第11話 回想:僕が生まれてから西の大陸に逃げるまで(終編)ミリシタン大陸、脱出!

 ガッキィーーーン!!


「うわっ、ミスリルナイフが!」


 バババババ……


 メタルコモモが僕に向かってきた所をカウンターで斬りに行った、

 最高のタイミングでの迎え撃ち、まともに刃が当たったのは今回が初めてだったのだが、

 傷一つ付いてなさそうな感じで逃げて行った、少しでもふらついていれば希望はあったのだが。

 僕はレベル45になった所で速度が上がる勇者魔法ラピットペースを取得していたのに、

 それでも相手がそれ以上に素早すぎて、なおかつ硬すぎた。


(ぐんにゃりしてる、これ、曲がってる!)


 さすがミスリル、折れるんじゃなく曲がる所が強度を物語っている、のかな?

 このダンジョンを攻略しはじめて七か月少し、初めての手応えは絶望的なものだった、

 だが、僕にはまだ、買ったばかりの奥の手がある!


「やっぱりこれの出番か」


 冒険者ギルドでメタルコモモの情報をさらに集めてもらった、

 最初から予測していて試してもいなかったがまず魔法は効かない、

 ということは当然、燃やしても凍らしても煙で燻っても効かない、当たり前だがティムもできない、

 体内に魔石を持ったまま死ぬと魔石も一緒に崩れ消えるので寿命を待っても回収は不能、

 勇者の持つプライドソードを最高のタイミングで突くしか倒す方法は見つかっていない。


(プライドソードが無い僕の秘密兵器は、これだ!)


 アイテムボックスから取り出したのはミスリルレイピアの特注品で、

 先端にプライドソードと同じオリハルコンが仕込んである、突き刺すだけならこれでいい、

 ただ、突く専門の武器であるレイピアが小さくて硬いメタルコモモを仕留める確率は……


「うん、奇跡にかけよう!」


 二十九階の滝、前にはじめて複数のメタルコモモに出会った場所だが、

 あまりに僕がやってくるのでさすがにあんな無防備な状況はなくなった、

 僕はレイピアの練習に、と手始めに見つけた蜂形モンスターを刺す、うん、問題ない、

 頭部を的確にひと突きできた、この頭部がメタルコモモと同じくらいの大きさだから、

 あとはこっちが先に見つけて躊躇なく刺せるかどうかだ、間違えて普通の腐ったコモモを刺した直後に脇から来られたら……


(あれからミスリルアーマーも強化したけど、もって何回だろう?)


 蜂の魔石を拾いながら考える、いかにこの階より上でコモモをもぎって売ってもまた生えるのに時間もかかるし、

 群生していた物はかなり乱獲し、二十一階から二十七階まではもうこれ以上取らない方が良いってくらいまで収穫した、

 そのせいかメタルコモモはもうその階では見なくなった、あとはリスクを冒してもっともっと下の階へ……


「そこだ!!!」


 三十二階、僕はピンと来て目に入った灰色のコモモを突く!

 でもそれは普通の腐ったコモモで虚しく壁にレイピアが突き刺さる……

 無駄じゃない、これを何百回何千回と繰り返せば!と連日地味にやり続ける、

 もうすぐ早めの冬が来る、昆虫系モンスターの動きが鈍る時期だ、

 そうなるとメタルコモモも少しは見つけやすくなるかも?


(そういう淡い期待でも持ってないと、やってられないよな)


 そうして八か月目を過ぎ、いつものようにダンジョンを潜ったある日の三十三階で……


「ていっ!」


 向かってきたハエ型モンスターを二匹同時に突く!

 前後並んで重なった所をタイミング見て上手く突けた!

 と思ったらそのままレイピアの先が勢い余って壁に激突する!


 ゴリッ!!


(ん?何だこの手応えは?!)


 見るとにレイピアに刺さったコモモの葉、

 その裏にメタルコモモの姿が!貫いてる!!

 足をバタバタさせたのちボロボロと崩れ床に落ちる、砕かれた魔石と一緒に……


「あーこれは駄目だ」


 はじめてメタルコモモを倒した喜びより落胆の方が大きい、

 あの小さな虫を貫くということは中の魔石も砕いてしまうという事だ、

 そうなると回収不可能、でもレア魔石って他より硬いんじゃ?と思ったがそれだと虫の身体が貫けない。


(あーこれは詰んだかも、でも入手した人はいたはず、どうやったんだろう?)


