第10話 回想:僕が生まれてから西の大陸に逃げるまで(後編)通称こどもダンジョン攻略
冒険者ギルドでパーティー脱退手続きをした、
正式には相手側も届け出れば完了らしい、リッコ姉ちゃんか勇者クロウがするだろう、
ついでにギルド内の売買所でアイテムボックスから売れそうなものを売る、
無一文にされたが元パーティーの使ってない、予備で捨てても良さそうな装備を……追放されたんだし。
(あとはポーションも……もう五人分いらないからな)
結果的にプライドソードだけで良かったと思おう、
装備はかなり安く叩かれたが、量がそこそこあるから何とか金貨数毎と銀貨銅貨そこそこになった、
あとは情報だ、勇者を捨てるつもりだが最後の仕事のために、と勇者専用窓口へと向かう、お綺麗なお姉さんだ。
「いらっしゃいませ、クエストを受注なされますか?」
「いえ今日は情報を、エリクサーの情報をください」
「ええっ、エリクサーですか?シャマニース大陸の情報ですか?」
シャマニース大陸とはここミリシタン大陸の南西、
もうちょっと詳しく言うとミリシタン大陸と西のモバーマス大陸の中間にある、
スターリ島から海を南に遠く遠く渡った、人外魔境の大陸で危険極まりない場所だ、
学園で聞いた話だと首席卒業した勇者のパーティーがBランクになったからと精鋭八人で行ったものの、
なんとかなるなると言っていた女僧侶ひとりしか帰ってこなかったそうだ、しかも半狂乱で、魔物の子を身ごもって。
「あそこなら確かにエリクサーの素材がゴロゴロしてそうですが、ここミリシタン大陸で、できれば近くで」
「お待ちください……エリクサー、エリクサー……かなり古い情報なら……あ、ありましたが、えっと」
黄色く変色した紙、でも文字は読めない事はないようだ、
こちらをちらちら見て何か確認している、今更僕の身長を見て『低っく!』とかでも思ってるのかな?
いや、そういえば勇者の冒険者カードをまだ見せていなかったっけ、と見せる。
「ありがとうございます、三十年近く前の情報ですが、ここからドラゴン便二回で行けるナヒタ国の、
辺境のイクタマッキ村近くのダンジョンで素材のレア魔石が取れる可能性があるそうです」
「ほ、本当ですか!」
「あくまで可能性ですね、関連クエストも当時あったようで、ナヒタの冒険者ギルドで聞いてみてください」
お礼のチップ、なけなしの銀貨一枚を渡してギルド裏のテイマー組合へ、
その屋上に行くと首輪と手綱をつけた大きなドラゴンが並ぶ、
勇者のみが使える移動手段、正式名称はドラゴン便だが通称は勇者便だ。
「すみません、パーティー仲間がいなくて僕ひとり、ソロなんですがナヒタまで行きたくて」
勇者便のチケットを渡す、これも奪われなくて良かった、
あと何枚だろう?この大陸だけで使えるやつだ。
「ナヒタ行きならまずカオナン国で降りて、そこからナヒタだな、六時間はかかるぞ」
「ええっ!わ、わかりました、お願いします」
「待ってくれ、あと十一人乗れるからしばらく待ってみるから」
あーこれチップが必要なやつだ、
どのくらい待たされるかわからないし……えーい!
「これで」
「金貨?!わ、わかった、おーい!すぐ出すぞ!」
(あぁ、貴重な金貨一枚が……五人パーティーと三頭ならすぐ飛んでもらえたかも知れないのにぃ!)
