば、通信機器を貸せ!」


「ならん!今帝国軍の加勢が来ることを俺は望まない。お前にこの反乱を、黒幕を断罪することができるのか!?」


 出来はしない。だが、野放しにするよりは絶対マシだ。学術国の愚かな首相の言うことは何も理解できない。テレザの頭に血が上った状態でもわかるほどの保身バカだ。


「どちらにせよ学術国は亡ぶ。ならば敵対勢力と戦うべきだろうが!」


「敵は帝国よりも強大なのだろう?それに今更末端兵に伝達することもできない。もう貴国は詰んでいる」


「今、俺たちが剣を交えず話し合っていることはどうなんだ!?これができるならば、末端兵への伝達など造作もないことだろう!」


 テレザの額に血管がいくつも浮き出る。目は真っ赤になり、拳から血が流れる。そして、諦めた。学術国の機能を崩壊させるために首相を殺す。最悪だが、最善だ。学術国の首相は軍最高司令官でもある。だからこそ、軍事的重要人物でもある。


「いいだろう。だが、代わりに黒幕は貴国が殺せ。それができないのならば貴国との平和条約を破棄させてもらう」


「何を・・・ッチ。承諾する」


 テレザはホステルの言い方に心底腹を立てた。煮えたぎるほどの激情を内に秘めたまま、踵を返し少将の元へ急ぐ。


「聞いていたな学術国に住まう兵士よ。我らの国を脅かす何者かを討ち果たす、我らは調停者なるぞ!」


 ホステルの鼓舞に学術国の兵士は燃え上がる。そして、大歓声のまま反乱軍へと激突した。激しくも醜い戦争が始まる。



 ※



 勇者の敵ははるか上空にいる。まだウェンティーはサリオンを発見できていない。サリオンの魔力操作による隠密、それに物理的な距離を与えている。ならばウェンティーがサリオンを見つけられる道理はない。


 だが、それはそれとして数名油断ならない気配を感じ取り歩みを止めた。建物が立ち並ぶ路地の裏で、正面に一人の人影。そして、あたりに4つの気配。賢者が共にいれば障壁にもならないだろう状況、ウェンティーは舌打ちをする。


「貴方たち、人間ではありませんよね?」


「人間ではないわね。私はエルフだもの」


 ウェンティーは己の武器を手に取り、オリアナに向けて構える。そして、オリアナも弓を取り出しウェンティーに向けた。両者見つめ合う緊迫した状況はエレガントの一撃により解除される。地を割り、建物を崩壊させるほどの攻撃をウェンティーは最小の動きで躱した。


「貴方も人間ではないようですね」


「今のを避けるとは、お見事ですな」


 エレガントの棍棒が亜音速でウェンティーに振るわれる。それを伝説級の武器で受け流して見せた。衝撃波だけで建物が崩壊し、瓦礫の中からオリアナの援護射撃が飛んでくる。ウェンティーの頬をかすめ、血を流させる。さらにバイオスがウェンティーによく似ているが、年は彼の一回り以上、上の容姿で現れる。ドッペルゲンガーたる彼はウェンティーの記憶にある大切な人物に化けた。ただ化けるのではなく一瞬、ウェンティーの行動を阻害する。加護に呑まれたウェンティーがその姿に気を取られたからだった。


 義玄の刀がウェンティーを断つ。だが、ウェンティーは加護”縮地”を使い己の位置を変えたことで生きながらえる。一人一人が自分に肉薄するほどの技術と力、勝てるはずもないが、負けるつもりのない勇者が反撃に転じる。


「素晴らしい。今の連携を避けるとは、思ったよりの強者であるな」


「義玄、油断はいけない。近接戦闘はエレガント殿に任せ我らは援護に回るのだ」


 義玄の賞賛にバイオスが水を差す。油断して挑んでいい相手ではない。直接戦闘だけならばエレガントの方が強い、と二人は直感で感じ取っていた。だが、エレガントでは勇者を取り逃がす。勇者は縮地のように危機回避の手段があるがエレガントにそれはない。


「人外どもが徒党を組んで何の用ですか?殺して差し上げるのでそこに直りなさい」


「話に聞けば賢者と隔離できさえすれば精神的に不安定な状態となり戦闘どころではない、という風に聞いたが?」


「なめるなよ化け物どもが」


 義玄の率直な疑問がウェンティーを怒らせた。ウェンティーの剣に光がともる。勇者の加護、其の神髄は進化と継承だ。継承によって得た加護、その一つ。”光剣ライケン”だ。一瞬だが、一撃の速度を光の速さに近い速度で放つことができるのだ。一度放てばしばらくは使えない攻撃だが、その威力は破格である。質量のあるものが光速に達することはないというが、限りなく近づいたのならばその威力も当然別格なものとなる。


「オリアナ、下がりなさい。ガルド、頼みますよ」


 エレガントの指揮により待機していたガルドが現れる。大楯を眼前に構え、勇者の攻撃に備えるのだ。


「”連撃””剛撃””縮地”」


 4つの加護を併用し、一撃で仕留めるつもりでウェンティーが繰り出す一撃、その威力はネームド最強たるエレガントですら到達できないほどのものだった。光剣の効果が切れる前に四つの剣戟を、強化し繰り出す合わせ技だ。一撃の威力でさえネームドを一撃で殺せるほどのものを、だ。


「備えなさい」


 エレガントの忠告と同時に、ウェンティーの姿が掻き消えた。そして、再び現れたのはエレガントの懐だった。彼は即座に反応した。棍棒をウェンティーに繰り出すが、それを寸前で避けられる。その隙にガルドが大楯でウェンティーを隔絶した。そして放たれる一撃により、伝説級の大楯が破壊されてしまう。ガルドの盾は防御力が高くはないが破壊される瞬間は如何なる威力の物理攻撃を無効化する。破壊されれば、一定時間でもう一度この盾を顕現させられる。回数制限があるが、一日に5回と余裕がある。