 プライドソードでやれば砕かれないって事はないだろう、

 このレイピアの先端は同じ材質オリハルコンだ、じゃああとはテクニックか?

 刺すんじゃなく斬るならっていう、でも成功例の資料だと突き刺したって書いてあったし……


「あれ?こ、これなんだ??」


 ふとあたりを見ると急に魔物、モンスターの小さな気配を感じるようになった、

 あの葉の裏にいる、と思いめくると蜂型モンスターの子供である芋虫がいたので刺した、

 他にも先に曲がった通路に何か居るのを感じる、これはもしかして、いや、間違いなく!


(勇者レベル50スキルの、索敵能力だ!)


 レベルは、特に勇者は49から50に上がるのが最初にして最大の大きな壁と言われている、

 とにかく上がりにくい、必要な経験値が48から49に上がるのの三倍以上らしいからと言われている、

 にもかかわらずこんなに簡単にレベルが上がったのはやはり、メタルコモモを倒したからだろう!


「良かった、これで先が見える!」


 索敵スキルを手に入れると効率が一気に良くなる、

 敵の場所がわかれば当然だ、そうなるとさっき倒せたような偶然が偶然ではなくなる、

 あとはメタルコモモをひたすら倒し続けて、運よくレア魔石に巡り合える事ができれば!!


(待っててください、イリオン兄さん!)


 

 その後、僕はメタルコモモが隠れている場所が瞬時にわかるようになったため突いて突いて突きまくった、

 だがいつも魔石ごと貫いてしまうため何も残らない、でもそれは物理的な話で経験値は恐ろしい程に上がっていった、

 気が付けばレベル55の勇者魔法バウンドアタックも覚えた、これは敵との間で空気衝突のようなものを起こす魔法で、

 強い力で相手を弾くが同じ力がこちらにも来る、だから狭い場所では使えない、逆に広い場所なら間合いを取ったり逃げるのに便利だ。

 そうこうしているうちにこの通称こどもダンジョンに潜ってから八か月半が過ぎ、雪もざんざか積もるようになった。


「ふう、寒いな」


 ダンジョンから廃村やイクタマッキ村への長い道は、

 いままでさんざん入手した魔石に火魔法を入れてもらったのを等間隔で置いてあり、

 それが雪を溶かしてくれていて濡れてぬかるんではいるものの、ちゃんと行き来はできる、

 さらにありがたい事にナヒタの街までの乗り合い馬車も、雪で倍以上の時間がかかるため冒険者ギルドが月一回、

 臨時で僕専用の勇者便を出してくれる事になった、ドラゴンは高価で操り手も雇えなかったため今までは持っていなかったらしい。


(そりゃあ、あれだけ大量に魔石やコモモ売ったりしてたら潤うよな)

 

 すっかりコモモの名産地として有名になったが『今だけですよ』と強調する事を忘れないように釘を刺した、

 僕は一生ここに住むつもりはないし、むしろ早くこの大陸から脱出したい、

 受付嬢の田舎娘キャシーさんと幸せな家庭を築く未来とか人生二百回目のターンとかなら無くはないが、今はお断りだ。


「ここもすっかり我が家だなあ」


 廃村に戻ってきて住まわせてもらっている逃げた村長宅で横になる、

 ここもお金が儲かってきて自分で少しずつ修繕してきたが、愛着すら湧いてきた、

 いつかダンジョンが制覇され魔物の住域も引いてくれれば、ここに人が帰ってくる日も来るかも知れない。


(ダンジョン制覇、かあ)



 そして運命の日はもうすぐ九か月目になろうかという日に訪れた。


「でいっ!!」


 今回もメタルコモモの中心を突き切ったため中の魔石も砕いてしまう、

 ひょっとしたらレア魔石もすでに何度か砕いてしまってるんじゃないかと疑う、

 溜め入り混じりに三十七階に降りた先、ふいに目の前からメタルコモモがまっすぐ飛んできた!


 ババババババ!!


「うおおっっ!」


 間一髪、レイピアが間に合って突く!

