第326話 ひとりで寝ると言ったのに

 ホテルの名前はフラッグシップだとか、

 まあそれはどうでもいいのだけれども、

 とにかくゆったり椅子とはいえ五時間の移動は身体が硬くなった。


(今に思えば背中掻き棒は血行を良くするため?)


 幸いにも最上階スイートルームが空いており、

 一番大きな寝室は豪華なハーレム仕様のベッドがひとつ、うん、わかってらっしゃる、

 後は隣りの部屋に普通のキングサイズベッド、キングサイズで普通っていうのも変か。


(これはこれで左右に一人ずつくらいなら、はべらせられる)


 後はベッドが二つの部屋、三つの部屋があり、

 寝室だけを言えばそんな四部屋だ、さあ割り振りどうしよう。


「あれ、フロントでは最大八人って言っていましたが」

「おそらく大きいベッドどちらかの下にでも簡易ベッドが仕込んであるのだろう」

「ああ、スライド式の! もしくは居間のソファーがベッドに変わるとか」


 今のメンバーは六人、ちなみにホテルに入った直後、

 ナスタシアさんの怖い視線に圧されてか、

 シル姉ちゃんはヘレンさんが亜空間に収納しちゃいました。

 

「デレス、どうする」

「んっと一番大きいベッドはニィナさんおひとりで」

「なんだ、一緒ではないのか」「移動の疲労をのびのび癒して下さい」


 僕らと違ってずっと起きてたからね、

 起きるの遅くなっていいからとにかく休んで欲しい。


「なるほど、一人寂しく寝るのが私の今回の罰か、甘んじて受けよう」

「いやいやいや、それとこれとは別ですよ」

「そうか、ではせめて一緒に風呂へ」「まあそれは後程」


 そして隣りの、二番目に大きいベッドは僕で、

 二人用の部屋はクラリスさんとアンジュちゃん、

 三人用の部屋がヘレンさんナスタシアさんの部屋となった。


(それならシル姉ちゃんも眠れたな、って意味ないけど!)


 サモンって睡眠どうしてるんだろう、

 そもそも必要なのか、夜中に召喚して寝てたなんて話は聞かない。

 などと考えていたらニィナさんからリーダーとしてお言葉が。


「明日は午後から別荘へ向かう、それまでは自由行動だ、

 だができるだけ複数で行動するように、午前中ならずっと眠っていても構わない、以上だ」


 うん、フロントにも入るのが遅かったからお昼になるまで居させてくれって言って、

 少し渋られたが黄金の冒険者カードを見せたら即、大丈夫になった、さすが黄金勇者だ。


「じゃねる~おやすみ~」

「アンジュちゃん元から寝てたでしょ!」


 クラリスさんの背中で目を閉じながら言ったので思わず突っ込んだ、

 まあ横になるって意味では正しいけれども、お風呂入らなくていいのかな。


(まあ起きたら入るだろう、ていうかクラリスさんが入れるだろう)


「では私共は後からお風呂に浸からせていただきますわ」

「あっはい、ヘレンさん、ナスタシアさんも、おやすみなさい」

「ではデレス」「はいはい」


 結局こうなっちゃうのか、といった感じでニィナさんとお風呂、

 逞しい肉体美を鑑賞するだけして普通に綺麗になって温まって出た、

 うん、明日の、いや午後の行動に響くといけないからね。


「本来ならベッドへ連れ込みたいがお仕置なら仕方ない、ではな」

「はい、ってこれで消化した気にならないで下さいよ! おやすみなさい」


 といった感じで身体の小さい僕にはもったいない大きさのベッドへ横になる。


(ん~~~、やっとちゃんと眠れる!!)


 ドラゴン便だと熟睡できないからね、

 寝返りも大きく打ち放題、転がり放題だ。


「やっと目的地の別荘かぁ、でもなぁ……」


 天井を見上げる僕、

 オークションで買った時は楽しみだったけど、

 後からニィナ城や屋敷やクラリス城が手に入った事を考えると……


(拠点はいくらでもあった方が良いとはいえ、多すぎかな)


 観に行って気に入らなかったら一か月後のオークションに再出品もある、

 とはいえ海に面していて、ワンチャン、転移魔方陣が外と繋がり易かったら……


「帝国は国としてあまり好きにはなれないけど……」


 でもダンジョンの多さも大陸一だろうし、

 現に差別されても外国人冒険者がたんまり来ている、

 七大魔王のうち帝国に居るふたつを倒しても、まだまだ……


 コン、コン


(あれ、誰だろう)


「どうぞ」

「あのっ、失礼致します」


 お風呂上がり、バスローブ姿のナスタシアさんだ。


「ど、どうしたんですかっ」

「そのっ、私は奴隷ですので、デレス御主人様の、おっ、お慰みをっ」

「いやいやいや、今日は僕はひとりで寝るって」


 あーあ、入ってきちゃった。


「奴隷は人数に加えなくて構わないと思いますっ」

「そ、そういう問題じゃ」

「私、わたしっ、もう、我慢できなくってっ!!」


 ぐいぐい迫ってくるうううっっ!!


「あっ、ナスタシアさん移動中ずっと起きてたんですよね、休まないと」

「する事をしたらちゃんと休みます、割り振られた部屋へ戻っても構いません、ですからっ」

「いやいや、僕も休みたいし」「でしたらデレスご主人様は何もしなくてもっ!」


 やばい、これはまずい、押し切られるっ!!


「デレスご主人様、嫌でしたらどうかこの首輪をお絞め下さい、

 そうすればあきらめます、でも、でも、そうでないのでしたら……」

「うっ……くうっ!!」


 僕は手をかざすも、

 どうしても絞めるまではできなかった、

 そしてそのまま押し倒され……


「あぁ、あああぁぁ……私の愛しい、デレスご主人様ぁ……」


(うん、彼女も立派な、淫乱バーサーカー候補だったよ)


 こういうのも『人が良い』っていうのかな、まあいいや。

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