「このレベルの盾を砕き、俺の腕を麻痺させるほどの一撃。人間の護り手たるは伊達ではないな」


「刃こぼれ・・・なんて硬さ」


 ウェンティーは剣を捨てた。そして、代わりの剣を呼び出す。勇者が呼び出せる剣は、いつの時代もどの物語であっても同じだ。


「私も初めて使うのですが、あなた方にはその価値がある。”聖剣アルガード”私の呼び声に答えなさい」


 聖剣、神聖属性の武器。この武器は長らく帝国にある祠にて保管されていた。その剣は勇者の呼び声に呼応して出現し、ウェンティーの力となる。


 生憎と神聖属性によりダメージを負う者はこの中にいない。だが、単純な武器の性能が神話級と高くなったのだ。それが彼の奥の手の一つ。


「ガルド殿新しい盾は?」


「伝説級の盾しかないが、使い捨てれば防げるさ。俺のスキル、修復で完全に破壊されない限り使いまわせる」


「では今まで通り、私が前線を。皆さんスキルを存分に活用し彼を楽にして差し上げましょう」


 エレガントの発言を期に第二ラウンドが始められるのだった。


 エレガントの棍棒と勇者の聖剣による剣戟が幾度か響く、オリアナの弓がウェンティーを襲う。さらに、バイオスによるスタンと幻惑による精神攻撃。また防御はガルドが受け持ち、隙の無い戦闘が繰り返されている。彼らを中心に建物が崩壊していく。クレーターが発生し、なおも続く戦闘。どちらも決め手に欠けていた。


 オリアナの弓がウェンティーに当たる。彼女のスキル”能力付与エンチャント”により、矢に掛けられた効果は鈍化である。重ね掛け可能なデバフを付与する。ウェンティーの顔面にエレガントの棍棒が直撃する。大きく拉げた顔に吹き飛ばされる体は建物を貫き、反乱軍を蹴散らしなお止まらない。ウェンティーが意識を取り戻し、聖剣を地面に突き立てやっと勢いが死んだ。首都の外壁に体を打ち付け、破壊し完全に制止する。ウェンティーの口端から血が漏れ出す。


「回復系統の加護は存在しない。魔法は得意ではありませんが、治癒ヒール


 ウェンティーの加護”超越オーバースキル”にて治癒の効果を飛躍させる。5分に一度しか使えないスキルだが、それ相応の深手を負った。内臓が破壊され、指先にまで痺れが循環していた。鈍化に適応してしまえば、これほどの痛手を負うこともないだろう。使いどころである。


「まだ痛みが残る。治療できる回数には限りがある…もう喰らえない。体が重い、継続して加護を使わねばまた喰らう。難儀なものです」


 ウェンティーは加護”神速”を使い、鈍化の効果を無理やり打ち消す。本来であればエレガント相手に余裕が生まれるほどの速度を出すのだが、それも今では通常時と同じ速さに落ち着く。


 ウェンティーが足に力を込めて地面がえぐれるほどの脚力で戦地へと戻る。


「手数の多さ、案外便利そうですね加護というものは」


 エレガントの賞賛にウェンティーは無反応だ。そして、エレガントのスキルが発動される。”竜人化”彼の種族である竜人は、普段は人間と変わらぬ姿をしている。強いて言えば髪が白いというだけの特徴がある。だが、竜人化は見た目の変化が微々たるものであるが肉体強度、俊敏性が跳ね上がる。個体によっては竜のような長髭を生やしたり、鱗を纏うこともあるが、彼は目の色が赤くなり、額にひし形の眩く輝く宝石が顕現するにとどまる。眼光がより一層鋭く光る。技の冴えも今までとは比べるべくもない。


 エレガントの棍棒が曲がったように見える。神話級の棍棒が曲がることなどありはしないのだが、ウェンティーほどのものでも捕捉しきれないほどの速度の攻撃となったということだ。


「よく避けますね。本来ならば大勢で戦うということはしたくなかったのですが、仕方ありませんね」


 エレガントはウェンティーの強さに敬意を示していた。故にサシでの戦いを所望している。だが、命令がある以上、エゴを優先することはできない。


「バイオス、私をトレースしなさい」


 エレガントの命令をバイオスは承諾する。ドッペルゲンガーの彼はまねた相手の力、其の8割を行使できる。今の竜人化したエレガントをトレースすれば、巣の状態のエレガントと同等の力を発揮できる。


 バイオスの持つ武器は棍棒ではない。サーベルだ。だが、バイオスの技をエレガントの肉体機能で扱えるのだ。弱いはずがなかった。


 ウェンティーに切り傷が増えていく。エレガントの一撃よりも軽いバイオスの一撃を甘んじて受け入れているのだ。それでも積もれば痛手であり、油断はすべきでない。


 ―”瞬撃””光剣””縮地””連撃””収縮””剛腕””神択”


 ウェンティーは加護を発動させる。7つの加護の同時発動、これはウェンティーの脳が行える処理の限界値だった。つまりは、ウェンティー最大の攻撃力を誇る一撃である。瞬撃を光剣によりさらに加速、縮地により高速移動を可能とし連撃を収縮により一撃に収める。剛腕により威力を高め、神択により威力倍加を選択する。フリートならば神択の効果を選べないが、勇者たる彼は選ぶことができた。常時発動型の加護、”幸運ラック”のおかげだ。


「ガルド殿、スキルを使って守りなさい。私が攻撃箇所を絞ります」


 ウェンティーにとってエレガントが最大の障壁。それが殺せる状況になれば、狙いはエレガントに絞られる。彼は棍棒を捨てた。そして、気力を高め防御に全魔力を注ぐ。そして、繰り出されるはウェンティーの攻撃だ。


 眩い光が発生する。そして、エレガントの眼前に現れた瞬間、ガルドが割って入る。彼のスキル、守護対象を必ず守るための”王之防壁ロイヤルガードナー”。これがなければ間に合わなかっただろう。守護対象者が攻撃を受けたさいダメージを肩代わりする。さらに、直撃の寸前物理法則を無視し、間に割って入ることが可能だ。現在はそれを行使し、エレガントとウェンティーの間に現れた。