 するとメタルコモモの表皮がひび割れるように剥がれ落ち、

 カランカランと硬いものが壁にぶつかって床に落ちた!これは……この透明なクリスタルは……!!


「やったあああああああああああああ!!!!!」


 僕は狭い通路で飛び跳ねて喜ぶ!

 拾い上げた魔石は今まで見た事のないくらい綺麗でキラキラしていた!


「ねんがんの、レアませきをてにいれたぞーーーー!!」


 そうか、飛んでる空中で倒せばよかったのか!

 難易度高すぎてよほどの達人じゃなきゃ無理だしそもそも運頼みだ、

 狭く急な階段を下りるのに夢中で索敵に気が付いてなかったが、それが逆に良かったのかも?


「やっと、やっとだ、あともう一つ難しい素材があるけど、でも、やっと、やっと……!!」


 涙が出そうにあるが、まだ途中だという事を思い出してぐっとこらえる。


(さあ、出よう)



 久々のイクタマッキ村、ウキウキ気分で村長宅へ、

 物が物だけにレア魔石を手に入れましたとは言葉に出せないが雰囲気でわかってくれてるみたいだ、

 丁度あと二日で勇者便が来てくれるタイミング、僕はご機嫌でコモモジュースを飲んでいた、解放感でいっぱいだ。


「あの、よろじいでじょうが」


 ジュースを持ってきたお婆ちゃん、少し悲しげな表情、お別れを悟ったのかな?


「息子は……コミィの手掛がりは、ありまじたでじょうか」

「あ!その……まだですね、ごめんなさい」

「そうでずか……」


 忘れてた、なんて言えない、いやもちろん見かけたら言うよ!

 でも三十年前の死体なんて場所が場所だけに風化して粉になっててもおかしくはない、

 普通に骨を喰うような魔物だっているだろうし、でもまあ装備くらいは……

 寂しげなお婆さんの背中を見て、申し訳ない気持ちが湧いてくる、

 この村にはとても世話になった、これ以上魔物がダンジョンから出てこないようにするには攻略するしかないが……


(見るだけ見るか)


 僕みたいなサイズの大人はドワーフくらいしか居ないから次に入る人なんていそうもない、

 過疎ってるイクタマッキ村にまた神童勇者が生まれるとは考えられないし、

 遠い土地からエリクサー目当てに来るにしても可能性が絶望的すぎる、

 でも材料が出ることが確定したのだからひょっとしたら死を覚悟で来るミニマム勇者がいるかも知れない、

 そんな時のために情報を仕入れて報告するのは悪い事じゃない、もう一日だけ、マッピングのために潜ろう。


 ここでも最後の恩返しを、と翌朝出発しまず廃村の村長宅で後片付けをする、

 余った魔力入り魔石は置いておこう、いつかまた誰かが使うかも知れない、

 そうしてこどもダンジョンへ、これが最後かもしれないと思うと感慨深い。

 道中、コモモを遠慮なく刈り取っていく、索敵能力がある僕はメタルコモモの心配はもういらない、

 いた所で慣れた作業で潰すだけだ、このままここをコモモの繁殖地として残しても仕方なさそうだが一応、最低限はもがないでおこう。


 各階でアイテムボックスにどんどこどんどこコモモを入れて大金貨何枚になるかなーとか思いつつ、

 念願成就した三十八階まででメタルコモモは四匹倒せた、本気で探してないけどまだまだ居るものだ、

 あとはマッピング作業、ここまでも死体の見落としはないか探したが浅い階に獣のがあったくらいで人はまだない。

 三十九階、新たな階に緊張する、やたらメタルコモモの気配を感じるからだ、前みたいな八匹程度ならまだいいが、

 勇者スキルが二十匹以上居るのを察知している、これが一斉に来られたらさすがに死ぬ、よし、ここは必殺の……


「勇者魔法、グレイトインストーム!」


 様々な属性を全て少しずつ混ぜて起こす煙魔法だ、

 レベル60で習得したが、いぶす分には良いだろう、メタルコモモはほとんど逃げていった、

 残った二匹を普通に突き倒す、そして逃げたのも一匹一匹潰す、バラなら余裕だ、マッピングとコモモ収集しながら……


(お、階段だ、でも下の方が崩れてる)


 今度はちゃんと索敵する、降りた先に凄く大きな反応、ボスか!

