第5話 深淵の森と未開のダンジョン

 ドラゴンが到着したのは広く深い森の手前にある、

 簡易的な集落というか基地のような場所の中心だった、

 降りるとニィナさんがチップとして銀貨一枚を渡す、

 これで帰りは約束の時間にきっちり来てくれるうえに、多少遅れても待ってくれるらしい。


「ここは騎士団の訓練にも使われる所だ」

「確かにそういう感じの人が護っていますね」

「見知った顔だ、ポーションの補充は良いか?」


 ちゃんとアイテムも一通り売られているが、

 僕は普通にストックが大量にあるので、

 その中から適当に十本、アイテムボックスから出して

 ギルドで貰ったポーターバッグに途中でこっそり移し替えた、

 本当に危険な状況にでもならない限りこれだけで何とか凌がないと。


「早速行きましょう」

「そうだな、この深淵の森は中級から上級、レベルでいうとDクラスパーティか単騎Cクラスからの冒険者が稼ぐ場所だ、

 効率よくやれば魔石などすぐ溜まるが、調子に乗って油断するとあっさり死ぬ場所でもある」

「なるほど、勇者魔法のヒールが間に合わないとすぐポーションを使わないといけませんね」


 そういえばニィナさんのレベルっていくつなんだろう?

 僕と同じくらいかそれ以上か、闘っている所を今日はしっかり見させてもらおう。


「まずは目的地まで最短で走らせてもらう、ついてこられるな?」

「は、はいっ」


 僕は無詠唱で勇者魔法ラピットペースを自分にかけ素早さを上げる。


「では行くぞデレス」


 うわっ、速い!

 身体が大きい分、歩幅も大きいから速く走ればその分、スピードも上がるのだろう、

 僕も後ろをついていく、前のニィナさんが道を作ってくれてるようなものだから楽だなぁ。


「そろそろ魔物が出てくるが気にせずついてこい」

「はいニィナさん!」


 確かにスライムやらゴブリンやらリトルボアやらが向かってきたが、

 それらを相手にせず弾き飛ばすように森を駆ける、

 攻撃をまったく気にしないその姿はまるで鋼鉄をまとっているよう……

 これタンク職がやっている事だ、戦士系クラスで大きい盾をひとつかふたつ持って、

 最前線に立って敵の攻撃を一身に受けその間に味方が敵を倒すっていう、あれを肉体のみでやっている感じ。


(た、たのもしいっ)


 その背中を見て、僕の元婚約者だった女剣士に姿をダブらせる……

 そうこうしている間にオークの集落についた、この大きなならクエストの魔石を持っていそうだ。


「絶えず私の後ろに隠れていろ、いいな」

「はいっ!!」


 僕の返事と同時に背中の大きな大きなベルセルクソードを片手で抜く、

 いとも簡単に……オークたちが寄ってきて取り囲まれた、三十匹くらいか。


「ふんぬっ!!」


 華麗に大剣を振り回すとオークたちは次々と血まみれの肉塊へと変わっていく、

 あれだけ胴回りの太いオークが腹部から真っ二つになっているあたり、やはりあの剣の切れ味は凄い!

 僕は邪魔にならないようにニィナさんの背中を取り続けるのが精いっぱいだ、

 本当、身体が小さくて小回りなのを今ほど良かったと思った事は、ない。


 ズバッ、ズバッ、ズババババッッ!!!