いつもと違う一人での移動、寂しいが仕方ないと思いながら六時間空の旅をしカオナン国へ、
ここは歓楽街が有名だが泊まりもせず、それどころか建物の屋上から降りもせずナヒタ行きのドラゴンに乗る。
(この国で初体験でもすれば僕も変わるんだろうか?でもそんな気にはならないな)
リッコ姉ちゃんは女騎士としては背が高くスタイル良い、美人の部類だと思う、
アヴァカーネ伯爵家で良縁が無かった訳じゃないのもメイドの噂とかで聞いている、
それでも僕を選んでくれていた……それを物語の勇者に憧れたばかりに、馬鹿だな僕は、
だってかっこよかったんだもん、どれだけパーティー仲間に言い寄られても魔王を倒すまではと愚直に戦う勇者、
それを健気に支えるヒロインたち、それが当然だと思っていた、でも、当たり前だと思っていた事は、そうじゃなかった。
(言ってくれれば良かったのに……いや、言ってた、うん)
思い返してみればみるほどアプローチだらけだった、
キスを待つ仕草に照れて逃げるのとか冒険談の定番だったからそうした、
色っぽい冗談に恥ずかしがって逃げたり、紳士的に対応したり、それがマニュアルだと勝手に信じ込んでいた。
(もう遅いか、何もかも……いや、ひとつだけ間に合う事が……)
今度は五時間かけてナヒタ国に到着、春なのに雪が残る静かな国だ、
すっかり夜だが冒険者ギルドは夜通し開いているのが普通で、
入ると勇者専用受付にもちゃんと受付嬢がいた、眠そうな田舎娘だ。
「あ”!いらさい”まし、まあ”、め”んごい」
「イクタマッキ村へエリクサーの主材料、レア魔石を取りに行きたいのだけれど」
「ええええええりくさべ?そんなもんあ”ったらごの国が買えま”すべ!」
おかしいな情報源の国のはずなのに。
「三十年くらい前の情報らしいですよ」
「まっでけんろ……あ”あ”、書いてはあ”るべ」
ボロボロの冊子が出てきた、どこから出したのそれ。
「イクタマッキ村にぢいさい”ダンジョンがあ”っでその奥深ぐ深ぐ深ぐにコモモがだぐさんあ”ったらしぃべ」
「コモモってあの小さくて甘くて美味しいけどめったに見つからない、あの貴重な果実?」
「そうべ、ダンジョン奥だかんだ、きっとメタルコモモの魔石のことべ」
以後の話をまとめると、メタルコモモとはダンジョンに群生するタイプのコモモに擬態する魔物で、
色々とんでもなくやっかいだが、超ごくまれに魔石がレア魔石化するらしい、それがエリクサーの材料となる、
ちなみにエリクサーの材料で一番入手困難なのがこれで、次はカイラクオジサンという人型魔物が睡眠中、後頭部から出す枕だ。
「そごで、そんのダンジョンで行方不明んなっだ勇者捜索のグエズドもあ”りんが、うげでみんべ?」
「でもそれ三十年前の話でしょ?」
「あ”っ!!」
ちょっと面白い娘だったのでチップ銀貨二枚はずんで後にし宿を探す、
簡単に空室が見つかり一晩したのち、朝から乗り合い馬車を乗り継いで、丸二日かけてイクタマッキ村についた。
(ここかぁ、何もない……家や畑があるにはあるが、それ以外がない……)
こういう村定番の村長宅を探す、
だいたいのパターンは冒険者ギルドや宿がないと村長宅が代わりになってたりするんだよなぁ。
「コミィ、コミィじゃないのがい?!」
えっ、と振り返ると六十歳過ぎくらいのお婆ちゃんだ。
「すみません、ここへは初めて来たんですが」
「お”や、子供がと思っだら」
「十八歳です!村長さん宅はどちらでしょう」
腕が真っ直ぐ大き目の家を指す、
あくまでこの村での大き目の家だが。
「ありがとうございます」
「まさかその身体、まさか」
「だから十八歳ですってば」
こんな田舎で見知らぬお婆さんにまで身長をいじられるとはは…
ちょっとトボトボしながら村長さんの家へ、まったく新しい来客は久しぶりらしい。
「どぐんだでぎがべ(よくやってきたね)」
このおじいちゃん方言がよりきついので情報をまとめると、この村から離れた先に深い森がありその中に小さなダンジョンがあるらしい、
その名も『こどもダンジョン』小さいといっても深さはわからない、何が小さいかというと入り口や内部構造で、
子供でないと入って戦えないような狭さらしい、その奥に野生のコモモが群生しているとわかったのが三十年前。
当時、神童と呼ばれる勇者がいて十歳にして大人顔負けの力を持ち、その子が唯一、そのダンジョンに出入りしていたらしく、