「ぐあああぁ!」


「皆さん急ぎなさい」


 ガルドがウェンティーの攻撃を防御するが盾が破壊され、彼の武器、大剣により聖剣を受け止めている状態である。だが、武器の等級の差により大剣は砕ける寸前であり、瓦礫が身を削り、衝撃波で臓器が潰れる激痛に耐えている。ウェンティーの両脇から、エレガントをコピーしたバイオスが、義玄が己の最大火力の一撃を放った。右から魔力吸収によって見た目以上のダメージを与えるサーベルが、左から義玄の燃え盛る刀が振りかざされる。両者の一撃はスキルによって強化されている。


 ガルドが激しく血を吐いた。


「―!?」


 ガルドが聖剣を両方の手で掴む。ビクともしない聖剣を手放さなければ二人の攻撃をまともに食らってしまう。さらに、ガルドの背後ではエレガントが最大火力の攻撃を準備している。二人の攻撃を避けてもエレガントの攻撃が当たる。攻撃に加護をすべて回している勇者にこの攻撃全てを防ぐことはできない。まさに絶死の状況のはずだった。


「”反転”」


 勇者の加護、反転。技の衝撃波を反転させ、ガルドから義玄、バイオスへと向けた。二人は衝撃波を喰らい吹き飛ばされる。ガルドも限界が訪れ倒れてしまった。だが、まだエレガントの一撃が残っている。


「”必死の矢フェイルノート”」


 オリアナ最強の技、一日一度しか使えない奥の手。同等の魔力量を持つ者を一撃で屠れる矢である。レジストするには同等の等級のスキルがなければならない。人間以外であれば抵抗可能な必死の矢が、勇者には対抗できない。スキルを持たないからである。ただ、残念なことに勇者の方が魔力量が多い。僅差であるため、体力の大幅減、また行動阻害にとどまってしまった。だが、主攻はエレガントの最大火力だ。


「地脈操作”流動破断”!」


 地面に突き立てた棍棒を再び手に取る。防御に回していた魔力を今度は棍棒に注ぐ。棍棒では再現不可能なはずの大地を寸断するほど鋭い一撃、それがウェンティーに繰り出された。地脈の力を借りた一撃、それはエレガントの出せる最大火力に拍車をかける。地脈操作ができる竜人にとって最大火力は、どれだけ地脈に精通しているかによる。エレガント単体で出せる最大威力を操作することができる、と言ってもいい。理論上、威力に上限がないのだ。そして、エレガントの最大火力は問題なくウェンティーを裂いた。


 左肩から右わき腹へと袈裟懸けに引き裂いた。


 ”最適化オプティマイズ


 ウェンティーの体が流動体へと変わる。蠢く彼の肉体はあまりに醜い、勇者などと言われるようなものではない。そして再度構築され始める。


「起きなさい義玄、バイオス!まだ終わっていません!」


 エレガントは流動体と化したウェンティーに幾度も攻撃を浴びせる。だが、最適化されたウェンティーに物理攻撃は無効となっていた。


 それはもはや人間の体ではなく、最適化された肉体はスライムとして生まれ変わったのだった。そして、再び構築されるウェンティーの形。


「これが、勇者の受け継がれてきた力・・・」


 ウェンティーは復活を果たしてしまった。だが、彼の表情は途轍もなく暗い。絶望という言葉が良く似合っている。


「勇者の加護、人間をやめる力が?冗談でしょう・・・」


 今まで忌避してきた人外に自分が成ったのだ。絶望せずにいられるはずがない。もはや自分は勇者ではないのだ。そして、加護がウェンティーから離れ行く。人間でなくなった彼は、加護を授かる対象から外れてしまった。今ここに居るのは、受け継がれた外れの加護によって生まれた。ただ物理が効かないだけのスライムである。物理だけに適応したため、魔法には逆にもろくなった。勝手に弱くなったのだ、もはやいつでも殺せる存在である。


「聖剣が、私にはまだ聖剣があります!」


 ウェンティーの足元に転がった聖剣を握ろうと手を伸ばす。だが、触れない。聖剣に触れようとすれば、手に痛みが走った。反発し、触れない。勇者ではなくなった彼に応える聖剣はない。彼は文字通りただの魔物へとなり下がってしまったのだった。


「スライム、ですか」


 エレガントは冷静にウェンティーの変化を分析した。そして、スライムの核をいともたやすく破壊した。


 ウェンティーだったスライムは、核を失い蒸発し消える。


「ゲル・・・ド・・と・・・ありた・・・か―」


 と死に際の言葉にエレガントは少し心を痛めてしまった。彼の直感が、ウェンティーという者の本質を見抜いていたからだ。これが勇者ではなくウェンティーであったならばもっと苦戦しただろう。


「叶うならば、万全の貴方と戦いたかった」


 胸中に、なんともやるせない気持ちがどこにもぶつけられないまま、残されてしまった。


「エレガント様、ガルドとバイオスが逝きました」


「そうですか。残念ですね」


 二人の犠牲を払いウェンティーを殺す事ができた。だが、この犠牲は特に意味を持たないものであったと、後で判明することとなる。



 ※



 賢者は異空間に囚われていた。時はサリオンの魔法により帝国官寮が破壊された時にさかのぼる。


 ウェンティーは魔力反応からサリオンの位置を割り出した。割り出したと言っても大まかな位置にすぎない。遥か天空、帝国官寮から東に200メートルほどの距離で、誤差は50メートルといったあたりだろう。ウェンティーは空を飛べない。人外が敵であると判明したため衝動的に飛び出したようなものだ。飛べなければサリオンに対して有効打は与えられない。それどころか、サリオンを視認することすら難しいだろう。だが、そんな理由で止まるような勇者ではない。加護に操られていようが、其の真にあるのは正義だ。平和を破壊するような邪悪サリオンを放置などできない。


 路地裏を賢者と勇者が曲がった。勇者が異様な者たちの気配を感じ取り、足を止めた。賢者が勇者の制止に従った瞬間であった。目の前が暗転し、彼を囲むように立っていた住居も、光も何もない空間に自分の身だけが明確に感じられた。