 そして崩れ方をよく見ると、学園の懐かしいワンシーンを思い出した、

 テイマー闘技場の降りる階段が崩れているのを見て僕の元婚約者、テイマーのハービィが、

 猫獣人にしてSランクテイマーのミャオニャン先生(女教師)に質問した時の事だ。


「せんせっ!なんであそこだけ崩れてるのっ?」

「あれはね、ウィングウルフが風魔法を撃った跡よ」

「あんなに崩れるんだっ!」

「不自然に低い場所が崩れてたら、モンスターの魔法を疑ってね、鳴いて魔法を撃つモンスターは結構いるから」

「はーいっ!デレスも気を付けようねっ!」


 ひょっとしたら、あそこに降りた瞬間に魔法が飛んでくるのかも知れない、

 でもボス部屋は大きな扉があるはずだ、例外はない、はず、そして敵の反応はそのひとつのみ、距離もかなりある、

 そうなるとあとは物理的な罠かも知れない、とアイテムボックスから魔石を出して落としてみるが反応はない。


(覗くだけ覗いてみよう)


 いつでも逃げられるように慎重になりながら階段を下りると最後はすべり落ちた、

 うん、ボス扉だ、このフロアはさすがに他より天井が高くて広い、それでも他のダンジョンよりもは小さいが。

 そして見つけてしまった、扉の前に横たわる、小さな鎧とその中のボロボロの骨を……


「彼か」


 思わずそうつぶやいてしまった、

 かなり離れた隅に兜が頭蓋骨入りで転がっていた、

 三十年間で移動したにしては不自然だ、昆虫系魔物が動かすにしても、おかしい。


(扉を開けたら首を刎ねられたパターンかな)