両腕いっぱい分のコモモを持ち帰ってそれでわかったらしい、でも何十回目(『な”ずんっがい”め”』と言っていたので七十回目かも)に入ったっきり、
二度と帰って来なかった……。
一応、冒険者ギルドにお願いするも調査もままならず、何か月か経った後に一度だけドワーフの調査団に入ってもらったが、
虫系モンスターが強くて狭さ的にもソロかせいぜい縦に並んだペアでしか戦えないらしい、
捜索を子供もしくは小さい亜人の勇者にお願いしようと当時の村と勇者のお母さんがお金を出し合って、
クエストとして発注したのが当時、三十年前の話である、お金はもうすでの渡してあるのでいまだに依頼が残っているようだ、
メタルコモモが居るかどうかはわからないらしい、コモモがたくさん生えているからメタルコモモもいるかも、って推測だけなのかも知れない、
当時のその勇者があまりにも強すぎたため、その子を倒すモンスターがいるならボスかメタルコモモくらいだろうという憶測である。
(これ、メタルコモモに関しては、勇者をおびき寄せるための罠というか餌というかデマなんじゃ)
魔王が居るレベルのダンジョンの奥深く、とても危険な場所に果物としてのコモモは群生し、
確かにそこでエリクサーの主材料、レア魔石をごくごく物凄くまれに出すメタルコモモが紛れて生息しているのは資料で残っている、
でもこんな超田舎にそんな魔王レベルが、と思ったがダンジョンから危険な昆虫系モンスターが溢れているようで困っていて、
近い村はいくつか放棄され、この村もそれが一因で過疎っているらしい、もちろん田舎の過疎はそうでなくても普通にある事だけれども。
「ごごぎどま”っで”い”ぐどい”い”(ここに泊まっていくといい)」
馬車の疲れもあって村長宅の今は街で暮らしている息子さんの部屋を借りて寝泊まりする事となった、
お世話をしてくれたのは村長の奥さんと、奥に村長宅を教えてくれたお婆さん、入ったっきりの勇者のお母さんだそうだ。
「ひよっとじで、身体がおおぎぐなっでしまって、出られんで中で住んでるのかも?と思ってんべ」
三十年経ってもそういう希望を持ってるのはやはり母親なのだろう、
翌朝、さっそくその子供ダンジョンに向かった、虫系モンスターはウザいし見た目も嫌だけど、
ひとりになった僕は今までの五倍の力が出せる、正確に言うと本来の力に戻ったというか。
勇者にはそれぞれ生まれた時にその勇者特有の個人スキルというのがあり、これは他言無用が鉄則だ、
最初に勇者と鑑定する教会の人も、個人スキルまで読み取れるのはよほどの高レベルであり、
また、わかってても本人にしか言ってはいけない規則だ、ただでさえ勇者というだけで僕みたいにお金で売り買いされる事があるのに、
それが物凄く有能なレアスキルだとわかるとさらに酷い奪い合いになるし、危険なレアスキルだと早めに潰そうと殺されかねない。
僕のレアスキルは学園に行ってから初めて知った、王都の教会で司教様から告げられたレアスキルは『全能力超向上』という恐ろしいレアだったらしい、
でも元々の基礎能力がとても低く、アヴァカーネ伯爵家でリッコお姉ちゃんやフラウ先生に鍛えてもらったのとそのレアスキルのおかげでやっと、
ようやく普通より少し上の力になっていたらしい、この個人レアスキルが無かったら冒険者になったとしてもとても生きていけないと、
それを聞いて自分を鍛え、首席ではないがちゃんと卒業できた、ただこのスキル、やっかいなのがパーティーを組むと力が分散してしまう事、
だから冒険者になった時、五人パーティーだったため能力も成長力も、個々は本来のスキルパワーの五分の一になる、それでも仲間はすくすく強くなっていった。
勇者はもともと成長しにくい特殊クラスなので僕はどうしてもその成長に後れを取った、仕方ない事なのに……
でも、あのクロウとかいう僕のハーレムを乗っ取った勇者は一年半でAランクに上がれたという事は、ひょっとしたら、
僕と同じ個人スキルの持ち主かも知れない、あいつが居たとされるエクセレントワールドというパーティーは入れ替わりが激しいらしく、
それは性格によるものだったり普通にあいつ以外全滅したりと色々だったらしいが、ひょっとしたらソロで狩るのがメインなのかも知れない。
(それであの強さなら、僕だって単騎なら、一年半で……!)