 事の顛末はこんなものだ。勇者は気が付いていたのかもしれないが、ゲルドは気が付かなかった。ウェンティーと同時に路地に入って所まではいい。ゲルドだけが路地ではなく異空間にとらわれたのだ。凄まじい技量を持った何者かの仕業であると、ゲルドは戦慄した。


 異空間を作ったのはクルシュである。クルシュは幻獣という種族である。幻術に長けたこの世界の序列でも上位に位置する存在だ。麒麟も幻獣であるが、クルシュは人型である。幻獣や少しの種族の間では、人型がより上位の存在である、という認識が通じない。幻獣は形によって進化の度合いがわからない。幻獣にとって形は重要でないからである。それでも人型は珍しい。幻獣はこの世界の神話をもとに発生した種族だ。精霊がこの世界の伝承をもとに出現するように、純粋な生物ではない。魂が存在しないので、概念的な死は存在するが神話や伝承が無くならない限り絶滅はしない。魔神との差は世界を隔てていないこと、そのおかげで異次元な防御力も底なしの魔力量も伝承の書き換えで殺す事も不可能になった。


 彼女の持つ神話、それは幻尊会げんそんかいと呼ばれた宗教を開いたとされる最古の幻影術師”クルシュ・スペクトラム”が元になっている。


 幻尊会の教えは現実の世界から乖離し夢の世界に生きていると信じることでこの世の苦しみから解脱できる、というものだった。


 曰く、スペクトラムは異空間支配によって理想の世界を体現できる。

 曰く、スペクトラムに実体はなく触れることができない。

 曰く、スペクトラムの理想はすべて現実になる。


 大まかに言えば、クルシュ・スペクトラムの能力はこの三つだった。幻獣としてクルシュが誕生した以上、スペクトラムの存在は否定されている。幻獣のもとになる神話に登場する者たちはすべて存在しないことが法則だ。もし存在していたならば本人に還元され、幻獣にはならない。クルシュはその力をすべて体現している。だからこそ、クルシュの作り出す異空間はネームドの中で最も完成度が高い。


 異空間、それは標的を孤立させるために使うものではない。そういった使い方もできるが、実際は奥の手として温存すべきものだ。なぜならば魔力消費が激しいからである。孤立させなくとも、異空間を作り出せれば絶対的優位なルールを強制させられる。


 だが、今回はこれが最適な使い方であった。加護はスキルによるルールの強制では封じきれない。根本的に違う力であるからだ。


「これは・・・ウェンティー大丈夫だろうな」


 ゲルドは友人のことを心配した。ゲルドとしてはウェンティーが負けるなどと想像もしていない。だが、ここにシドが居たならば或いは、と心配している。ここでテレザとの会話を思い出してしまったのだ。シドは大森林の勢力と懇意にしている。大森林に拠点を築けるものがいるとすればHOMEが思い当たる。であれば、評議国での帝国の動きに今回の作戦・・・いろいろと合点がいってしまう。テレザの早合点に同意するのは少々根拠も情報もないのだが、もはやそれしか考えられない。


「何故気が付かなかったんだ?」


「それは我々の情報庁とでもいうべきか・・・まあそこの長官が優秀だってこったな」


「貴方は?」


 ゲルドの独り言に答えたのはジムニーであった。


 ゲルドの問いに対する答えはジムニーの返答が最も簡単に説明できる。シェリンの情報操作が完璧であったから、誰も探れなかったのだ。後は、ネームド10名の命を代償に運営している高等儀式魔法”幻惑世界ミスト・ワールド”によって情報を不透明なものにしているからだ。


 例えば、HOME主要拠点の一つ、リ・シルバの支店長が公に名乗っていたとする。そして、其の名前を知っている者がいるとする。だが、この幻惑世界のせいで、この名前がどこの誰のものか分からなくなるのだ。秘匿する、というよりかは情報の出所を惑わす、情報の内容を不明瞭にする効果がある。


 ネームドが命を落とせばこの魔法による効果はなくなる。今まで秘匿してきたすべての情報が開示されることとなるので、これは決して破壊されてはいけないものだ。といっても、たいして重要な情報は管理されていないのだが、それでも漏れてはいけない情報もある。幻惑世界に管理させるよりシェリンが管理した方が重要情報を扱うにあたり完全性と機密性が高い。


「俺はジムニーだ。あと、この異空間を作ったのがクルシュだ。あとガランとメルヘムがお前の相手だ」


「しゃべり過ぎじゃない?自己紹介位自分でできるし」


 ジムニーは出しゃばりな性格をしている。自分はネームドの中でも優秀な方ではないことを理解しているからこそ、少しでも目立とうとしているのだ。愚かな行為であると気が付いていないので、自分が優秀ではないことを示している。力だけでネームドに選ばれたが忠誠心はあり向上心もある無能だ。そして、ガランは女々しい性格をしている。鎧武者リビング・アーマーという種族に性別はないが、心は乙女だ。


「私と同格の強者がこんなに・・・詰みですか。私―俺は結局何もできなかったか、悪いなウェンティー先に逝く」


 ゲルドはあきらめの境地にいる、のではない。差し違え、出来る限り道連れにしてやらんと努力の方針を決めただけのこと。だが、ゲルドはこの人数差で一人足りとも殺せはしないだろう。賢者の加護は情報戦に長けている。情報戦でもシェリンに敵わなかったが、戦闘向きではない加護でネームドに勝てる要因はない。加護に呼応して人間を逸した肉体強度や能力を得ているが所詮はそれだけだ。


「少し話さないか?ゲルドとやら。俺たちはお前を殺したいとは思っていない。賢者の加護はいずれまた現れるのだろう?」


「あんたらの都合は関係ないさ。俺は親友アイツのための賢者として最後まで足掻く」


「口調が変わってる。なんで?」


 メルヘムがゲルドの変化を不思議に思った。ゲルドは無理をして賢者を演じていた。もともとウェンティーと同じ村に生まれただけの子供だった。だが、ウェンティーが勇者に選ばれた次の日、ゲルドが賢者の加護を授かった。それからというもの、礼儀作法や戦闘技術を高め、人間のために親友のために邁進する日々の繰り返しだった。いつか人間の大陸から魔物を亡ぼし、人間の平和な世界を作ることを夢見て。