 僕は遺体まで戻り埃まみれのプライドソードを手にする、

 うん、とりあえず証拠としてはこれでいいだろう、

 死体の回収は……そこまであのお母さんが望むかどうかだな、どうしよう、

 このままにしておいて欲しかったなんて言われたくはないし、

 ダンジョンで亡くなった冒険者はそのダンジョンが墓標、って事でそのままにしておく様式美もある。


「……とにかく帰ろう」


 ダンジョンが四十階までっていう情報でもう終わりにしてもいいだろう、

 僕はプライドソードをアイテムボックスに入れると崩れた階段をよじ登って帰ったのだった。



 イクタマッキ村で村長さんに明日朝の勇者便で帰るかも知れない、

 これが最後の夜かも知れないというと宴会を開いてくれた、

 お婆さんにはまだ言っていない、クエストなんだからギルドに先に言ってプライドソードを渡さないといけないからだ、

 あとでちゃんと説明が行ってプライドソードも渡される事だろう、

 そして宴会も終わりにかかり、村長さんから衝撃的な言葉が発せられた。


「ぐだごごがびぎぐんげ(村を終わりにすんべ)」


 あのダンジョンが強い限りまわりの魔物がじわじわ押し寄せてきていて、

 この村が呑みこまれるのも時間の問題らしい、と、ちらっちらっと僕を見る、

 そうですかダンジョン討伐して欲しいんですか命がけなんですよこっちは、という気分だがお世話になった恩は返したい。

 翌朝、颯爽とティムされたスノードラゴンがやってきた、大雪が降ってても構わず飛んでくれるタイプ、高いはずだ、

 勇者便のチケットはしっかり払わされてたった四時間でナヒタの街へ、みんな大好き田舎娘嬢が勇者専用受付で、笑顔で迎えてくれた。


「デレスさあ”あ”あ”ーーー」

「はい今日はまじめな話だから」

「あっハイ、いかがなされましたか?」


 ささっと後ろに居た標準語の美人受付嬢と入れ替わる、

 その後ろからむくれた顔で覗きこむキャシーさん、かわいい、

 なんてしてる場合じゃない、とクエスト完了の報告ということでプライドソードをアイテムボックスから渡した。


「そうですか、やはり……」

「詳細は報告書に書いてあります、あとその……」


 こっそりレア魔石をゲットした事を告げると二人は驚愕する、

 キャシーさんは両手で口を覆って目をパチクリさせていた。


「他の材料をこれから手に入れたいのですが、一番近いカイラクオジサンの発生場所はどこですか?」

「しばらくお待ちくださいね、ええっと……物理的ではなく時間的に近いのは、カオナン国の城塞ダンジョンですね」

「わかりました、それでエリクサーの精製は……」

「こちらよりカオナン国でやった方が早いですね、他の材料も買うなら手配してもらった方が、莫大なお金はかかりますが」

「それでも主要ふたつの材料に比べたら買えるだけマシです、それに僕にはお金はたくさん……あ、コモモいつもより多いです!」


 いつもは冒険者ギルドに下ろすコモモも今回ばかりは多すぎるということで商業ギルドにも半分、直接買ってもらった、

 何せお金が入り用だからだ、最後かもしれないですよって言ったら悲しそうな顔をされたが仕方がない、

 そして手に入れた大金貨がたくさん、でもこれもすぐ無くなっちゃうんだよなあ……

 キャシーさんに夕食(おそらくアフターあり)を誘われたが泣く泣く?断ってギルマスの手紙を持ち勇者便へ、

 そう、あの標準語のお姉さん、エミリと言って実は冒険者ギルドのマスターだった!なんて新事実を胸にいざカオナンへ。


(……行きと同じ五時間かかったな、もう日が沈んでる)


 ここは深い深い二百階あるダンジョンの上に建てられた城塞都市だ、

 人工的に作られたため産業はダンジョンと、その上の歓楽街だがそこに用はない、

 冒険者ギルドもなんだかそういうお店の待合所みたいな雰囲気だ、いや知らないけど。

 さすがダンジョン目的の国、夜なのに冒険者受付は三パーティーくらい並んでる。


「あら小さなお兄さん」


 妖艶な女性冒険者に声をかけられた、

 杖からして魔法使いなんだろうけど僕の元婚約者ミジューキと違い、下品さしか感じない。


「今日は成果が無くてね、ちょっと懐が寂しいの、どう?」

「遠慮します、子供相手に見苦しいですよ」

「ちっ!ママのおっぱいでも吸ってなっ!」


 都合の良い時だけ見た目を利用させてもらおう、

 ここはソロでやらないと目当てのアイテムが高価すぎて、

 パーティーを組むと分け前とかでその人数分入手しなければいけなくなる。

 しばらく待ったのちようやく僕の番が来たので手紙を渡すと、

 この場に似つかわしくない清楚系お嬢様が慌てて引っ込んだのちまたしばらく待たされた。


「……お待たせいたしました、まずは冒険者カードを」

「はい、Cランクですが」

「奥でギルドマスターがお待ちです、どうぞこちらへ、わたくしは勇者専用受付二番、オリカと申します」


 通されたギルマス部屋では貴族か大臣かといった着飾りのナマズヒゲのおっさん、

 でも腕の太さや胸の筋肉から元冒険者だというのはわかる、大きな手で握手を求めてきた、僕の小さい手つぶれちゃう!


「俺はトッカンという名だ、ここのギルドマスターをしている、まずはレア魔石おめでとうといこうか」

「あ、ありがとうございます」

「見た事ないんでね、見せてもらえるか?」

「あ、はい、見るだけなら、渡しませんよ、まだ」

「おう!……ほう、こりゃあ凄い、やっぱ触っていいか?」


 慌ててしまう、色々と怖い。


「そんなに警戒すんなって、もしレア魔石を俺が奪ったら、かわりにこのオリカをやろう」

「……それ絶対、レア魔石の方が高価ってことですよね?」

「バレたか!まぁ冗談はこれくらいにして、なら次はカイラクオジサンの枕か」


 カイラクオジサンとはいつも恍惚の表情をしている人型の魔物でとにかく素早い、

 さすがに人と同じ大きさなのでメタルコモモほどの速さではないがそれでも風のように走る、

 この魔物がダンジョンで熟睡している時のみ、後頭部から水枕のようなものが出てきてそれを枕にして寝ている、という確認をした。


「でだ、その枕の中にある脂分がエリクサー精製の材料になる」

「カイラクオジサンの頭部とかじゃダメなんですか?」

「特殊な油だけが出てくるらしいからな、頭部を分解した所でうまくはいかないらしい、これもまあ魔力が関係してるみたいだがな」


 出現するのは地下八十七階付近で、人の気配にとにかく敏感らしい、物音なんて立てたら即いなくなる、

 幸いなことに本人いやそのモンスター自体はとても弱く素早さ特化だが逃げる時にコケて死んだりもするらしい、

 でも目が覚めてる時点で水枕は収納されてるか取れても意味はなくなってるらしいから、寝てる所をそーっと取ってもぐしかない。

 