廃村に巣食う蜂系やら甲虫系やらナメクジ系やらのモンスターを一人で倒すとやはり動きの切れが違う、
全ての能力や成長力が解放されたような気分だ、これで持っているのがプライドソードだったらどんなに良かったものか、
かわりに買った銅の剣も悪くはないが、まだしっくりこないというか、いや剣に罪は無い、と自分に言い聞かせた。
廃屋まで回って綺麗に魔物を一掃すると村長から預かった聖なる魔石を設置する、広い範囲ではないが屋敷一軒分ならこれで安全地帯だ、
かつての村長宅だったらしき廃屋に設置してここをダンジョン攻略の休憩地点にした、そしていよいよダンジョンへ。
(……ほんとうに小さいな、子供サイズだ)
僕でも入るのを躊躇するような狭く小さいダンジョンの入り口、蟻系モンスターが出入りしている
さっきの休憩地点で装備をダンジョン用にしたため鎧が厚く入りにくい、剣を小さいミスリルナイフにして良かった、
試しにと入り口付近のジャイアントアント(小動物くらいの大きさのアリ)を倒し、勇者の初期魔法ライトを灯してダンジョンに入る、
中も狭い、大人の普通の大きさなら途中で詰まりそうだ、僕なら何とか、まあ。
(うっわ、アーマームカデだ!)
こうしてダンジョンの攻略をはじめた僕、最初のうちはマッピングにいそしみ、
はじめのうちは終わるたびに村まで戻っていたが時間が惜しいのと村長さんに常時迷惑はかけられないため、
廃村に作った休憩地帯で寝泊まりする事が多くなった、井戸も掃除して使えるようにしたよ!
そうこうしているうちに一か月が過ぎ素材を売りに馬車で二日かかる冒険者ギルドへ戻るといきなりびっくりする事になる。
「おめでとうございます、今回の魔石買い取りと到達レベルにより、デレスさんは冒険者Cランクになります!」
受付嬢が長身美人で標準語をしゃべったあああああああああああ!!!
いやいや前回の田舎娘は普通に休みらしい、うん、通常の休み、家でリンゴでも食べてそう。
「本来ならソロの方は昇進試験があるのですが、
デレス様はデレスフライヤーズに在籍していた頃の実績がすでに昇進基準に達しておりますので……冒険者カードを書き換えますね」
「あの、僕ってデレスフライヤーズちゃんと抜けてます?」
「はい、デレス様ご本人、そして残ったパーティーのリーダー様からもちゃんと手続きがされております」
あーリッコ姉ちゃん……わかっててもちょっと寂しい。
「凄いですね十八歳でレベル四十!でも命は大切にしてくださいね」
「はい、昆虫系モンスターは魔石は品質良くは無いですがレベル上げるための経験値は高いので」
「それでもあれだけの数の魔石でしたら本当に助かります、冬が長く寒さが強いこの国では魔石は大量消費しますから、
ところで正式にクエストを受けていただけるという事ですが」
「はい、三十年前に出された勇者の捜索、あれを受けます」
名前はやはりコミィという、あのお婆さん、母親が言ってた通りだ、
十歳で行方不明ということは当時お母さんが三十歳としても今は六十歳、うん、あってる、
捜索なので当然、遺体の一部でもいいし、装備品か何か持ち帰っただけでも依頼者が納得ならクエストクリアになるらしい。
「ついでに他の依頼も受けてみませんか?この街ですと八つほど……」
「いえ、今はこのクエストに集中したいので」
「そちらのダンジョンの情報もお願いしますね」
その夜、宿でそれまでの、一か月分の情報をまとめて書いた、
地下五階まで攻略した詳細マップ、モンスター分布図、まだコモモは見つけていない事、
宝箱はファイアーロッドがあったくらいであとは大したものは無し、
まあ僕以外にあそこを攻略しようという物好きはいないだろうが、クエストやってる感はある、
依頼主と顔見知りになったからそこまで気を遣わなくていいかも知れないが、冒険者としての作法は忘れてはいけない。
そして次の日の朝、途中経過の報告書を届けに冒険者ギルドへ行くと、勇者専用受付には……!