 だが、勇者の加護に目覚めてからウェンティーは狂った。前は正義感に燃える、奴隷として売買されるエルフを助けたいと、地下労働をさせられているドワーフを救いたいと、息巻いていた。だが、勇者の加護に目覚めてからというもの、エルフは人ではない、ドワーフは助けるべきではない、などと言い始める始末。


 ゲルドはそんな彼を勇者であり続けられるよう、努力してきたのだ。


「もう死ぬのだし、上辺を取り繕う必要もないだろう?正直疲れてたんだよ」


 ウェンティーに対する怒りも、憐れみも、人を救いはしない。だからこそ、ゲルドだけは理想を見続けて、ウェンティーを支えるのだ。かつて親友と抱いた馬鹿みたいに平和を求めた理想を、捨てられるわけがなかった。それが自分の、その願いを捨てないことを使命だと割り切ったのだ。


「本当に最悪の旅だったよ。外の景色を眺める暇さえないくらいね。それでも、楽しくなかったわけではない。確かな達成感に酔った日もあったし、ウェンティーと酒を酌み交わした夜もあった。俺にしてはよくやった方でしょ」


 ゲルドの独り言は止まらなかった。それを邪魔するような者は居なかった。同情してしまったのだ。皆ゲルドのかわいそうな旅路を嘆いた。だが。当のゲルドはすがすがしいと言ったような顔に、確かな笑みを浮かべていた。だが、目だけは遠いどこかを見ているようで、儚さを感じる。


 愚痴を吐ききったゲルドは頬を数度叩き、剣を構えた。


「すみませんね長々と。もういいです。やりましょう」


「賢者として最後の戦い、といったところか。ではこちらも誠心誠意、貴殿を殺すとしよう」


 これから始まるは単なる集団暴力リンチである。だが、ゲルドがそれを是とした。そして、それに対する情けは無礼だと、皆が共通して感じていた。最後にふさわし華々しさを求めゲルドは奮起する。王国にいるウルスのように、生ける伝説となる事は叶わなかった。ならばせめて詩人に謳われるような最期を、ここで飾ろうではないか。誰もこの戦いを見ることはない、詩人に伝わることもなければ敵以外に賢者が死んだことも露呈しない。だが、そんなことはどうでもいい。心地いい気分に身を任せて本気を出すのだ。


 賢者の剣が10の斬撃を放ち、ガランが11の斬撃で迎撃する。ゲルドが斬撃を喰らい鮮血を上げながら、倒れそうになるも踏ん張ってガランに一撃与えて見せた。だが、アーマーだけの彼女にとって大したダメージにはならない。ゲルドは己の渾身の一撃が軽い音をあげたことについ笑ってしまった。


「はは、硬すぎんだろ!」


 背にジムニーの槍が掠る。そして、喰らってから剣をジムニーに振るった。傷だらけな彼はまだ死なない。初めは愉快な相手だと思っていたネームドたちは次第に恐怖を感じ始めていた。


「こいつ狂ってやがる」


 ジムニーが言ってしまった。その感情は伝播する。


「ガランとどめを刺せ!」


 ガランが剣を飛ばす。彼女に腕はない。武器は自身の一定距離を浮遊する武器を操作することで攻撃を繰り出す。ガランの大剣がゲルドの首に迫ったが、身をよじり避けた。だが、剣を持つ右腕が飛ばされる。


「まだ死んでないとは、人間ってのは可能性があるのだな」


 ゲルドは飛ばされた剣を、右手ごと握りこみ、眼前に構える。剣にはまだ腕がぶら下がっている。もうまともに目が機能していないのだ。腕が剣にぶら下がっているなど気が付いていない。


「握りにくいな」


 ゲルドの右手は左手に握りつぶされ、腕が鈍い音を立てて落ちた。そして、咆哮を上げて、最も近い敵であったガランめがけて飛び出した。血は当然止まっていない。彼の通った後に血の道ができる。既に致死量の血が失われているが、当然のように抗ってくる。臓物が見えている。骨が飛び出している。ゾンビと戦っている以上に、理解しがたい何かと、今、対峙している。死んでいるのに生きているのとは違い、死んでいるはずなのに生きている、そんな奴が殺そうと迫ってくるのだ。恐怖を感じないはずの魔物たちが本当の恐怖を味わうこととなる。


「ウェンティーが死んだ・・・俺も今そっちに行くよ」


 ゲルドは感じ取ってしまった。親友の死を。そして賢者は再び雄たけびを上げる。どこからともなく勇気と覚悟が湧いてくる。力が湧いてくるように思う。死ねば親友と久方ぶりの再開が叶う。それなら死というものへの恐怖も一切が無くなってしまうのだ。死ぬことなどもはや歓迎だ。後は何人連れていくか、それだけだ。


 その狂気的な光景にガランは動けなかった。ゲルドの剣がガランに当たる。そして、鎧に沿って滑り落ちた。


「やっぱり硬ぇ。今そっちに行きますよウェンティー。賢者としてよい最期を迎えられそうです」


 ゲルドの顔はやり遂げたようなすがすがしさを感じる良い笑顔のまま、その場に倒れ伏した。だが、目線だけはガランを捕えていた。そして、切っ先もまた彼女に向けられている。


 ゲルドの絶命を見届けたクルシュは異空間を解く。この場にいるものはゲルドよりも強く種族的にも行為の立場だ。だが、そんなものたちの中で弱者たるゲルドが全員を戦慄させた。


 誰も語り継ぐことはない、人間の英傑たる―いや真の賢者ユウシャをそこに見た。語り継がれはしない。この光景を見たのは敵であるネームドであった。だが、生涯忘れられぬ恐怖を刻みつけた。