 しばらく舞うとあっという間に全滅させた、

 完璧にあの剣を使いこなす様は素晴らしすぎてこれだけでお金が取れそう、

 昨日の僕の無様な、剣にいいように扱われているような、不格好な動きとはまるで違った。


「さあ、魔石を」

「は、はい、そうでした!しばらくお待ちください」


 僕が全部取ろうとするとニィナさんも手伝ってくれる。


「いやこれは僕の仕事じゃ」

「何を言っている、同じパーティではないか」


 うう、前のハーレムパーティーとはえらい違いだ、勇者兼雑用係だった頃とは……

 二人で魔石を取り出したのち集めると三十四個になった、最初でこれだと今日一日で終わりそうだ。


「ポーターバッグに入るか?」

「あ!……はい、入れておきます」


 すでにポーションでいっぱいにしてしまったアイテムバッグの口を開け、

 そこに勇者スキルのアイテムボックスの入り口を作り魔石を放り込む、

 見た感じアイテムバッグに入れてるように見えるから大丈夫なはずだ。


「全部入ったか」

「ええなんとか」

「では行くぞ」


 あれ? 死体処理は? と思ったが迷わず先へ急いだ、

 あそこまで肉がグチャグチャだと確かに食べる食材としても売れない、

 魔法使いがいれば燃やして処理もできるが僕らでは放置しておくしかないか。


「次はビッグアリゲーターの群れだ」




 日が一番高くなった頃、すなわちお昼だ、僕らは開けた場所についた。


「ここが後半戦の舞台、未開のダンジョンだ」

「入り口に魔法の封印が施されていますね」

「ああ、騎士団の勇者しか解けない魔法だ、私はまだ入れるはずだ、その前に」


 アイテムボックスからサンドイッチをたくさん出しはじめるニィナさん。


「昼食にしよう、ここは封印の魔方陣があるおかげで魔物は近寄れない」

「は、はい、お水を汲んできます」

「水ならすでにある、遠慮せずに飲め」


 水瓶とカップまで出してくれる、準備が良い、これこそ本来はポーターの仕事なのに……

 豪勢なサンドイッチは今朝、あの豪華な宿に作らせた感じだ、遠慮なくいただく、うん、うまい!

