第14話 最終手段と最終決闘

 このあとも『箱の中身はミミックじゃろなゲーム』や『叩いて被って魔石でポン』など、

 わけのわからない試験につき合わされたのち、

 ようやく終わったのか冒険者ギルドの受付の所まで戻ってきた、受付嬢も落ち着いたようでやってくる。


「テレンス様、もう試験は終わりましたか?」

「おう、もう昼飯時だしな、デレス!試験の最終結果を発表する」

「はい教官!」


 しばらく溜めたのち発せられた言葉は……!


「不合格!」


 知ってた!!


「このような出来の悪い受験者は初めてだ、不合格!」

「そんなぁ」

「あのテレンス様、ポーター試験は形式的なもので、あってないようなものでして……」


 受付嬢さんがすごくまっとうに問いただしてくれている。


「いや、まがりなりにも試験だ、我が試験官を受けた以上、その結果で確定のはずだ」

「わかりました、ではデレスさん、今から再試験を行いましょう、試験官は私が……」

「待て待て、今日の試験官は私だ、勝手な事をされては騎士団との関係にひびが入るぞ」

「つまりテレンス様は何か事情がお有りになってデレス様をポーターにしたくないのですね?」

「試験結果は試験結果だ!再試験などは許さん!」


 ニィナさんが受付嬢に頭を深く下げる。


「妙な事に巻き込んですまない、もしデレスがポーターになれなかったら私を嫁にするとか言い始めてな」

「まあ気の毒ですね、いますねたまに、謎の理論で自分の思い通りにしようとする男性」

「そもそもなぜポーター試験などという制度が残っているのだ?」

「そうですね、一番は死なせないためで、講習の面が大きいです、あとは許可制だとしても少しはハードルがないと、

 変な人がポーターになって実は悪人でした、となるのを避けるため、つまり面接するようなものですね」


 このおっさんの遊びにつき合わされたのはいいが、

 それは合格するのが前提であって、落とされる理由付けでしかないならやらなくても良かった。

 ……ちょっとは、ほんのちょっとは楽しかったけど。


「ニィナ、約束は約束だ、元々お前は私の嫁になるために騎士団をクビになったんだ、いいから来い」

「やはりそういう事だったか」

「あのすみません、僕が正式にポーターになれば、それでいいんですよね?」


 僕は肩を落とし、とぼとぼと負け犬のように勇者専用受付へ行く。


「……すみません勇者です、退役勇者ポーターを希望します」


 それを見て驚きの表情のテレンス。


「お前、勇者だったのか!」


 その声を背後に感じながら冒険者カードをテーブルの上に置く。


「東の大陸の、Aクラス勇者様でしたか!本当によろしいのですか?」

「ええ、こっちの大陸でも退役ポーター制度ってありますよね?」


 説明すると、大怪我や年齢的に勇者を続けられなくなったが、

 まだまだポーターとしてなら冒険者を続けられるという人のための制度で、

 無理してクエストをして勇者のランクを維持する必要なく、

 ポーターのまま一部の勇者特権を受けられ続けるというものだ。


「はい、しかし一応理由はお聞きする事になっていますが」

「気力の限界かな、精神的なものということにしておいてください、あ、これ昨日使った仮ポーター冒険証です」

「……わかりました、こちらの情報を新しいポーターカードに足しておきますね」

 

 真新しい冒険者カードを渡される、

 勇者ポーターと書かれているが個人的にはポーター勇者のがよかった。


「勇者ポーターの方は勇者のクラスがC以上の方は必ずC級からのスタートになります」

「……ほんとだ、Cランクの冒険者カードだ」

「あとこちらも更新しておきましたのでお使いください」


 スッと勇者カードの方も渡される。


「え、いいんですか、回収しなくて」

「これはお持ちください、必ず貴方の今後の、冒険者生活の役に立つものですから」

「でも規則が」

「こちらに、冒険者ギルドにプラスにしかならないような行為は黙認されます、

 ただあまり二枚ある事は言わないようにしてください、おおっぴらにして良い話ではありませんから」


 僕は頭を下げて礼しながら受け取る。


「あとくれぐれも盗まれないように、

 冒険者カードを奪っての成り済ましは重罪で最悪処刑もありえますから、

 もし貸しただけでも相手が偽ってその人物だと使用した場合、両者同罪になりえます」

「わかりました、確認なんですがAクラス勇者って移動が制限されますよね、勇者ポーターもですか?」

「えっ?」

「えっ?」


 ニィナさんがつかつかやってきて説明してくれる。


「すまない、事情を知る私が説明しよう、デレスの居た東の大陸では、

 Aクラス以上の勇者は囲い込みのためにあまり自由に移動ができないらしい」

「……そうでしたか、ご安心ください、このモバーマス大陸では自由な国が多く、ほとんどそのような事はありません」

「えっ、ほんとに?」

「はい、もちろんそういう国、出入りが厳しい国はあるにはありますがほんの一握りですし、

 そういった国でも中立公平の冒険者ギルドがお護りします、また行く前に、事前に情報をお知らせしますから」

「じゃあ、変にAランクだからって気にする必要は……」


 コクリと大きく頷くニィナさん!良かったー!