「ロイス様が人間を求める理由、分かった気がするよ」


「ああ。初めてだ・・・恐ろしかった」


 四人はなんともいえぬ感情を抱いた。形容するには感情が足りないだけなのだが、それでも人間という種族の輝きを確かに示した。


 ロイスの求める輝きをそこに見たのだと四人は疑わなかった。



 ※



 ウェンティーは勇者である自分が嫌いだった。勇者の加護の持つ強制力にウェンティーは打ち勝てなかった。加護はクロウディアの意思である。クロウディアは人間が繁栄することを強く望んだ。それが時代を経るにつれ歪んでいった。人間だけが繁栄すること、それがクロウディアの信条である、というように。これが継承者によって歪められたのか、元からそういうものだったのか、そんなことは知らない。大事なのは、自分が加護に打ち勝てなかったという事実。


 なぜ自分が勇者に選ばれてゲルドが賢者なのだ。ゲルドこそが勇者にふさわしい存在であると、ウェンティーが一番よくわかっていた。心が強く、誰より正しい。自分が世界を守る存在になるというふざけた理想を抱いたのも彼の影響だ。彼はカマキリに捕食される蝶に同情するような優しい心を持っている。


 昔ゲルドと夢について語ったことがある。村の川の畔で二人して座り込んでいた時、ゲルドが急に持ち掛けてきたのだ。子供のころだった。何かの影響を受けてそう言った会話がしたくなったのだろう。今思えば懐かしく、心が痛むほど純粋でいて馬鹿げた話だったと思う。


 ゲルドはこう言った。


 俺はこの村の村長になって、村を国にするんだ!国民全員で鬼ごっこをして、かくれんぼをして、なんともないことで笑いあいたい。


 ウェンティーにこの理想がどれだけ素晴らしい世界なのか、当時は気が付けなかった。だが、なんとなく”良い”と思ったのだ。


 村の外はどうするの?


 とウェンティーは聞いた。純粋な疑問だった。村が国となり、国が幸福に包まれようが、その次は?もちろん世界全てが幸福に包まれなければ、嘘だろう。


「世界を旅してみんなを笑顔にできればいいのにね」


「じゃあそうしようよ」


 この会話の翌月に、二人同時に加護を得てしまった。子どもながらに勇者の加護を手にしたウェンティーはまだ精神が成熟していなかった。加護に負けるのも必然と癒えてしまう。


 人間が、人間だけが、と加護は言う。だが、ウェンティーはそうではない。自分だけが苦しみ他は救われる。自分含めすべてが救われることなどありはしない。だからこそ、ウェンティーのみが苦しむことで世界が救われるならば喜んでその苦行を選ぶ。加護がそれを許しさえすれば。


 だがそれができないのだとすれば何ができるのか。ウェンティーは途方に暮れた。加護に呑まれてからもついてきてくれるゲルドですら無下にし始めた時、一人で悩むことを選んでしまった。ゲルドがこれほど近くで支えてくれていたというのに、ウェンティーはその幸運に気が付かなかった。


 ウェンティーは自分が嫌いだ。本気で嫌いだ。無能な自分が、何もできない自分が、他人のせいにする自分が、親友を蔑ろにする自分が、大嫌いだ。だからこそ、最後にゲルドと隔離されたことに気が付かなかった。だからこそ、勇者の加護を失った。だからこそ、スライムとして死ぬことになった。傑作だ、こんな喜劇を演じた人間は自分以外にいないだろう。


 ウェンティーの人生は常に謝罪の人生であった。ゲルドならば勇者の強制力に打ち勝って見せたはずだ。何故自分が、何故ゲルドが、何故と自分に、世界に問い続ける日々であった。


 感情は摩耗し、笑うこともできなくなり、涙も出ない。死んだように魔物を駆逐するだけ。人間からは称えられず、シドという男に評判でも負ける。ゲルドの忠告を無視し、やったことはすべて裏目に出た。帝国軍に啖呵を切って、特大魔法を放ったものを仕留めると言ったのに、発見すらできずに殺された。聖剣にも見放され、孤独となったとき、久しぶりに涙が出そうになった。そして、またそれが腹立たしかった。泣いてどうなる、泣いている場合でもないのに。感情を取り戻した瞬間に考えるのが、自分のことのなのか―絶望した。人生の終わりに、自分に心底絶望した。


 結局は自分の命を優先しているではないか。何もなせずに死んだ。勇者の加護は自分から何の加護を継承していったのだろうか。きっと大したことのない加護なのだろう。加護に支配された者としては相応しいのかもしれない。


 ―ゲルドが死んだ。


 自分が死んでから何故、それを感じてしまうのか。それはきっと勇者の加護に自分の魂が継承されてしまったからだろう。ぎりぎり、ゲルドの雄姿はもっとも届けたいウェンティーへと届いた。己の傷を顧みず、ただ親友のために闘う姿、感動した。そして、自分が惨めに見えた。戦闘向きではない加護を持ちながら、あの戦力差で全力を出して敵を震撼させたのだ。自分は何をした?何もしていない。早々に諦めて、死を受け入れて、謝罪もせずに終わった。


 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ・・・・。


 最期の仲間、最後まで勇敢に戦って散った最高の親友、別れの言葉すら言えず、ありがとうの一言すら言えなかった。


 やり直したい、やり直したいやり直したいやり直したいやり直したい・・・。


 肉体のないウェンティーに流せる涙はない。出せる声はない。ただ、加護に呑まれ精神が破壊されてしまう前に祈るしかない。


 ゲルドがせめてあの世では親友に恵まれるように、と。ゲルドがせめて来世で幸せな天寿を全うできるように、と。


 悔いを己の中に閉まったまま、自分にはそれを吐露する資格はないし、吐露する口もない。死にたくないなどと、誰が言える?言えない。言ってはいけない。自分は死んで当然のクズなのだ。誰かを慈しむことも傲慢なのだ。


 ただ一つ願うならば、親友にありがとうと伝えたい。それだけが心残りでならない。


 ―精神はそこで加護に呑まれ消えてしまった。もう二度と誰かを慈しむこともできない、ただ加護の一部へと。



 ※



 時は官寮が襲撃された時点までさかのぼる。


 帝国軍中将テレザが指揮する軍隊は現在、少将ジンカに引き継がれていた。肝心の中将は学術国軍のもとに行ってしまった。だが、少将も賢者と同等の脅威度を持つ人類の強者である。よほどのことがなければ同族に負けることはない。