「いらさい”ましぃー、あ”あ”、め”んごいゆうぢゃさまあ”!」
いたああああああああああ!!!!
などという事がありつつダンジョン攻略三か月が過ぎ、地下二十一階で僕はついに見つけてしまった。
「コモモだ……」
思わず声がでた、壁いっぱいのコモモ……手を出そうとするが躊躇する、
群生地の中を良く見る……アイテムボックスから銅の剣を出し、左手に持ち身構えながらガサガサと探す、
うん、大丈夫だ、文献だとうかつに手を出してメタルコモモが飛んできて手に穴を空けられたって話が載っていた。
「大丈夫かな?ひとつ食べてみよう……うん、おいしい!なにこれ、おいしすぎる!!」
高級食材でどこかの国では国王の生誕祭パーティーでふるまわれたりするレベルの果実らしく、本当においしい!
うん、これだけおいしいと夢中になってる間にメタルコモモに心臓貫かれてもおかしくはない。
「よし、これを売って、あれを買おう!」
用心しつつこのフロアのコモモをあさる、あさる、あさる、
メタルコモモ自体このダンジョンに居ない可能性も十分あるが、
油断はできない、もし飛んできたら避けるか右手のミスリルナイフで……
アイテムボックスにバカスカ入れる、全部取り尽くすと実が生らなくなるらしいのである程度は残す、
メタルコモモは腐ったコモモに擬態してるからそれさえ気を付ければ……うん、これでひと財産だ。
アイテムボックス内は腐らないのを良い事に下の階も含め連日取り続け、
村で村長さん夫婦やコミィのお婆さん、他の村人にもふるまったのち、攻略四か月目の冒険者ギルドへ。
「キャシーさーん!」
「めんごいゆうぢゃデレスさあ”あ”あ”ん!!」
すっかり田舎娘との関係はこれである、なお恋愛感情はお互い無い模様。
「はいお土産」
「ごれは!コモモごんなにい”!!」
「それで沢山仕入れてきたんだ、売れるかな」
「そりゃあ”、も”う”!!」
「生ものだからそんなに高くなくても、あ、今キャシーさんに渡した分はキャシーさんが食べる分ね」
季節が夏だったせいか爆売れで金貨何枚にもなった、隔週で届けに来るのも悪くないなと思ったが、
あまりに大量入荷が続くと値段が崩れる可能性があるからと言われ今まで通り月一で来る事になったが、
買いたい人の予約は受け付けるので死なないでくださいねと笑顔で例のなまり言葉で言われた、うん、生きよう。
夏は虫系モンスターも活発で大変だけどレベルが上がる上がる、四十八にまでなった、
僕の個人レアスキル、全能力向上ということは経験が溜まる量も向上していて、ソロだとその威力は恐ろしい程だ。
そして攻略五か月半、地下二十八階、ついに出会ってしまった。
(あーこのあたりは湿気が多いからかな、半分以上くさったコモモが多い)
とはいえ熟れたコモモはそれはそれで美味しい、
さすがに『ちょっとくらい腐ってる方がおいしい』というような果実ではないが、
果実スープに入れたら最高のデザートだろう、どもこのまま口に入れるのも……
ガインッ!!!