「で、それ以外の材料、主にドラゴンの血と肝なんだが、買える事は買えるが……」

「とりあえずこれでお願いします、足りなかったら言ってください、あ、余ったらちゃんと返してくださいね」


 僕は手持ちの大金貨を全部渡す、ナヒタのギルマスの概算だと、おそらくまあ足りるでしょうとの事だった。


「わかった、じゃあ後はカイラクオジサンの枕さえ手に入れればすぐ作れるように手配しておく、長いと一か月はかかるぞ」

「逆に一か月しか猶予がないと思って頑張ってきます」

「それにしてもお前さん、十八歳でCランク、しかもレベル69かあ、この国に欲しい人材だな」

「……それエリクサー作るから言ってません?」

「いやいやそんな事は、まあ頑張ってくれ、魔導昇降機のパスポートだ、一か月何度でも使えるぞ」


 こうしてカイラクオジサン狩りがはじまったが、

 メタルコモモで鍛えられたうえレベル65勇者魔法サイレントヴィーナスを手に入れた事で、

 無音空間を作り出す事ができ、その空間では音がなくなりおそらく気配も消える、

 ちなみに魔法も無詠唱でない限り唱える事もできないのだがカイラクオジサンには関係ないか、

 魔法耐性とかどうなんだろう?レベルの高い魔法使いが何度かかければもしかして、と思ったがパーティーを組む余裕はない。


 とまあ話が長くなるので回想だし、はしょって言うとさっき僕に声をかけたケバケバ魔法使いグミィとなぜか組む流れになって、

 二週間ちょっとかけて僕の個人スキルでレベルを上げてもらったあと、

 何度も何度も逃げられるカイラクオジサンの寝そうな場所にあらかじめサイレントヴィーナスの魔法を仕掛けておき、

 眠ってる最中に近くにグミィさんを配置し、魔法が解けたタイミングでディープスリープをかけ眠っている間に枕をもぎ取った、


 「とったどーーー!!!」


 僕の分をギルドに渡し、無事終了したのだがまだ時間があるので無駄に六つ取ってしまった、予備と売る用。

 余裕ができたからなのかその後、グミィさんが夜な夜なお誘いに来るのには困った、彼女の熟れたテクニックは僕にはまだ早い、

 あとなぜかオリカさんも何度かスケスケランジェリーで部屋の前に立ってて……もちろんお帰りいただいた、

 という日々が続いてここカオナンに来て一か月丁度の日に、準備が整ったと連絡が来た。


「トッカンさん!全部揃ったって本当ですか!」

「おうよ!あとは精製なんだが金が足りねえ、予備の枕を売っても足りねえ」

「いえいいんです材料費だけで、あとは先方の仕事です」


 僕は事情を説明する、アヴァカーネ伯爵家の跡継ぎが病気で倒れているらしい、

 エリクサーが必要でまだ間に合うと思うが材料を全て送ればあとはあっちで借金してでも精製して使うはず、

 だから早急に、できるだけ早く届けて欲しいという事、全てトッカンさんは理解してくれた。


「そういう事ならわかった、俺じゃなく冒険者ギルド全体として責任を持って伯爵家当主本人に直接渡るようにしよう」

「よろしくお願いします!」

「警備費運賃もろもろ、残りの大金貨でいいな?」


 良かった……これで助かる、

 とてもあのクロウとかいう勇者が本当にエリクサーを渡すとは思えない、

 普通に考えればできるだけ早く飲ませた方が良い、一刻も争う状況で変な駆け引きや焦らしはしないはずだ。


(さて、最後の宿題を……)