 実際、数が数倍はあろう相手に拮抗した戦争を演じている。ジンカが先陣を切れば戦況は一転し帝国有利になるだろう。それほどの開きがあるのだが、それでもジンカが出ないのは特大魔法を放った存在への警戒、情報封鎖を行った者への警戒、その他もろもろ考慮すべき案件が多すぎるからだ。


 マシなのはこれらすべてが同一人物の仕業であること。最悪なのはこれらが組織立って行動しており、まだ姿を見せない強者が多数存在していること。実際のところは、最悪のケースに直面しているとジンカが直感している。


「ッチガキの下に就いたと思えばこんな役回りか!」


 ジンカは自分よりも年の若い者たちに出世を越され、プライドを捻じ曲げて従っていた。そうでなければ帝国で出世は基より生き残れはしない。自制の効かない人間が優秀なはずもないということだ。


(頼むぞ中将、学術国軍がまだ合流していないからこそ持ちこたえているだけだ)


 中将が加われば学術国が合流したとしても勝てはする。だが、末端兵は殲滅される。英雄級の力があろうと、強化された軍隊とその実力に見劣りしない精鋭である学術国の軍隊が相手では犠牲は覚悟しなくてはならない。この地に残してある帝国秘蔵の兵器も、本国参謀総長の許しがなければ使えない。一台でも動かせれば戦況など思いのままなのだが、使えない。


 学術国を拠点とし、北大陸での発言権を得る。また侵略の一助にすべくこの地を落とされるわけにはいかない。


「右翼もっと前進しろ!」


 ジンカの号令で、右翼が展開し前進を始める。学術国の軍隊が来るまでに有利な地点を確保しなければならない。学術国の軍隊が亡べば必然この拠点は帝国軍と均衡を脅かした何者かの戦地となる。そして、負けるのは帝国。少しでも学術国の軍隊を招き入れたい。


 洗脳で操られている者たちは殲滅するしかない。この期に及んで無血で洗脳を解こうなどという作戦を立てる者はいない。


「左翼、一時戦線を後退させろ!右翼は予備軍をもっと前に出せ!」


 ジンカは右を前に立て左を下げる。左に敵軍が流れ、右翼がその背を突いた。洗練されている、そして個体の強さがあるからこそ混戦状況を突破し右翼が敵軍を包囲できたのだ。見事な指揮により、完璧に敵軍を殲滅して見せた。それでも数万のうち数百を殲滅しただけで、こちらの数十を殺されている。


 洗脳兵は現場の指揮を与えられていないようで、容易に策にはめられる。釣り野伏、包囲殲滅、遊撃軍による戦力削減。面白いくらいに簡単に嵌められる。帝国軍の洗練さとジンカの指揮、そして洗脳兵の動きの単調さ。うまくかみ合っているからこその状況だが、何分数が減らない。


 それに対し、帝国兵は摩耗し始めている。強化された軍が想定していたよりも強いのだ。おそらく、遠隔で管理されている、ような気配を感じた。これは魔力や経験ではなく、ただの勘である。だが、これは当たっていた。


「ッチ、スキルは使いたくねぇが・・・そんなこと言ってられないかもしれないな」


 帝国軍の機密事項、それは人間でありながら帝国国民は加護を持たない、それは最重要機密であり将官レベルでさえ明確に把握している者はない。それほどの機密である、何者かからの庇護を受けているから、というのが理由である。


 加護よりスキルの方が汎用性が効き、強い場合が多い、という判断により加護の対象から外れた。何者かの意思はクロウディアの呪いから逃れさせるほどに強大であるのだ。


 機密の一つを、何者かが見ている前で披露していいものか・・・。ジンカは迷う。そして、中将の結果を待ってから考えるべきだと決断を下した。


「少将!首相に話をつけてきた。とりあえずは安心だ」


 反乱軍の背から、学術国軍を率いたテレザが見えた。そして、大声で報告される。ジンカは見えないように小さく拳を固める。これでひとまずは急場をしのげる。


 帝国にいる家族もやり残したものも立場も、まだ守れるかもしれない。


 摩耗しているのはこちらであり、軍を突破した先に居るのはこの線上で最も強い中将テレザだ。ならば、帝国兵の目的地は決まっている。学術国軍と合流、然る措置を受け、前線に戻ること。ならば、ここは踏ん張り反乱軍を言ってん突破するべきだ。


「最終的に我が軍が残っていれば対抗できるやもしれない。良くも悪くも代えは効かぬ兵たちだ・・・」


 ジンカは損失と、残存する兵の差を吟味する。そして、結論を出す。


「右翼は前線で鋒矢の陣を形成、左翼は第二波の用意!あまりの兵は予備隊として動け!」


 ジンカの号令によって一糸乱れぬ連携の末、完璧な鋒矢の陣を形成した。そして、激しい衝突を始める。反乱軍は衝撃に備えて、衝突地点に兵を終結させた。


「ここに来て指令を与えられたか!―退け!!」


 ジンカは悪態をついた後、最前線にて軍刀を振り抜く。反乱軍の守りを破壊した。逸脱者でさえ突破できないほどの守りをたった一撃で崩壊させて見せた。


 そして、前線を下がる。何者かの奇襲で葬り去られないとも限らないからだ。今ここで少将の価値は高い。決して死んではならないのだ。


「中尉変わります。少将は御下がりください」


 その声に応えた。そして、中尉もまた逸脱者と同じような実力を持つ。反乱軍は明らかに学術国軍との合流を拒んでいる。何かがある、とみるのが妥当だろう。であれば、学術国は味方と見ていい。敵に何かを仕込まれた、まだ死んでほしくない、相手からすれば学術国に対して使い道を見出している、ともとれる。だが、帝国軍との接触は拒まなかった。であれば、ひとまずは考えを保留したらいい。