「いでえっっ!!」
脇腹に強烈な痛みを感じた!
と同時に銀色の腐ったコモモがダンジョンの奥へ飛び去って行く!
見ると鎧に穴が、貫通はしていないが、さっきのコモモの仕業で鎧の内側が鋭く突起して僕の肉に刺さってる!
「やられた!あれがメタルコモモか!!」
先日、五か月目に街でミスリル装備を買っておいてよかった、
ミスリルの鎧じゃなければ貫通して横から貫通していただろう、
治癒ポーションを今飲むと刺さったまま傷口が塞がるので体力回復ポーションを飲みながら地上へ……
(……痛い、油断しきってた、こうやって冒険者は死ぬのか……)
ふらふらになりながら何とか外へ出ると血がダラダラ流れている、
鎧を脱ぐ時に肉が裂けたが我慢し治癒ポーションで傷口を塞ぐ、
横になって休みたいがまだここは魔物がくる、
血の匂いを嗅いだら普通にフォレストウルフが襲ってくるだろう、
予備の以前使っていた普通の鎧に着替えて廃村の休憩地点へ……と、着いたとともに丸二日眠った。
「よし、準備万態だ」
攻略半年、僕はコモモで稼いだ大金を使って『ミスリルアーマー強度プラス』を特注で作ってもらった、
ミスリルヘルムも同じだ、ちゃんと首も守るから入り込まれる事はない、あとブーツも。
田舎娘受付嬢キャシーさんもかっこいいと褒めてくれたこの装備でいざメタルコモモ狩りへ、と思ったが動きにくい、
強度全振りなら当たり前か、と地下二十一階までは普通の装備で行き、コモモが生えているエリアから装着する事になった、
慎重に、慎重に気配を感じながらコモモを狩る、全部腐ってなくてもどこに潜んでいるかわからない、現にやられた時、まったく気付かなかった。
(……次が二十八階だ)
壁から水が湧き出る、湿気がこもったエリアで腐った半分コモモが群生している、
まったく無事なのも多いがそれを回収するのは悪手だ、ここではメタルコモモにだけ集中しよう。
(……どれかまったくわからない)
こうなったらエイッ、とミスリルナイフで灰色のコモモを刺してみるが手ごたえはない、普通の腐ったコモモだった、
全部蹴り潰してやろうとミスリルブーツを履いた足を上げようとしたが隙間から入られたら大惨事だ、
と慎重にひとつひとつ確認するも、この階でメタルコモモは見つからなかった。
(前に居たから今も居るはずなんだけどなあ)
きっと僕では入れない隙間にでもいるんだろうか?
見つからないのは仕方ない、と二十九階へ降りると小さな滝があり、
その近くに腐ったコモモばかりが生えていた、あそこに一匹くらいは……
ボコボコボコボコボゴォ!!!
「グギャギュギャギャ~~~~!!」
わけのわからない嗚咽のような低い悲鳴が僕から出る!
見つけた所から八匹くらいのメタルコモモがぶっ飛んできて僕の身体に当たっては散るように飛んで行った!
あんなに沢山、こっちに……強化ミスリル装備とはいえ内側にボコボコ突起ができてて痛い!
前ほど鋭い突起ではないがコブくらいか、あ、一匹近くに止まってる!僕は渾身の力を振り絞りミスリルナイフで突き刺す!
バババババ……
あざ笑うかのように避けて飛んで行った、素早い、素早すぎる、こんなのに勝てるのか?
僕は本当にメタルコモモからレア魔石を入手して、エリクサーを手にできるのだろうか?
まだもうひとつ手間のかかる材料も残っているというのに……
期限は遅くともあと半年、半年以内でなんとかしないと、しないと……
「早くしないとリッコのお兄さんが、アヴァカーネ伯爵家があぁぁ……」
次回、回想 終編。
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