 グミィさんに見送られてナヒタに戻った僕はこどもダンジョンを攻略した、

 というのも助っ人としてエリクサーが急遽必要なドワーフの僧侶カルハさんが来てくれたからだ、

 ミリシタン大陸のドワーフ王が危篤でエリクサーが必要だが亜人ということもあり貴重なエリクサーを譲ってくれる国はなく、

 ドワーフ唯一の勇者を筆頭に精鋭部隊は人外魔境シャマニース大陸へ素材を探しに行ったが間に合うかわからない、

 そのメンバーから漏れた、ドワーフに珍しい僧侶がクエストとして僕に協力を要請して、

 エリクサー素材であるレア魔石を取りに行く事になったのだが、僕も早くこの国を出たい。


「カルハさん、一発勝負ですからね」

「はい、わかっています、ボス戦に賭けます、この命を犠牲にしてでも」


 おさげを揺らす僕より少し背の高い、かわいらしいおさげの少女風だが八十歳らしい、

 ダンジョンのボスならレア魔石どころかエリクサーそのものを出す可能性もあるかもしれない、

 それにこどもダンジョンが討伐されればイクタマッキ村も廃村しなくて済むかも?と、

 僕はこの大陸本当に最後の最後に恩返しとしてダンジョン攻略のために深く深く潜った。


「コモモおいしぃ~~~♪」

「カルハさん……」


 そして地下四十階、ボスの扉を開けたとたん飛んできた風の刃、

 神童勇者コミィの首を刎ねたであろうその魔法の主はプレミアムピクシーだった、

 強さは準魔王クラス、僕はなんやかやあってカルハさんのサポートのもとボスをぶった斬った、

 そう、ナヒタの冒険者ギルドで託された、コミィのプライドソードを使って……。


「エリクサー、出なかった……」

「でも妖精の指輪とかいうのは出たよ、どこにあったんだろ」

「知らないわ、ねえメタルコモモ倒してよ」

「帰り道にね、ていうかボス倒したとたんその口調……」

「それでこの人、置いていくの?」


 コミィの亡き骸、お母さんに聞いたら埋めてあげたいっていうので持ち帰る事にする、

 アイテムボックスにボロボロの鎧とともに収納すると死体の跡に何か光ったものが見えた。


「これは……え、ええ、ええ???」

「うそっ?レア魔石じゃないの、アタシ欲しいっ!」

「待って待って、これはコミィのものなんじゃ」


 きっとボス戦の前に手に入れたんだろう、

 本当に神童だったんだ、持って帰りたかったのだろうが欲が出たんだろうか?

 ちょっと覗いてすぐ帰るだけ、とか子供が考えそうな事だが、だとしたらその好奇心がアダとなったのかな。


「これで、これで……」

「泣かないの、コミィのお母さんに相談してから!」


 後は兜&頭蓋骨も収納してイクタマッキ村に戻り、

 遺体を埋葬して墓標として兜を乗せた、

 レア魔石はまずコミィのお母さんに話したらそんな高価すぎるもの持ってたら危険ということで、

 ドワーフが国として買い取る事になった、そのお金で村を整備するらしい、良かった。

 

「いや待って」


 でもその前に僕にも半分権利がある訳で、と話を整理したら

 その分は後日、大金貨での支払を受ける事となり、足りない分は色んな特典をまとめて渡された、

 詳細は省略、どさくさでドワーフの女の子抱ける券とか入ってたけど使わないから!


「ありがとう、ありがとう、ありがとう」

 

 泣きながら何度も頭を下げるコミィのお母さんの声に混じって、

 子供の声で『ありがとう』とひとことだけ聞こえたのは、きっと気のせいだろう、

 そんなダンジョン攻略を終えて勇者便でナヒタへ、冒険者ギルドでカルハさんと別れる。


「ドワーフ一族は生涯、デレス様の功績を忘れません、それでは」


 カイラクオジサンの枕も売ってあげたから精製さえ急げば間に合うだろう、

 クエスト終了の報告をするとキャシーさんから嬉しい言葉が!


「おめでどーございます、デレスさんはBランクに昇格ぢましだーばちばちばち」

「ええ、ほんとにい?!」

「あだらぢい冒険者カードですー、では早速、ごごナヒタでBランクゆうぢゃさ”へのクエストが八つほど……」


 よし、僕も急いでこの大陸から逃げるぞ!


「じゃ、じゃあ、さいならー」

「あ”あ”あ”!!め”んごいゆうぢゃさま”ーーー!!」


 こうして僕は勇者便を乗り継ぎ、ミリシタン大陸を脱出するのだった。


 次回、回想おまけ

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