「勇者ポーターの方は依頼が非常に多いので覚悟してくださいね」

「う、そういうのが嫌で勇者辞めたのもあるのに……」

「デレス安心しろ、今後は私がリーダーとして冒険者ギルドでの手続きを任せてもらおう」


 あらやだニィナさんかっこいい。


「えっとそれではデレスさん」

「はい」

「昨日うちの職員がお渡ししたと思うのですが、一倍のポーターバックをお返しください」


 それは回収するのかよー!!

 まあ使い回しみたいだし、勇者には元であってもアイテムボックスがあるからね。


「手続きは以上です、続きまして勇者ポーターへの依頼なのですが……」

「ご、ごめん、ちょっと待たせてる人がいるから一旦ここで切ります、ごめんなさい」

「いえ構いません」


 くるりと振り返るとニィナがわざわざ腰を下げてまで僕に目線を合わせる。


「良かったのか、勇者を捨てるんじゃなかったのか」

「はい、確かに僕は自分のプライドとして、もう勇者に頼りたくはなかった、でも、でも」

「でも?」

「男のプライド、冒険者としてのプライドより、ニィナさんの方が、大切ですから」


 その言葉を聞いたのち、ニィナさんは熱い熱い口づけを……人目もはばからず。

 しばらく僕がじたばたするも構わず蹂躙され、キスとしては長い長い時間ののち、

 ようやく解放された僕は気を取り直し、貰いたての『勇者ポーター』と書かれた冒険者カードをテレンスに見せる。


「はいポーターになりましたよ、文句は無いですよね」

「うぐぐぐぐ……見せつけおって!許さん!認めん!俺は許さんぞー!」

「許されないのは貴様だテレンス」


 聞いたことのない老けた声に顔を向けると、

 白チョビ髭のいかにも偉そうに着飾った爺さんが立っていた


「さ、宰相殿!!」

「すでに『影の盗賊団』は確保した、全て自白したぞ」

「なっ、なな、なんのことですかっ」

「お前の部隊と盗賊団のメンバーが何人もかぶっていたとはな、この騎士団の面汚しが!ひっ捕らえよ!」

「く、くそおっっ!!」


 宰相と名乗った爺さんの後ろから兵士がいっぱい、

 かくしてテレンスは確保された、

 ニィナさんがテレンスの所へ……


「どうだ今の気分は」

「……降参だ、なぜこうなった」

「お前の部下がお前のいう事を聞いたように、私のかつての部下も、私のために動いてくれたのだ」


 テレンスをひっ捕らえた兵士がニィナさんに敬礼している。


「くそお!最後に、最後にひとつだけ頼む!この男と、決闘させてくれ!」

「僕と?うわ、見苦しい!」

「男の情け、騎士団長の情けだ、もし負けたら素直に洗いざらい、全てを話す!でないと納得いかない、な?」

「デレス、奴はこんなことを言っているがどうする」

「……いいですよ、どうせ暇だし」


 こんな状態のテレンスに負けるとは思えない、

 宰相さんの許可ももらいさっきポーター体操を教えてもらった地下へ、

 手にするのは互いに木剣、僕は勝っても負けても何も変わらないから気楽なものだ。


「では私が合図しよう」


 ニィナさんが中央に立つとデレスが場所をずらす、

 何か気になるのか?と思い僕もずれるとニィナさんもずれる……

 この分なら勇者魔法も必要ないな、とのんきに構えていると……


「……はじめ!」


 その言葉と同時にテレンスは木剣を捨て、

 アイテムボックスから何か筒を取り出した!

 その先の水晶が光り、大きな魔方陣を浮かび上がらせる!


「デレス!避けろ!」

「しまった!罠か!」


 その言葉もむなしく僕とニィナさんは魔方陣の円の中にいた!

 そして光が溢れ出し、僕らはその中に吸い込まれて行く!


「さあ!二人して地獄へ行ってこい!ぶははははは!!」


 そんなテレンスの言葉を最後に僕らは……どこかへ転移されていた、

 気が付くとそこはダンジョン、しかも天井の高さや周囲の壁から広さでボス部屋とわかる、

 僕とニィナさんの目の前にいたのは黒く毛並みが恐ろしいほど艶々した巨大豹型モンスターだ。


「デレス!まずいぞ」

「オーラでわかります、魔王クラスですよね」

「ああ、あいつはおそらく深淵の森、最奥ダンジョンのボス……セクシーパンサーだ」


 二人の運命やいかに?!

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