「第二波、構え!―突貫!!」


 弱まった勢いが、またも反乱軍の守りを突破した。後退した第一波は戦力を温存する。そして、また第一波が第三波として突貫する。それを繰り返し、本体まで目指す。


「ッチ!中将は何をしているんだ!」


 本隊には届かない怒声でジンカが叫ぶ。ジンカの叫びは当然で、本隊はこちらの増援に来ない。それどころか、反乱軍と戦ってすらいない。


「―は?天使・・・だと!?主天使までいるのか!?」


 ジンカは本隊が合流しない理由に気が付き、身を震わせた。


 天使、それはこの世界で三番目に強い種族。知能は低く、魔力量は多い。殺しても意味はなく、いずれ復活する。無差別に破壊をもたらし、幾万人も葬ってきた悪魔に並ぶ厄災。人間では勝てるはずもない天上の強さ。


「いや、ありえないだろ!天使を従えている者がいるってのか!?」


 ありえない、天使が群れるなんてありえない。


 違う。そうではない。天使が標的を選別して動いている。それがあり得ないのだ。天使は知能の低い魔物で、設定されたこと以上ができない。受肉し長い年月を経た後、人格が形成されたのならば納得は行く。だが、この数はおかしい。天使の数、およそ1000。それらすべてが受肉して居なければ辻褄が合わない。だが、学術国兵が対抗できていることを加味すれば、受肉していないことが明白だ。


「もう無理だな・・・」


「少将、もう未来はない。スキルを使うしかない。俺は家族を優先する」


 お前はどうするのだ、と天使の軍勢をほったらかして反乱軍の中まで突入してきたテレザに問われた。


 家族を優先する、機密事項の漏洩によって軍の席を排されようとも構わない、と言っているのだ。


「死力を尽くして戦って見せましょう。特大魔法を放ったのは主天使と見て間違いないはずです」


「ああ。だが、まだ何者かはいるはずだ。敵前逃亡は死罪だが、戦って負けても減給と降格だけで済む。迷う余地はない」


 テレザの言う通り、戦略的撤退であればまだ言い訳できる。学術国の近くに拠点を築く。そして、学術国再建、或いは侵略によって平定する。それが妥協点だ。


 そして、二人が魔力を集中させ、加護とは違う波長の魔力を垂れ流した。その瞬間だった。灼熱の光に視界が包まれ、学術国の首都に天まで続く一本の熱線が伸びた。


「やっべ、間違えた。生きてるよな?」


 と、小声が一瞬聞こえたような気がしたが、それを確かめる術はなく、二人は灰になった。


 ※


 帝国軍が学術国の軍と合流することは想定内であったが、首相が帝国側の要求を受け入れることは想定外であったティオナとシェリンは一瞬困惑した。既に国民にも被害が出始めているこの状況で、最も早く戦争を終わらせる方法は帝国軍の壊滅のハズだった。


 帝国兵の強さ、将官の強さを知らない学術国であれば応じるだろうと考えていたのだ。


 シェリンの思い描いた理想からそれた場合の対処はティオナが考えるべきなのだ。だからこそ、ティオナは考えた。最悪なのは帝国が完全に持ち直し学術国までもが再起すること。


 学術国の再起にはHOMEがかかわらなければならず、帝国も排除しなければならない。で、あるから簡単だ。学術国の主要人物だけを結界で囲い、それ以外を範囲魔法で反乱軍もろとも破壊させる。保険のサリオンを使えば簡単だ。


「”シェリン、サリオンを使うけど問題は?”」


「”ありません”」


 シェリンの承諾も得たことだから、ティオナに迷いわない。そして、伸びをしてから、サリオンに念話を繋ぐ。


「”サリオン、天使の軍勢を派遣して。召喚クラスが何かしようとしたら直接魔法をぶち込んでやりましょう”」


「”了解。首相はどうすんだ?”」


「”結界は主天使にでも任せなさいよ”」


「”へいへい。じゃあ、核撃魔法の準備をするとするさ”」


 サリオンの話を適当に聞き流して、水晶体を見ながらため息を吐く。


「難題だったけど終わりそうね」


 ティオナの発言通り、サリオンの魔法一撃で帝国兵は蒸発することとなる。


 ●


 サリオンの魔法はHOMEでいえば弱い方だ。彼の本領は肉弾戦だから、魔法が使えるだけ良しとすべきなのだ。天使は魔法適性は高いが、悪魔ほどではないし肉体強度に頼った戦闘が得意な傾向にある。


 それでも、威力が弱いというわけではない。通常の国であれば数発の魔法で亡ぼせるし、核撃魔法が討てる守護者も限られているので稀有な存在である。


 帝国兵が学術国と結託したらしいし、シェリンの予想が外れるとは思わなかった。外れたところで、結局は帝国がいなくなったらいいだけだし、学術国も亡ぼしたらいい。最終的にHOMEがこの地に君臨すればいいのだし、殺してはいけないモノだけ生かして核撃魔法を連発してやればいい。


 頭が良くはないサリオンに代案を用意することはできなかったし、シェリンの考えが一番良い結果をもたらすことも理解していたので保険としての役割に不満はない。


「さっきの魔法で生き残るのが4人って、まあ仕方ないよな人間だし」


 特大魔法如きを防げないなんて、と悲観したが、逆にこれだけの威力を相殺できる結界を使える人間がいることの方が異常なのだ。


 人間という種族の脆弱さを加味すればまさに異常であった。敬愛する主君が警戒するだけはあるようで、まだまだ強者が潜んでいると思われる。実際、将官級はネームドと同等の実力を持っているようだし、油断すれば痛手を喰らう。理解するが、守護者にとっては小物同然だ。


「この国の通信はシェリンが封じているし、帝国の通信手段は俺が破壊した。他国もすでに洗脳が完了しているから警戒する必要はない」


 サリオンの仕事はティオナから言伝された通り、生かす必要のない者の殲滅だ。


 幸いなことにすべて一か所に集まっている。核撃魔法一発で仕事が終わる。


 手早く詠唱を済ませて、核撃魔法でありサリオンの得意属性である炎だ。その威力は凄まじい。巨大なクレーターを形成し、空気は数百度まで跳ね上がる。


「”滅却圧縮砲ディストラク・コンバージョンキャノン”」


 サリオンの巨大な手から一国を落とすことのできる炎が繰り出された。









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