 僕の方には肉の入ってないのを渡してくれたみたいで食べやすい、高級薬草は魔力が回復する味がする。


「んっ、すみませんニィナさん、僕、まだ何もしていないのに」

「いや後ろにいてくれるだけで心強い、

 私の傍に居て巻き込まれなかったのはデレスが初めてかも知れん」

「そ、そうでしたか」

「私の戦い方は同僚によくバーサーカーと呼ばれてな、

 敵も味方もお構いなしだ、だから完璧に隠れてくれるデレスは素晴らしい」

「ほ、褒めていただけて光栄です……」


 褒められ慣れてないとこんな言葉でも嬉しいものだ、

 前のパーティーでは何でもできて当然、

 完璧にこなしてこそ当たり前みたいな扱いだったから。


「魔石も百を超えたな」

「はい、さっきのフォレストタイガーの群れで百九個になりました」

「なぜかいつもより動きの切れが段違いで良くてな、

 デレスが居てくれて遠慮なく戦えるからだろう、感謝する」


 あー、それは勇者スキルの中でも僕だけ特別な効果のおかげだ、

 そのあたりも含め僕の過去と能力について、お試しパーティー期間が終わったら打ち明けようか、

 と考えながら昼食を終えるとダンジョンの扉に手を突くニィナさん、ごにょごにょと魔法を呟く。


「~~~~~……開け!」


 最後の一言で浮かび上がった魔方陣が消え、扉が開く、

 中からさっそく人ぐらいのサイズのデビルバットが五匹くらい飛び出してきた、

 ベルセルクソードで容赦なく切り倒す、魔石だけが傷つかないのはあの剣の特殊な特性なのかも知れない。


「さあ入るぞ、魔王の居るダンジョンでは無いはずだから安心してくれ」


 そう言いながらベルセルクソードを鞘ごと背中から外しマジックボックスへ、

 代わりに普通サイズ、といってもニィナさんのサイズだから普通より大きい勇者用とわかる立派な剣を取り出した。


「それは……!」

「プリンセスソードだ、狭いダンジョンではベルセルクソードは邪魔だからな、これで行く」


 よくよく考えたらそりゃそうだ、とついていく、

 低レベル勇者でも使えるライト魔法で灯りを照らしながら奥へ……

 デビルバットだけではなくヌートマウスといった魔物も向かってきたが今度は的確に急所を突き倒す、

 うん、これなら死体も回収できる、何も言われずとも黙ってアイテムボックスへ収納、っと……

 これなら後でじっくり解体して魔石を出せば良いからテンポ良く進める、うん、思ったより早く終われそうだ。


「行ける所まで行くぞ、引き返す判断は任せた」

「はいっ!」


 ダンジョンは下へ行けば行くほど当然、敵は強くなる、

 クイックスパイダーというとんでもなく素早い蜘蛛系モンスターもプリンセスソードで針の穴に糸を通すように急所を刺し、

 ハイセンチピードというグロい虫系モンスターも臆する事なくぶった斬る、ほんと、僕のする事がない。


「……楽しくなってきたな」

「そ、そうですか」

「ふふふ、デレス、驚くのは冒険者ギルドに帰ってからだぞ」


地下十階、十一階あたりになると多少歯応えも出てきたがそれでも難なく突破し、

十二階に降りるとダンジョンの雰囲気が変わる、高さのある、最下層独特の魔力に満ちたフロアだ。


「ダンジョンの特性は知っているな?」

「はい、人が城や街を造るように魔物が造るのがダンジョンですよね」

「そうだ、そして大規模なダンジョンには魔王や幹部級の魔物が居るのと同じように、この程度のダンジョンでもボスは居る」

「今までのようにはいかない感じですよね」

「私の魔力が尽きたらポーションを頼む、命を預けたからな」


 あーこれはノーガードで斬り続けるつもりだ、

 攻撃を受ければ勇者ヒールを自分にかけて攻撃の手を緩めない、

 そして魔力が尽きたら僕から貰うポーションで……

 飲むだけじゃなく身体にかけても効果あるから僕にぶっかけて欲しいのだろう。


(……本当にピンチになったら僕のプラチナヒールを無詠唱でかけよう)


 いかにもボスの居る扉といった所まで到着すると、

 少し集中したのち中へ入る、そこにいたのはグレートサイクロプス、

 広いフロアはいかにも最終決戦場といった感じだ、大きな棍棒をふたつも持って殴りかかってくる!早い!


「くうっ!!」


 素早い動きて振り下ろされた棍棒をふたつまとめて弾くが防げただけで飛ばす事まではできない、

 遠慮なく次々と振りおろし続けるグレートサイクロプスの腕、動きが素早すぎて防戦一方だ、

 僕の睨んでいたニィナさん最大の弱点が露呈した瞬間だ、それでも防ぎ切れているのは間違いない、

 剣を使ったタンク職みたいだ、だとすると僕がこの隙にプライドソードで倒すべきなんだろうけど、もうない……

 勇者を捨てた僕が今、できる事は……勇者とばれずに勇者魔法を使う事だ! と無詠唱で敵にディープスローの魔法をかける!


「!!!」


 魔物の動きがあきらかに鈍った隙を見て首を刎ねる!

 本来ならよほどタイミングを合わせて、捨て身覚悟でくり出す一撃なんだろうけど、

 あそこまで相手の手が緩めば簡単に仕留められる、こうしてこのダンジョンは攻略完了だ。


「ふう、終わった」

「最後はあっけなかったですね、さすがニィナさん」

「……これもアイテムバッグに仕舞えるな?」

「はい、刎ねた首も一緒に、これだと大型の魔石が取れそうですね」

「ミッション完了だ、出来すぎなぐらいだ」


 アイテムバッグに入れるフリしてアイテムボックスへ収納する、

 ちいさなバッグに吸い込まれるその様は不自然に思われないかドキドキするが……


「さてデレス、誰も居ない所であえて聞こう、君は、勇者だな?」


 ばれてるううううううううう!!!!!

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